理化学研究所 2019年11月13日プレスリリースより抜粋

 

 スーパーセンチナリアンは110歳に達した特別長寿な人々のことを指し、自立的な生活を送る期間が長いことから、理想的な健康長寿のモデルと考えられています。一般的に、老化に伴って免疫力が低下してくると、がんや感染症などのリスクが飛躍的に高まります。しかし、スーパーセンチナリアンはこうした致命的な病気を回避してきていることから、高齢になっても免疫システムが良好な状態を保っていると考えられます。

 

T細胞は、他の免疫細胞を助ける「CD4陽性ヘルパーT細胞」とがん細胞などを殺す「CD8陽性キラーT細胞」という2種類のサブタイプに分類されます。興味深いことに、スーパーセンチナリアンの持つキラーT細胞は、通常のCD8陽性キラーT細胞だけでなく、ヒトの血液にはあまり存在しないはずの「CD4陽性キラーT細胞」を多く含むことが明らかになりました。また、他のグループが公開している20歳代から70歳代までの血液データを解析したところ、このような特徴を持つT細胞は非常に少なく、CD4陽性キラーT細胞はスーパーセンチナリアンで特異的に増加していることが分かりました。

 

さらに、これらのT細胞受容体を調べたところ、特定の種類の受容体を持つT細胞が増加するクローン性増殖が起きたことが明らかになりました。

 

本研究成果を通して免疫と老化・長寿との関係を理解することで、免疫の老化を予防し、健康寿命の延伸に貢献することが期待できます。

 

右の50~80歳の細胞に比べて、左のスーパーセンチナリアンでは、キラーT細胞(茶色)が増加していることが分かる。ニつのT細胞クラスター(黄土色と茶色)のうち、右側がキラーT細胞の特徴である細胞傷害性分子を発現している。

 

 

補足説明

1.T細胞、CD4陽性ヘルパーT細胞、CD8陽性キラーT細胞、CD4陽性キラーT細胞
T細胞は、獲得免疫システムの中核をなす細胞で、血液中や組織の中など体中に存在する。細胞表面に存在する分子によって大きくCD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞の2種類に分類される。CD4陽性T細胞は、抗原を認識すると他の免疫細胞を活性化するなどの機能を持ち、CD4陽性ヘルパーT細胞とも呼ばれる。一方、CD8陽性T細胞は、直接他の細胞を殺す機能を持つため、CD8陽性キラーT細胞とも呼ばれる。CD4陽性でありながら、細胞を殺すための分子を発現しているものをCD4陽性キラーT細胞と呼ぶ。

 

2.T細胞受容体
T細胞の細胞表面にある受容体で、抗原を認識して細胞内に活性化刺激を伝える。胸腺でT細胞が成熟する時に受容体遺伝子が再構成され、一つ一つのT細胞に異なる受容体が発現する。


3.クローン性増殖
一つのT細胞が抗原刺激によって細胞分裂を繰り返し、増殖すること。増殖した全ての細胞は、元の細胞と同じT細胞受容体を持つことが特徴である。


4.シークエンサー
DNAやcDNAの配列を決定する装置。現在広く使われているシークエンサーは、億単位のDNA断片を並列して決定することができる。


5.トランスクリプトーム
細胞内で、ゲノムが転写されて作られたRNA全体のことを指す。


6.細胞傷害性分子
グランザイムやパーフォリンなどのタンパク質のことを指す。攻撃対象である細胞に放出されると、細胞膜に穴をあけ、細胞死を誘導する働きを持つ。