会社に入って10年くらい経った頃、それなりに仕事もできるようになりつつ、やりがいや誇りを探すようになった頃、一人部屋の寮の部屋(それまでは先輩と二人部屋だった)に「オトナ買い」して来て読んだのが、『銀河鉄道999』だった。決められたレールの上を時間を守って走って行く鉄道は無意識や夢分析の世界では「人生」や「仕事」を表している、と聞いたことがある。真っ暗な宇宙の中を見えないレールの上を走って行く「銀河鉄道」は、当時の自分の仕事と重なったのかもしれない。つい先日亡くなった松本零士さんは、

この本『君たちは夢をどうかなえるか』のまえがきで、80歳を迎えた自分の夢は、当面の目標は、宇宙に出て地球の姿をこの目で確かめることです、と書かれている。亡くなられて身体を離れたその魂は、大気圏を抜けて、宇宙から地球を眺められたことだろう。その眼差しは、まるで『宇宙戦艦ヤマト』の沖田艦長の最期の時のようだったに違いない。そして先日本屋さんで、たまたまこの本を見つけた。『君たちは夢をどうかなえるか』。

「夢はあるか」でもなく「夢を持っているか」でもない、「どうかなえるか」だ。私の今の夢は、麻痺した左手を動かして、ギターを弾き、これまでお世話になった病院の先生から療法士さんから、各種施設に、お礼の唄を届けることだ。もうどこにどの唄か、も決まっている。「ギターを弾けるようになりたい」と言って弾き方やそのためのリハビリ方法を一所懸命に考えてくれた施設のOTさんは、すぐにギターを買って来て、リハ室の一番よく見える場所に飾ってくれた。その施設を最後に去る日、そのギターの裏側に、

「いつか弾きに来る!」とマジックで書き殴った。

「時間は夢を裏切らない」。999の中で何度も使われたこの言葉が、今の私には響いてくる。若い頃の私を助け、励まし、障害者になった私にも本屋の棚の片すみから声をかけてくれる。松本零士先生、お会いしたことがあるのは一度だけだが、作品が大きなチカラをくれる。

「時間は夢を裏切らない。」

「夢も時間を裏切ってはならない。」