捕虜ながら
仕事には
ノルマがあったとは
恐れ入った話です。
さすが
知恵をだしたようだ。
なにしろ、ロシアというのは、共産国で、
「働かないものは食うべからず」と、
こういう主義の国だ、そういうのが看板に書いて
収容所にぶら下がっているんだから。
「働かないものは食うべからず」って。
そしてノルマが、一人一人みんな決まっているわけ。
その決める目安というのは、月にいっぺん身体検査があって、
それで身体検査で一級、二級、三級って、健康状態で級を付けるわけ。
この人は体格がいい、病気がないから一級、そん次がやせっぽで、
ひょろひょろしてるけど健康だから二級と。
それから三級が、なんとか仕事ができるといった程度のもの。
そん次はこんだニイラボダっていうだよな、ニイは無い、
ラボダっていうのは仕事っていう意味だ。
だから実際合計四段階あるわけ、ニイラボダは仕事をしなくていい、
家の中にいるだけで済むんだ。
一級のノルマは、切った薪を二リュウベの体積分、
二リュウベっていうと一メートルの幅かけ一メートルの
高さかけ二メートルの長さが、それが割り当て。
二級者は、一リュウベ半、三級者は、一リュウベと、
一人一人ノルマを持っているわけ。
毎日毎日そんだけの仕事はやるノルマになっているわけ。
雪が降っても、雨が降っても、日曜日以外は休みなし。
出てってそれだけのノルマはやらなくちゃなんない。
薪を一メートルの長さに切って、直径十五センチに割るわけ。
鋸の長さが一メートル半の長い鋸で、
二丁引きって言って二人で切るわけ。
片方で引っ張れば片方で押す、
そして押したり引っ張ったりして。
二人で組んで、切ったらこんだ割って、
それを積むわけだ。
そしたら毎日、検査があって、
今日の仕事は明日検査官が回ってきて調べるんだ。
とにかく二人で組むわけだ、すると例えば、
一級者が二人で組むと二人で四リューベ、
一級者と二級者が組めば三リュウーベ半、
そういう計算になるわけ。
だけど一級者でも二級者でも三級者でも、
仕事の上手な人とかのろまだとか、
人間は十人十色だから、
そうすると誰でもが自分は楽したいっていうんで、
相棒を選ぶわけだ。
なー、仕事の速い上手な人、
そういう人を選べば楽だかんな。
誰もがそれに真剣なんだよな。
で、爺ちゃんもしょうがないんだ、
あっちからもこっちからも金山、金山、って来るんだ。
金山と組むと楽だって。
大変なんだ、出来ないと残されちゃうんだ。
出来る人と出来る人が組むとお昼になんねうち終わっちゃう。
だけど出来ない人と出来ない人じゃ、
一日やったってノルマできねわ、
そうすっとこんだ全部を総合してのノルマを集計されるんだから、
そういうところで落ち度が出来ると、
一〇〇パーセントの食料がもらえないわけよ、
食料を削られちゃうわけよ。
だから、そういう落ち度を無くすために、
爺ちゃんはどうしても出来ない者と組んだ。
そういった、ほんとうにヤクザな事務しかやってなかったとか、
精神的なノロマ、不器用、仕事の下手なもの、
そういった人と組んで指導して、
能率を一〇〇パーセントに上げる努力をした。
私の父、利春は、今年９３歳になります。
８年前に、大手企業を退社し、子供のため、
妻のため、両親のために、
地域に何ができるかとか？考えました。
ひとつ、父の人生をつづってみようと考え、
この利春譚（たん：物語）を作ろうと思いました。
どうにか出来たので、生きているうちに
何か残したいと思いましたので。
連載となります。
内容は、インタビューでの記述となってること、ご了承ください。
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