指輪にはずっと興味がありませんでした。仕事柄、手を動かす時間が長く、指に何か付いているだけで気が散るタイプだったからです。そんな私が足を止めたのが、カルティエと、sacaiの阿部千登勢さんによる「CARTIER TRINITY FOR CHITOSE ABE OF sacai」でした。誕生から約1世紀の“トリニティ”に、ねじれやシェイプ、肌の上での位置まで新しい解釈を加えた6つのモデル。今回は、実際に試して感じた着け心地、素材の印象、そして買う価値があるのかを、他ブランドとも比べながらまとめます。

 

まず、トリニティそのものの魅力をおさらいします。ホワイトゴールド、イエローゴールド、ピンクゴールドの3色が絡み合うという、一目でカルティエとわかる意匠です。今回のコレクションはその3色の組み合わせを守りつつ、リングの形とねじれを再解釈しています。定番に手を入れるのは勇気のいることですが、ここまで違う表情になるのかと素直に驚きました。クラシックな品が、急に今の空気をまとった感覚です。

とくに印象に残ったのが、3本のリングの軸をわずかに動かして、位置をカスタマイズできるネックレスです。胸元で3本が重なるのか、少しずれるのか。数ミリの違いで光の入り方が変わり、同じ品なのに表情が違います。鏡の前で何度も動かしてしまいました。ジュエリーは「完成品を受け取るもの」と思っていましたが、これは自分で最後の仕上げをする楽しさがあります。こういう余白のある設計は、他ではあまり見かけません。

 

もう一つ気になったのが、片耳用のイヤリングとしても、トリプルリングとしても使えるジュエリーです。耳に着ければ小さな主役になり、指に通せば存在感のあるリングになる。一つで二通りの使い方ができるので、使用頻度で考えるとコストパフォーマンスはむしろ高いと感じました。私は普段ピアスをしないのですが、片耳だけなら取り入れやすく、思い切って試してみたら意外なほどしっくりきました。

素材と作りについても触れます。金属の質感はなめらかで、角が立たず、肌に当たる部分に引っかかりがありません。3色のゴールドの色の差も出すぎず、並べると上品なグラデーションに見えます。指に着けて一日過ごしましたが、キーボードを打つ作業でも違和感は少なめでした。ただし、ゴールドは当然ながら傷が付きやすい素材です。ぶつけた跡は気になる人もいるはずなので、そこは割り切りが必要でしょう。

他ブランドとも比べます。ティファニーのTシリーズは直線的で力強く、モードな印象です。ブルガリのB.zero1は大胆で、存在感は圧倒的ですが、着ける場面を選ぶ面もあります。ヴァン クリーフ&アーペルは、可憐で華やかな世界観が魅力です。それらに対し、今回のトリニティは、クラシックを土台にしながら、ファッションデザイナーの視点で崩しているところが個性です。伝統と遊び心のバランスが、他にはない立ち位置を作っています。

 

価格についても正直に書きます。決して気軽に買える金額ではありません。ただ、定番のトリニティは長く価値が保たれやすく、さらに限定コレクションとなれば、希少性という要素も加わります。身につけるたびに気分が上がり、数十年単位で使えると考えれば、年あたりのコストは思いのほか小さくなります。逆に、傷や変形が気になる人、毎日ハードに使う人は、慎重に検討したほうがいいでしょう。

結論として、「定番の次の一本を探している人」「ファッションとしてジュエリーを楽しみたい人」にはおすすめです。初めてのカルティエなら、使い方の幅が広い二通りのジュエリーから入るのが無難です。まずは店頭で試着し、肌の上での位置や重なり方を確認してください。写真では伝わらない魅力が、きっと見つかるはずです。