自力正道 陽気報徳
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吾等の信条(平成22年度の日本拳法優勝大会パンフレットより)

一、吾等は自力正道の精神を養うために拳法を学ぶ。
一、吾等は陽気報徳の心をもって(世のため人のためにつくし)世界平和に邁進する。


 「虎は死して皮を残す」という。人は死して何を残すか。残したものによってその人の価値は決まる、と私は思う。


 平成19年2月11日、天寿を全うされた日本拳法協会創設者・森良之祐最高師範は、私達に、拳法を通していかに立派に生きるかという姿と、拳法の技術・高邁なる精神等、多くの価値あるものを残された。その中の一つである「吾等の信条」について、その原点を探ってみたい。


 森先生は、徳島市の大半が焼け野原の時代だった昭和22年7月に、徳島市眉山町大瀧山・春日神社の絵馬堂を借り受け、道場を開いた。負け犬根性の横溢した世俗に抗して、情熱を傾けて鍛錬に、指導に精進する日々を送る。


 昭和28年9月、日本拳法会(大阪・澤山勝会長)より全国へ普及の使命を受け、上京。年内を出でずして解任の試練に合うも、昭和30年5月12日、日本拳法協会を創立し、大学拳法部の育成と、警察逮捕術、陸上自衛隊の徒手格闘に参画する。その後、昭和を代表する様々な武道家・格闘家と交流を持つ。もとより森先生自身も、現代日本武道史にすでにして名を刻む存在であった。


 昭和46年1月末、森先生45才の時、沖正弘先生(沖ヨガ開祖・1921 ~ 1985)より、次のような助言と激励を頂いた。「講道館柔道は〝精力善用・自他共栄"、少林寺拳法は〝力愛不二"を唱えている。森先生は今こそ修行者全員に、志すところのものを示すべきだ」と。帰宅して、拳法を始めた時から協会創立以来の様々な出来事、日本拳法を通じて求めてきたものとは何か、人間として特に持たねばならぬ心の在り方について考えた。


 「己の真の姿を見極めることが正道に通ずる。不足のないこころが陽気を生む」を二本の柱として、自らの力を鍛えて正しい道を求め、実践し明るい社会をつくるために、真心をもって体当たりする、という目的を陰陽交流の八文字にこめて「自力正道 陽気報徳(じりきしょうどう ようきほうとく)」とした。


 その翌日、森先生は若山嘉成氏(幸男・1926 ~ 1999)を四谷のお宅に訪ねた。同氏は日本大学法学部新聞学科卒業後、日本の宗教、特に新興宗教を研究した宗教評論家として活躍。晩年は(社)宗教放送協会会長を務めている。森先生が「自力正道 陽気報徳」の八文字の字構成を見せると、わが意を得たりと喜ばれ、更に、このようにしては如何かと提案されたのが、「一、吾等は自力正道の精神を養うために拳法を学ぶ。一、吾等は陽気報徳の心をもって(世のため人のためにつくし)世界平和に邁進する」という〝吾等の信条"だった。森先生はこの草案を持って大阪へ行き、黒山高麿先生(洪火会会長)に報告すると、「洪火会の精神は君が継いでくれるのだね」という身に余るお言葉を頂いた。昭和46年2月4日、森先生曰く「有難い春立つ日だった」と。


 その後、森先生の友人である三田さんに見てもらうと、「いいね。自から力は正道に到り、陽気は満ちて徳に報ず。また、陽は自から気力を発し、正に報ゆるは徳の道なり」と上下左右に読み分けた。


 このようにして、日本拳法協会の〝吾等の信条"は生まれました。拳法を学ぶ者は、〝吾等の信条"をしっかりと心にとどめ、斯道の発展を期すとともに、自らの人生を豊かに歩んでもらいたいと思います。


 最後に、〝吾等の信条"には、次に述べる細訓があります。



細 訓


一、拳法を学ぶ者に前後の序列ありといえども同門に差別なし、同門和敬なすべし。
二、世界平和に役立つと判断したら機を逸せず身命を賭して慈悲を行うべし。
三、慈悲は人情にあらず、報酬を求めずの正義行為をいう。
四、拳法者は常に無心を考えよ。怒り闘争の心を捨て無心の極みに達せば、自ずと

  神気澄み不動無敵の境地を得る。
五、暇あれば禅定(ぜんじょう)せよ。禅定は宇宙に辺満する大生命を吸収する最短の

  道なり、大生命触れれば百倍の力を得る。
六、過去と未来を思い患うことなかれ。眼前の問題に直入(じきにゅう)せよ。正気を

  保ち一剣天に倚れば万難を排す。
七、指導者は王道を心掛くべし。王道とは陽気報徳の心を養う道と心得るべし。拳法は

  ちからをもって征する道を敬遠す。
八、拳法者は常に陰の極へ向かうことを心掛くべし。陰の極へ近づくほど、大宇宙の

  生命力を多く得るものと心得よ。
九、陽気報徳の実践を怠るなかれ。怠れば百年の苦心修業も一瞬にして崩れ、無に

  帰することを銘記すべし。




海上自衛隊「特別警備隊」での死亡事件に思う(平成21年度の日本拳法優勝大会パンフレットより)

日本拳法と自衛隊徒手格闘


 平成13年11月15日午後、この日、森先生と私は自衛隊体育学校へ向かい、校長 水口 勇 陸将補と、第一教育課長時代より私と親交のあった副校長 呑田 好文 一等陸佐を訪ねた。


 校舎に近づくと、「エイ、ヤー」気合の入った不思議な(?)声が聞こえてきた。グランドで徒手格闘の基本技の訓練を、女性隊員の集団が行っていたのである。森先生の指導に忠実な、左中段の構えから左面突き右面突き。この光景を見た時、森先生は隣にいた私に「山田先生、私の技術はここまで浸透している。うれしいものだ」と、しみじみと語られた。


 この日の校長室では、今までは陸上自衛隊員のみ徒手格闘の訓練をしていたが、これからは陸、海、空、すべての隊員に徒手格闘の訓練を実施したい、その方向に進んでいる、という話も出た。日本拳法が徒手格闘として活用され、陸、海、空、全隊員に自衛隊の要求する武徳の涵養と士気の昂揚に通じてくれたらと、会話は一層弾んだ。


 森 良之祐 先生が指導された日本拳法は、現在、警察庁では逮捕術、自衛隊では徒手格闘として活用されている。


 森先生と自衛隊徒手格闘とのかかわりについて、歴史的事実に基づいて振り返ってみたい。


 かつて日本拳法協会の数ある団体のうち、実技面でかなり激しく実践的な技術を身に着け充実していたのが、各大学拳法部であった。以下、「拳法とともに生きる」より抜粋する。


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 平井學公安調査庁第一部・第一課長がこれを見て、「自衛隊の訓練に最適だ」と、島田豊防衛庁人事課長をご紹介してくれました。これが私の自衛隊出入りのはじめです。


 陸上自衛隊幕僚監部第五部学校班、次いで久里浜にある陸上自衛隊通信学校体育科へ出かけ、同行した慶大、明大、立正大の選手と拳法を紹介(昭和32年11月26日)。ここで陸上自衛隊徒手格闘術を研究中の山本岩雄一尉、千葉博司二尉にお会いした。(中略)私は昭和29年以来、警察逮捕術の研究会部外講師となり、各府県警察柔剣道師範と技術交流して得た経験を活かして、陸上自衛隊徒手格闘術の教範作成に協力をした。


 33年12月18日、徒手格闘術教範審議が自衛隊通信学校体育科で行われた。私は早稲田大学教授で合気道師範の富木謙治先生とともに部外講師として参席し、基本格闘術となる、①構え、②進退と体捌き、③突き、打ち、④蹴り、⑤受け技についての諮問にお答えした。


 翌年6月陸上幕僚監部によって「徒手格闘草案」ができ、自衛隊の教育法に基づいた訓練体系が確立しました。


 37年5月、自衛隊体育学校が開校し、毎年多数の格闘課程研修の隊員が入校した。


          (森 良之祐 著「拳法とともに生きる」)
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 これが森先生の指導する日本拳法と自衛隊徒手格闘との初めの関わりであった。その後、体育学校を中心に全国の部隊へ指導に赴くこととなる。


許しがたい特警隊事件


 前置きが長くなったが、今般、私にはまったく理解しがたい、強い憤りを感じる事件が起きた。私は自衛隊の部外者ではあるが、日本拳法を指導する者として、また、森先生の弟子の一人として、今回の事件について紙面をお借りして、所感を述べてみたいと思う。


 まず事件の概要については、10月13日の産経新聞の報道によると、「海上自衛隊の特殊部隊『特別警備隊』の隊員を養成する第1術科学校(広島県江田島市)の特別警備課程で9月、同課程を途中でやめ、潜水艦部隊への異動を控えた男性3等海曹(25歳)が、一人で隊員15人相手の格闘訓練をさせられ、頭を強打して約2週間後に死亡した。7月にも別の隊員が異動直前の格闘訓練で、隊員16人の相手をさせられ、歯を折るなどの負傷をしていた」との事件が報じられ、この件に関して「これは訓練中の事故ではなく、脱落者の烙印を押し、制裁、見せしめの意味を込めた集団での体罰だ。」と、遺族は強く反発しているという。その後10月22日、この件に関して防衛省は中間報告で「集団暴行との見方を明確に否定するには至らなかった」と公表している。


 こんなことで果たして日本の海の守りは大丈夫なのか、大いに疑問である。


 拳法の指導法でいえば、絶対的強さを誇るものが多数を相手にすることはあっても、その逆は有り得ない。生・死を分ける闘いを想定しての防具稽古はいつも危険を伴う。強くなるには限界を超える厳しさが必要だが、強さを得た指導者には高い人格と優しさが備わっていなければならない。


 かつて森先生は、先の大戦の終戦時に、「敗戦後の兵舎で見た多くの上官、戦友の意気地のなさには驚いた。仕返しを恐れての卑屈な態度は、階級章と天皇の名のもとに威張っていた奴ほどあさましい」と述べている。


 日本民族の持つ短所、それはいざというときの意気地なさ、集団として群れる、空威張りをする、既得権益にしがみつく、等。日本民族の持つ短所を打破するために、森 良之祐 先生は妥協することなく最後まで戦い続け、私たち日本拳法を学ぶ者たちに進むべき道を示された。それは日本拳法の信条である「自力正道・陽気報徳」を求めてやまずの姿勢であったと思う。


 〝本当のものが分からないと、本当でないものを本当にする"だから本物を求めよう。国の名を流派名にする日本拳法を学ぶ私たち協会は、森先生の技術と精神を正確に後世に伝える義務があると思っている。


 今回の海上自衛隊「特別警備隊」での死亡事件は日本民族の持つ短所が重なっているように思えてならない。防衛省には中間報告にとどまらず、さらなる徹底解明を求めたい。

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