自己免疫疾患、天疱瘡と多田富雄先生
哲学の径カンファレンス に出席致しました。
演題の一つは神戸先生による、臨床から発想得た好塩基球と蕁麻疹のお話でした。ヒトの末梢血では好塩基球は非常に数が少なくて研究の対象になりにくい分野ですが、マウスの実験を巧みに用いて蕁麻疹と好塩基球という括りの中で研究を進めておられました。神戸先生は、昔からよく知っている先生で着実に研究成果を広げてくださるものと期待しております。
もう一つは 天疱瘡のお話でした。私は長年 自己免疫性疾患特にループスエリテマトーデス(LE)の基礎研究や臨床に従事してまいりました。 自己免疫性疾患の代表は何かというと 対応抗原が明確な天疱瘡がその代表です(後述 多田先生の発言)。 ですから自己免疫性疾患を語るということは、極論すれば天疱瘡の発症メカニズムを語るということになります。さらにその研究が進めば、より良い治療が可能ということになってきます。質問するチャンスはありませんでしたが、CAR-T療法について質問してみたかったです。
私は1978年に大学を卒業して皮膚科の方に入局致しました。 そこでは免疫病理学的な研究をしていました。 年に1〜2度 厚生省自己免疫疾患調査研究班で様々な分野、多くの大学・研究所の先生方と討論をするのが通例でした。 当時から自己免疫疾患の研究といえば全身性の疾患が主な対象で、多くの患者さんの症例研究やモデルマウスを用いた世界をリードする研究成果も出ておりました。 皮膚科からの発表は少なく、わたくしの上司であった今村先生が天疱瘡について発表されました。内科や基礎分野の研究内容と比べると、華々しくはない地味な研究でした。今村先生の発表が終わった時に、ある若い先生がすくっと手を上げて、「自己免疫性疾患というのはこの天疱瘡が、抗原がはっきりした唯一の疾患です。この天疱瘡は大変面白く学問的に興味ある分野です。ぜひ、この原因をしっかり究明してください。」と言うコメントがありました。 このコメントをされたのが当時千葉大学の免疫学の若き教授多田富雄先生でした。私は 研究対象には他の疾患を選びましたが、多田先生の言葉は頭の中に 生き続けております。その後も天疱瘡の研究はなかなか進みませんでした。 しかし1990年代から 慶応大学の天谷教授のグループを中心として 素晴らしい研究が次から次へと発表されました。 その国際性や独創性は他の追随を許さないものになっております。そういう中で慶応大学の天疱瘡の研究の主役を担っておられる高橋先生が京都にお見えになって講義をしてくださいました。現在の天疱瘡の研究の最先端を知ることができて大変面白く感じました。自己免疫の基本的な考え方は、自己あるいは自分の成分を如何に認識するかと言うことになります(self or not self)。次に、自分の成分と反応しない即ちアレルギー反応を起こさないということが 一番重要なポイントとなります。ここが崩れると様々な病気が発症します。高橋先生のグループは、その中心テーマのとっかかりを得られたようで今後の研究の発展を楽しみにしています。
多田先生の紹介記事。日本免疫学会から。