にっけいしんぶん新聞夕刊
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改行できません。読みにくくてすみません。

今日の愛ルケ(#141)

春雪 十一

 冬香がベッドに入るとともに、二人はどちらからともなく寄り添う。
 顔から足先まで、すべてを密着させ抱き合いながら、二人は躰で語り合う。
「逢えないあいだ、変わりはなかった?」
「ないわ、絶対守ったから、大丈夫よ」
「よかった、俺もただただ君を待っていた」
「わたしも、貴方のことだけ考えていた」
 とくに言葉は交わさなくても、肌を寄せ合い、しかと抱き合い、
接吻をし、舌と舌をからませる。
 それだけで互いにわかり合えるのだから、まさしく
ボディランゲージ、そのものである。

「よかった…」
 その安堵は、互いの抱擁が少しゆるんだところでわかり、そこから、
第二のボディランゲージが始まる。
「そろそろ、入ってもいいかな」
「もちろん、わたしも待ってたの」
「ほうら、こんなになってる」
「すごおい、可愛い」

 ここでも、言葉はなくても、ともに股間に触れ合い、
菊治のものを冬香が掴むだけで、二人がいおうとしていることはわかる。
「駄目だ、もう待てない」
「わたしも、ください」
 互いにせがんで求め合う。高ぶる欲望が、重なり合う男と女の動きでわかる

「ほらあ…」
「入ってくる」
 いままでの、たまりにたまった思いを一気に浴びせるように、奥深く入ると
冬香がはじめて「あっ…」と声にだし、それから低くつぶやく。
「つらぬかれてるう…」
一瞬、菊治はなんの意味かわからなかった。「つらぬかれ…」

とそこまで追って、はじめて、「貫かれている」という意味だと知る。そこで
「つらぬかれてる?」とたしかめてみると、冬香は目を閉じたままうなずく。
 たしかにいま、菊治のものは冬香のなかを貫き、
そのすべてが冬香のなかにとらえられている。
 そのたしかさに満足し、納得して動きだすと、冬香もそれに合わせて
腰を動かし、二人は寸分の隙もないほど合体する。
 もはや言葉はいらない。ただ激しく燃えながら、二人はともに、
「死ぬほど好き」という、そのことだけを語り合っている。
今回はほぼノーカットで書いてしまいました。
渡辺節炸裂! って感じですね。先生ファンの私にとってはたまりません。
菊治と冬香の声とココロの会話がたっぷりですね。

今日のことば
ボディランゲージ:身振り手振りで気持ちを伝えること
転じて躰で語り合うこと!?

応用編
第二のボディランゲージもあり。そのうちビールのように第3の…も登場?

今日の愛ルケ(#140)

春雪 十

 その日、冬香は午前十時に部屋に現れた。
 その前、マンションの入口から電話があり、「入江です」といわれ、
「どうぞ」といって、ロックを開けてから部屋へ来るまで、菊治はドアの前で待ち、
チャイムが鳴るとともに開ける。

「おうっ…」
 ドアの向こうに、まさしく冬香が立っている。
 いつものようにベージュのコートを着て、頬を少しあからめ照れたようにかすかに笑う
 その胸元に、菊治がプレゼントしたハイヒールのネックレスが光っている。

 「入って…」
 菊治はうなずき、冬香が中に入った途端、いきなり強く抱き締める。
 よくきてくれた。いろいろ大変なことがあったろうに、忘れず、また戻ってきてくれた
   そんな思いをこめて、さたに強く抱き、接吻をすると、冬香もひたと寄り添ってくる。
 冬香も逢いたかったようである。
 その形で抱き合ったまま、雪崩れこむように寝室に入り、そこで改めて囁く

「待っていた・・・」
「わたしもです」
 その一言をきいて、それまでの切なさがすべて吹きとぶ。
「何時まで、大丈夫なの?」
「お昼までです…」
 それまで二時間しかない。
 (略)

「脱いで…」
 菊治は先に裸になり、ベッドで待っていると、冬香が入ってくる。
 今日は白いスリップに戻っているが、菊治は冬香がいつもスカートで、
パンツやキャミソールをつけないところが気に入っている。
 たとえ若い女性に、古いとかおじんくさいといわれても、
男が燃えるのは清楚で、シンプルな下着と、恥じらう姿である。
 いま、冬香が端のほうからベッドへ入ってくる。

 いつものように左側と決まっているので、すでに休んでいる菊治の足元を
またぐ形になるが、「ごめんなさい」といって、ぎりぎり端を通り、
しゃがんだまま入ってくる。
 慣れても礼儀を崩さない。それを自然にできるところが、
さらに菊治の気持をかきたてる。

ひさびさの再会に燃え上がる菊治と冬香。
なのにふたりが共にできるのは2時間だけ。
菊治がなぜ冬香をそれだけ好きになるのか。
明日はおそらく…

今日のことば
おうっ
おじさん語。呼びかけのときに使う感嘆詞と思われます。

今日の愛ルケ(#139)

春雪 九

 むろん、冬香は菊治がどういう小説を書いているのか知らないし、
菊治も教える気はない。
 (略)
 ともかく、数枚でも書き始めたことで菊治はようやく作家に戻った気がする
 それにしても、やはり冬香に逢いたい。
逢って心も躰も燃えれば、さらに書く意欲もわいてくるに間違いない。

「東京へ来る日は決まりましたか」
 メールで尋ねるが、相変わらずはっきりしないらしい。
(略)
 それにしても二月に逢ってそろそろ一ヶ月である。
 もう我慢の限界で、これ以上、待たされると、おかしなところへ行く
かもしれない、そうはいわないが、それに近い気持を訴えると、
三月の半ばにようやく冬香から、はっきりした連絡がくる。

「二十日にそちらに移ります。すぐは無理ですが、二日後なら行けます。
お昼ですけど、お逢いできますか」
「いつでも待っています、とにかく早く来て」

 いまになって、菊治は自由業でよかったと思う。
 (略)
 もっとも、いまの菊治なら、サラリーマンでもずるけて休むかもしれない。
 それから指折り数えているうちに、ようやく二十日になり、
冬香が東京の人になる日が訪れる。
 (略)

 前回での、ホテルでのことを思い出して、案じていると、
冬香から、ようやく落着いた旨の連絡がくる。
「今日から、あなたのすぐ近くに住んでいるのだと思うと、
嬉しいような、怖いような気持です」
 嬉しいというのはわかるが、怖いとは、どういう意味なのか。
たしかめたいと思いながら、やはり菊治自身も、うまくいきすぎて、
なにか怖いような気がしないでもない。

小説を書き始めた菊治。しかし、冬香のことを考えるとなかなか進まない。
それを安心させる冬香の菊治への愛。次回が楽しみです。

今日の言葉
ずるける:サボること
サボる:フランス語で怠けるの意味のサボタージュが動詞化したもの

今日の愛ルケ(#138)

春雪 八

 菊治が書こうと思っているのは、もちろん恋愛小説である。
しかし、いまさらきれいごとだけの小説など書く気はない。
 いま本当に書きたいのは、冬香との恋だが、それこそ真最中なので、
どのようにすすむかわからないし、それ以上に、客観的な視点を保ちながら
冷静に書けるという自信がない。

 だが、恋に燃えているときだけに、書こうという意欲は溢れている。
 この一ヶ月、考えに考えた末にまとまったのは、若いとき、
といっても三十代後半の頃。妻と他の女性と、さらにもう一人、
三人の女性とのあいだで、泥沼のような関係が続いたことがある。

 まさに、三つどもえの愛だが、どうしてあんなことを平気でできたのか。
仕事が順調で脂がのりきっていたこともあるし、スタミナもあったが、
それだけではない。
 自分の内側から、狂おしいほどのエネルギーがあふれでて、
先のことなぞ考えず、ひたすら恋することに没頭した。

 その多情な男女関係というより、そういう猛り狂った、
男の業のようなものを書きたい。
 これまで、業といえば女だけのもの、と思われてきたが、男にも業がある。
それは愛とはいっても、常識や倫理などでは律しきれない、
身内から溢れでる、熱のかたまりのようなものである。
 そうした自分でも抑えきれぬ熱情にかきたてられ、次々と女性と関わり、
そして最後はすべての女に突き放され、捨てられる男を書きたい。

 はっきりいって、この主人公は菊治そのものではないが、
菊治の分身であることは間違いない。もちろん、
これを読めば、自分のことを書かれている、と思う女性もいるかもしれない。
 しかし、男女の小説を書く以上、体験してきたことを書くのが、
もっとも確実だし、リアリティがある。これまで、
さまざまな人生を生き抜いてきた、大人の読者を納得させるには、
このリアリティが不可欠である。

 そのためには、まず自分から体験したことを振り返り、
正直に泥を吐かねばならない。
 この自分という男のなかに潜んでいる、好色で、身勝手で、
そのくせ脆くて、無と知りつつ突きすすんでいく、雄の宿命を書きたい。
 そのため、考えに考えた末に決めた題名を、まず原稿用紙に書き込む。

「虚無と熱情」

菊治はやはり恋愛小説を書くみたいですね。
小説の中の主人公が小説を書く。何か不思議な感じがします。
展開が読めなくて楽しみです。

今日の言葉
考えに考えた末

今日の愛ルケ(#137)

春雪 七

 春の雪は止んだが、かわりに菊治の胸の中に春の雪が降り始めたようである
 それも、関西から祥子がもちこんだもので、
彼女のいったことを思い出すだけで気が滅入る。
 とくに、冬香のことはともかく、やはり夫のことが気にかかる。
 考えた末、菊治はメールでまず、祥子が訪れてきたことを告げてから、
「彼女も、東京に来たいといっていました」と記す。
 そのあとに、「彼女は、君のご主人も知っているらしく、
とても素敵な人だと褒めていました」と、少し皮肉をこめてつけくわえる。

 それに、冬香はなんと答えるのか。待っていると翌日のメールに、
「やはり、祥子さんは訪ねていかれたのですね」とあり、
「彼女も一緒に東京に出てくれると、嬉しいのですが」と記してある。
 夫のことを勝手に喋った祥子に反撥するかと思っていたら、
恨むどころか、むしろ一緒に東京に出てくることを歓迎しているようで、
菊治は拍子抜けする。

 それにしても、メールには夫のことについてなにも記していないが、
それでは祥子がいったことをそのまま認めるということか。
それとも、そんなことはたいして意味がない、と思っているのか。
 菊治は気がかりだが、考えてみると、もともと冬香は些細なことは
あまり気にせず、意外におっとりしているところがある。
 今回も、祥子がいった程度のことはあまり意味がない、と思っているのか。
菊治は勝手に解釈して、改めてメールを送る。

「君のご主人がどんな人でも、僕は君を愛している。誰よりも冬香が好き」

 そのあとに、ハートマークを三つ付けて送ると、すぐ冬香から返事が来る。
「わたしもです。もう少しでそちらに行きますから、忘れないでくださいね」
 そこにも、ハートマークと笑顔がついていて、菊治はようやく安堵する。
 もう、つまらぬことで、あたふたするのはやめよう。

たとえ冬香の夫がハンサムであろうが、優秀であろうが、
肝心の冬香の気持は自分のほうを向いている。
菊治は自らそういいきかせて、夜、一人で机に向かう。
 この春から、新しい小説を書きはじめると、冬香に宣言している。
 なにがなんでも、それを始めなければならない。

自信を持った菊治の冬香への愛情確認。
ハートマーク返しも微笑ましいですよね。

今日の言葉
菊治の胸の中に春の雪が降り始めたようである
ありがちですけど分かりやすくていいですよね。

今日の愛ルケ(#136)

春雪 六
 いまひとつ気になったのは、「あの人、本気になったら大変よ」
という祥子の言葉である。
 大変、とはどういうことなのか。
(略)

 どこか世間知らずの、おっとりしら感じの冬香だから、
一度燃え出えだすと止まらない。そういう意味なら、
わからないわけでもないが、だからといって、悪いともいえない。
 それというのも、冬香がのめり込む相手は自分である。
もし彼女がそれほど自分を愛し、一途に燃えてくれるなら、
そんな嬉しいことはない。
(略)

 まだ二人は、冬香の家庭の事情の許すときに密かに逢っているだけである。
むろん、冬香は本気だと思うが、まだ大変、という段階まで
至っているわけではない。
 それを脅かすようないいかたをするのは、やはり、
祥子が勝手に大袈裟にいっているだけなのではないか。

「たいして、気にすることはない」

 たしかに、冬香が本気になって、夫や子供を捨ててきたら、
大変なことになりそうだが、菊治は逃げも隠れもせず、
それをきっぱりと受けとめるつもりでいる。

 むろん、多くのサラリーマンや、とくに一流会社のエリートなどは
おおいに困るだろうが、菊治はいまさら、守るほどの地位も名誉もない。
 もともとやくざな小説家という仕事で、それも長年、表舞台から外れた
裏にいるだけに、冬香がいくら本気になったところで、困ることはない。
それに妻とは別れたままで、女性問題について、とやかくいわれることもない
   なれるものなら、いっそ大変なことになってみたい。

「どうってこと、ないや」

 久しぶりに、菊治は自分に啖呵を切ってみる。

「あの人、本気になったら大変よ」という言葉。
誰しもこんな言葉を聞いたら、菊治みたいに考えてしまいますよね。
最後のほうの啖呵は菊治が強くなった(?)みたいでうれしいです。
わたしも明日から使おう。「どうってこと、ないや」
ここで区切ると「やだねったら、やだね」みたいですね。

今日の言葉
真剱

今日の愛ルケ(#135)

春雪 五

 結局、祥子はなにをいいたくて訪ねてきたのか。
冬香が東京に移ってくることを伝えたかったようである。
 いや、それだけではなく、冬香とのあいだを探りにきたのかもしれない。
 それに対して、うっかり、メル友であることを喋ってしまったが、
冬香と深い関係であることは、ばれずにすんだようである。
(略)

 それにしても、彼女からきいた話は意外である。
 冬香の夫が大手の、東西製薬に勤めていることは初めて知ったが、
優秀だから東京に転勤になるのだという。
 さらに気になったのは、「なかなかのハンサムで優しい人よ」という一言
 これでは、冬香が夫について話していたイメージとはいささか異なる。
しかも、祥子たち夫婦と、食事を一緒にしたことがあるとは、
なにか冬香に裏切られた気がしないでもない。
 はっきりいって、菊治は少し面白くない。

 できることなら、冬香の夫は怠け者で身勝手で、醜男だといい
と思っていたが、これではまるで逆である。自分より若いうえに、
ハンサムで優しくて、才能があるとあっては、こちらの立場がない。
 いままで、冬香は自分一筋に、自分だけを頼りに生きているのだ
と思っていたが、そんな立派な夫がいるなら、なにも自分ごとき男に
近づく必要がないではないか。

 考えるうちに、菊治は憮然とした気持になってくるが、しかし…
 もしかして、祥子は、自分から冬香を引き離すために、
ことさらそんなことをいったのではないか。
東京へ行く冬香に嫉妬して、自分に近づかせまい、としているのではないか。
 菊治はさらに、腕組みして考える。
 祥子は、優秀だから東京にくるのだ、といっていたが、社会的に優れた男が、
必ずしも家庭やベッドで妻を満足させるとは限らない。
「仕事ができることと、女を満足させる能力とはなんの関係もない」
 菊治はいいきかせて、一人でうなずく。

祥子に冬香のことを聞いてしまったために、
菊治はいろんなことを考えてしまう。
男の葛藤が鮮烈に表現されてますよね。

今日の愛ルケ(#134)

春雪 四

 男と女が対等に話したのでは、男のほうが分が悪い。
とくに腹の中の探り合いのようなことになると、男はつい正直に本音を
さらすが、女は滅多なことでは本心をみせず、巧みである。
 これ以上、話しては、こちらの心がすべて読まれてしまいそうなので、
そろそろ引き揚げようかと時計を見ると、祥子がつぶやく。
「わたしも東京に出てきたいなぁ…」
(略)
「でも、ご主人もお子さんもいるのでしょう」
「子供は一人ですし、夫はエージェントに勤めているんですけど、
こちらに来たいようで…」
 祥子はそこで、一つ溜息をついて、
「仕事をするなら、やっぱり東京よね、先生、なにかいい仕事ありませんか」
「いや、僕は別に…」
 どうやら、祥子が今日現れたのは、東京での仕事を見付けるためだったのか
(略)
「わたし、大学がこちらだから、やはり、こちらで住みたいな」
 いわれて、菊治は初めて、冬香の学歴を知らなかったことに気づく。
「あのう、冬香さんは、どこの大学を?」
「たしか彼女は、富山の短大のはずよ」
 菊治は冬香の、短大卒というところが、むしろ好ましい。
たしかに、学歴の点では四年制には劣るかもしれないが、冬香はそれ以上の、
数え切れないほどの美点をもっている。
「やっぱり、冬香さんのことが気になるのね」
「いや…」
 手を振って否定するが、すでに本心は読みとられているのかもしれない。
「でも、彼女に手を出しちゃ駄目よ」
「どうして?」とききたいのを抑えて黙っていると、祥子は悪戯っぽい
笑いを浮かべて、
「お子さんが三人もいて、下の子はまだ小さいんだから。そんなときに、
他の人を好きになったら大変でしょう」
 そこで祥子は、菊治の表情を窺うように見ながらいう。
「あの人、本気になったら大変よ」


これ以上冬香さんのことを知れないかと思っていたら、
冬香さんの学歴まで分かってしまいましたね。
菊治の冬香に対する惚れ具合がすごく伝わってきますね。

今日の言葉
エージェント【agent】
1 代理人。代理業者。
2 スパイ。諜報員。
ここでは1のようです。もしかしたら2かも…

今日の愛ルケ(#133)

春雪 三

 (略)
「彼女には、お子さんがいるんでしょう」
「いるわ、三人よ」
 祥子は、知らなかったの、といった表情をする。
「じゃあ、転勤は大変だ」
「でも、彼女喜んでたわ。一度、東京に住んでみたかったらしくて…」
 それは自分に逢えるためか、と菊治は思うが、そんなことは口が裂けても
いえない。
「彼女のご主人にも、逢ったことがあるの?」
「もちろん、一緒に食事をしたこともあるわ」
「家族同士で?」
「そう。私たち夫婦と、子供も一緒にね。なかなかハンサムで優しい人よ」
「…」
 はっきりいって、冬香からきいていた夫のイメージとはいささか違うが、
それは冬香のいいかたが間違っているのか。それとも祥子がことさらに、
大袈裟にいっているのか。
 さらにききたいのを黙っていると、逆に祥子がきいてくる。
「ご主人のこと、気になるんですか?」
「いや、別に…」
 慌てて否定するが、祥子は探るような眼差しで、
「冬香さんを、好きなんじゃありません?」
「まさか、そんなことは絶対…」
「でも、時々彼女と二人で先生の話をするけど、そんなとき冬香さんの目が
きらきら輝いて、間もなく最新刊がでるはずだけど、なんて教えてくれるわ」
 これから書くつもりだ、といっただけなのに、
冬香はそんなことまでいって、自分をカバーしてくれているのか。
「そういえば、あの人、このごろすごく綺麗になって。この前会ったときも、
肌が艶々してるので化粧品を変えたのってきいたけど、ただ笑っているだけで
 さすがに女の目は鋭いと、感心していると、
「でも、危ないなぁ、彼女が東京に出てくると、簡単に逢えるでしょう」
「そんなことは…」
 いったい、祥子はなにをいいにきたのか、本心が菊治にはわかりかねる。

菊治が気にしている冬香の主人のことをついに聞く。
祥子からのなかなかハンサムで優しい人というのはかなり意外でした。
こういういい意味での裏切りも先生の作品の楽しみでもあります。

今日の言葉
なし