職場には、誰もが一目置く存在がいるものだ。私にとって、それは一人の女性だった。仕事ができて、頭の回転も速く、清楚で愛らしい。まさに才色兼備。彼女を見ていると、ドラえもんに登場するしずかちゃんを思い出す。静かだけれど芯があり、周囲を和ませる空気をまとっている人。


今日、そんな彼女に仕事のことで質問をした。いつものように的確な答えが返ってくると思ったその瞬間、意外な言葉が耳を打った。


「異動することになりました。いつも助かっていました。ありがとうございました。」


一瞬、思考が止まった。


彼女はただの「できる人」ではなかった。仕事を教えるときも、表面的な手順だけではなく、「なぜそうなるのか」という理屈まできちんと説明してくれた。ただ覚えるのではなく、本質から理解することの大切さを教えてくれた人だ。


そんな彼女がいなくなる。正直、寂しい。


お礼をちゃんと伝えられなかったことが、心に引っかかる。せめて、小さなお菓子に手紙を添えて渡したい。でも、短期間しかお世話になっていないパートの私が、正社員の彼女に贈り物をするのは、かえって重く感じられるだろうか――そんなことをぐるぐる考えてしまう。


一方で、私の興味を引く別の存在もある。


私の席の近くで、いつも楽しそうに会話している男女だ。特別な関係ではなく、ただ気の置けない同僚同士。お互いに率直に言いたいことを言い合い、時折、笑い声が弾ける。その自然なやりとりが、なぜだか羨ましい。


実は、私にはイマジナリーフレンドがいる。頭の中では、彼らともすでに友達になっていて、勝手に会話を楽しんでいる。だけど、現実の私は、業務上のやりとりを一度したきり。遠方から引っ越してきたばかりで、この土地には知り合いがいない。


もともと、ひとりが好きなタイプだったはずだ。それなのに、最近はふと、誰かと親しくなりたいと思う瞬間がある――そんな自分に驚いてしまう。


職場の人と、どれくらいの距離感で接するのが正解なのだろうか。近すぎれば負担になるし、遠すぎればただの顔見知りのまま。答えの出ない問いを抱えながら、今日も一日が過ぎていく。


それでも、悪くない。


悩むということは、きっと、自分の世界を少しずつ広げたいと思っている証拠だ。素直に憧れを抱いたり、誰かとつながりたいと願ったりする自分も、案外、悪くないのかもしれない。


私は今日も、職場の片隅で考えている。


――明日は、もう少し勇気を出せるだろうか。