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 時々何かのきっかけで、ずっと前のすっかり忘れていた出来事を思い出すことがある。
 本当に何十年も前のどうでもいい出来事だったりするのだけど、今にして思うと結構重要なことだったりもする。

 私の生まれ育ったのは、日本の西の端っこ五島列島。一昨年の朝ドラや、「ばらかもん」というドラマ化やアニメ化もされた漫画の舞台でもある。

私は五島列島の一番大きな島、福江島で生まれて、三十歳過ぎるまでそこで暮らした。
青春時代も全てが島の生活で、綺麗な海と、色鮮やかな緑に囲まれた故郷のこの地が大好きだった。

今はもう両親も他界して、実家には誰も住んでいないし、なかなか帰る事も出来ないまま、もう二十年近くになるけれど、 

大好だった場所の綺麗な景色と、思い出だけはいつまでも色褪せてはいない。

 独身の頃は、保育士として働いていたが、一年ほど島内のバス会社の観光案内と切符売場を兼ねた窓口で働いていたこともあった。

 窓口で働いていると色々な人と出会うことになる。

バスの運転手さん達は、バスの発車時間までの数分の時間潰しに立ち寄る人がほとんどで、タクシーの運転手さんも両替に来たついでに軽く世間話をして行ったり。

お客さんも地元の人から観光客まで様々な人が来て、話をする機会にも恵まれて結構楽しかった。

 ある時、夏の終わり頃だったと思うが、一人のおじいちゃんがニコニコ顔で窓口に来た事があった。

観光協会が出している観光パンフレットを私に見せて、「ここに行くにはどうしたら行けますか。」と尋ねられた。

 私に見せたパンフレットの写真、島一番の名所である「大瀬崎灯台」の写真だった。

おじいちゃんは嬉しそうに、瞳をキラキラ輝かせて、窓口の前に貼ってあった観光用のポスターを指さして、「このポスターを見て、ずっと来てみたかったんです。」と、とても嬉しそうだった。

だけど私はいささか困惑していた。この場所「大瀬崎灯台」はとても不便な所で、何しろ田舎だからバスが一日にい数本しかない、しかも一時間ほど田舎道をバスに揺られて最寄りのバス停に降り立っても、そこには何もない!お店も民家も何もない。当時は本当に何もない場所だった

そこから灯台までは「大瀬山」と言う山を越えなければ灯台までは辿り着けない。歩くとなればきつい上り坂を二時間ほど、一番近くの展望台でも一時間はかかる。

高齢の人が歩いて行ける場所ではない。
観光客に燈台へのルートを尋ねられたら、レンタカーかタクシーを勧めるのだけど、どちらもlお金がかかるので、新人で不慣れな私はそのおじいちゃんに上手く言い出せなかった。
 バスの待ち合いロビーでおじいちゃんに応対していた私を上司が事務所に呼び戻した。
「年寄りがこんな所まで一人で来るなんて、きっとボケて家族に何も言わないで勝手に出て来たんだろう。面倒なことになるかもしれないから、関わらない方がいい。」

上司の言葉に反感を覚えたが、困った状況から脱することが出来て少しホッともした。

でもわたしには、おじいちゃんはボケてもいなければ家族に黙って家を出て来たのではない事は確信できた。

おじいちゃんは東京から来たと言っていた。認知症の人が迷わずにこんなに遠くまで一人で来られるはずもなく、家族に黙って出て来たのならなおのこと途中で保護されて連れ戻されるhずだ。
それにそのおじいちゃんは、全身新しい衣服を身に付けていた。帽子もポロシャツもズボンも靴も靴下も、背負っているリュックも全てがまっさらの下ろしたてのものを身に付けていることが一目で分かった。
きっと奥様か娘さんが、旅の無事を祈りながら準備してくれたものに違いない、そう思ったけど上司には言わなかった。
 「この島の人は、親切で、人情味にあふれた人ばかりです。」旅行会社の営業に人にそう自慢してたの誰だっけ?

認知症でご家族に黙って手かけて来た高齢の方だったら、なおのこと親切にしてあげなきゃ!

当時は考え方がとても未熟で、物事を深く考えることがなかった私には思いもつかない言葉。今ならそう思えるけど、当時はかなり子どもでいい加減な生き方をしていた私だけと、今なら言えることば。

それからそのおじいちゃんがどうしたのかはわからないけれど、次の日またあの笑顔でやって来て、「灯台行って来ました。とても綺麗でした。」と嬉しそうに報告してくれた。誰に教えてもらって、どうやって行ったのかは聞けなかったけど、あの笑顔でいい度が出来たんだとよくわかった。

そして、何もできなかった私にくれた「ありがとう。」の言葉。

こちらこそ、「ありがとう。」なのに。

 忘れていたのに、突然蘇った出来事。もうあのおじいちゃんはとっくの昔にもっと遠くに旅立っているんだろうけど、きっと優しいご家族に見守られて、幸せに人生の幕を引かれたんだと思う。

だって身も知らない田舎の小娘にも、丁寧で綺麗な言葉と、素敵な笑顔を向けてくれたから。

自分の親よりも年上の知らない方を、おじいちゃんと呼ぶ不躾をお許しください。

あの素敵な笑顔に心を込めて親近感を込めて呼ばせていただきました。


 読んで下さってありがとうございました。


 今朝咲いたホテイアオイの花です。

暑い毎日に涼をくれました。

まだまだ残暑が続きますね。くれぐれもご自愛下さい。