雨に濡れながら今日も誰かを待っている
僕は悪魔に質問する
そんなに濡れて大丈夫かと
悪魔は答える
地獄の雨に比べればどうという事はない
へえ、と僕は言う
悪魔は続ける
人間よ、お前は質問したくなったな。地獄に降る雨はどんなものかと。
僕は首を縦に降る
悪魔は言う
地獄の雨は燃える油で出来ている
亡者の嘆きと痛みが地獄の熱で舞い上げられ地獄の天蓋にこびりつく
重さに耐えきれなくなると剥がれ落ちてきて
地獄の重たい空気と擦れて火が付くのだ
雨は人間の時間でいう何ヶ月も降り続く
その硬く尖った燃える雨粒は悪魔の皮膚さえ削り取る
それにくらべれば、こんな物はそよ風のようなものだ
僕はなるほど、と言う、そして続ける
でも傘を使ってみるのもなかなかですよ
僕は自分の傘を差し出す
家、すぐそこなんで、良かったら
悪魔はしばらく黙ったままこちらをみている
僕は言う
便利ですよ、傘、あんまり大きくないんであれですけど
悪魔は傘を受け取ってくれる
僕は、じゃあ、と言って走り出す
突き当たりを曲がる時に少し振り返ると、指でつまんだちっちゃな傘を悪魔が見つめていた