窪美澄先生の直木賞受賞作『夜に星を放つ』 5篇の短編小説集です。
※以下、内容にふれます。ご注意下さい。
主人公 綾(32歳) 会社員
2020年パンデミック第一波の折、婚活アプリにて2歳年上の「麻生さん」と出逢います。
自宅でのリモートワークの傍ら、アボガドの種の水耕栽培を始めました。
パンデミックが落ち着き始めた、その年の夏頃から、麻生さんと外で逢うようになります。 アボガドから白い根のようなものが見えてきました。
交際の進展とアボガドの成長がリンクされた描写が素晴らしいです。
その夏、泊りがけで行った海で、綾は2年前に急死した双子の妹「弓ちゃん」のことを麻生さんに話します。
とても仲がよかった大切な弓ちゃん 2人で眺めた夜の空
「双子座は見えるかなあ」
「カストルとポルックス 冬になると見える、双子座の星の名前だよ。二つ並んで光ってるんだ。冬になって、双子座を見つけたら教えてあげる」
麻生さんが真夏に冬の約束をしてくれたことが嬉しかった。
その願いは叶わずに、麻生さんとの関係は終焉を迎えます。
年末年始、綾はパンデミックの影響で実家に帰ることが出来ませんでした。
苦労しながらも、アボガドを育ててきた過程で、両親から受けてきた愛の深さを思い知ることとなります。
弓ちゃんの命日を前に、実家に電話をし
「私、弓ちゃんの分まで生きるからね。結婚もするし、子供も産む」
「そんなこと考えなくていいの。綾は綾の人生を生きなさい。どんな生き方をしてもお母さんはいつも綾の人生を応援するよ」
涙が、顎を伝って床に落ちた。アボガドのプランターは私の部屋で一番日当たりのいい掃き出し窓のそばに置いた。
パンデミックの行く先がまだ見えづらかった頃、「どんなことが起こっても生きていかなくちゃ」
綾は大切なアボガドの前で誓うのでありました。
