幻想水滸伝
屋梁落月
 
 
 
 
「―――…ユリウス?お前、ユリウスじゃないのか!?」
「いいえ」
「何が『いいえ』だコノヤロウ!俺に会いに来たんだろ!?」
 満面の笑顔で、そこに立つ少年を羽交い締めにする。
 少年は腕の中で苦しそうに呟いた。
「………人の話を聞かないところはどうやら変わっていないようですね」
「あん?」
「僕はエンといいます。ユリウスは僕の父です」
「……………へ?」
「“はじめまして”、ビクトールさん」
 そう言って、その少年はひどく綺麗に微笑んだ。
 
 

 * * *
 
 

「その服、グラスランドの物だな?」
 温かいスープを差し出しながら、椅子に座るエンの服をまじまじと眺める。
「はい。最近まで向こうにいたので。―――…いただきます」
「にしても本っ当にアイツそっくりだな。驚いたぜ」
「よく言われます」
「………そんで?母親は誰よ?」
 身を乗り出し、からかうような笑みを向ける。
「それについては父から固く口止めされていますので」
「かーっ!そういうところまで不気味なくらい似すぎだっつーの!」
「すみません」
「謝んなっ。――――……で?」
「?」
「アイツは元気なのか?」
「はい」
「本当だな?」
「あの月に誓って」
「そうか。それならいいんだ」
 窓際に寄りかかり、闇夜に浮かぶ月を見上げる。その研ぎ澄まされた白光が誰かに似ていて、ふっと目を細めた。
「……ビクトールさん?」
「お前とこうやって話していると、まるでアイツがそこにいるみてぇだ」
「………」
「……思い出すな、あの頃を」
「父から話は伺っています。熊みたいだけど頼りになる戦友だと言っていました」
「熊は余計だっての。ったくアノヤロウ、いったい何を吹き込んでるんだか……」
「…くす」
「笑うなそこ」
「ふふ、すみません」
「よっし!今夜はパーッと飲もうぜ!俺の武勇伝をたっぷり聞かせてやるよ!」
「僕は未成年ですから、お酒は遠慮しておきます」
「なぬぅっ!!?」
 
 

 * * *
 
 
 

「それでは僕はこれで。ご馳走様でした」
「おう!またいつでも遊びに来いよ!」
 ぐしゃぐしゃと乱暴に頭を撫で回すと、どこか困ったような微笑が返ってきた。
 ぺこりと礼儀正しくお辞儀をしてから、エンがゆっくりと歩き出す。
「――エンっ!」
 振り向いたエンに小さな酒瓶を放り投げると、彼は見事にそれをキャッチした。
「次は付き合ってもらうからな!今度こそお前を酔い潰してやる」
「!」
「――…と、アイツに伝えておいてくれ」
 にいっ、と白い歯を見せて笑うと。
 エンが目を伏せて僅かに口元を緩めたように見えた。
「もういい歳なんですから、お酒は控えた方がいいですよ」
「ほっとけ!」
「………でも」
 くるりと背を向けて。
「必ず伝えます」
 彼はよく通る声ではっきり告げると、一度も振り返ることなくその場を後にした。

 その小さな背中が見えなくなるまで目で追って。
「……………待ってるからな」
 気づけば無意識のうちに呟いていた。
 
 
 
 
  END