⑦ 「自殺しないで」の本気さ | [虹ぷしゅ]nijipushu nijipsych

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「瞳に涙がなければ魂に虹はかからない」ネイティブ・アメリカンの言葉
「ひとり、燈(ともしび)のもとに文をひろげて、見ぬ世の人を友とするぞ、こよなう慰むるわざなる」徒然草

(《⑥「私はクリスチャンです」というとき》の文章の続きです)
ただ、自分の信念を押し付けてはいけないけれども、
自分としての何らかの信念を持っていないと、
患者さんへの深いところでの作用は難しいのではないかな
という思いがあります。
「目に見えない大切なもの」の前提なく、
「自殺しないで」
「恨みに突き進まないで」
「自分を大切にしよう」
などと本気になって言えないのではないかなぁ
と思っていますし、
自分自身が自分の存在について葛藤してきた歴史、
そして、葛藤の進行形なしに、
相手になにか言っても、伝わらないような気がします。

その前提を持たないで精神科医療に携わっている人は
いったいどう対処しているんだろう
って個人的には疑問をもたずにおれません。
 
以前、先輩の精神科医と患者さんの自殺について話していたときに、
「結局は、その人の選択だからね」
と言われたことばをいまでも思い出します。
もちろん、その言葉には、
精神科医自身の診療での心的外傷を慰安し
自分を納得させるためという思いも強く含まれたもので
──経験した方は分かると思いますが、
知り合った人を自殺という形で喪失する体験は
一回一回、かなりのダメージを受けていきます──
その先生も患者さんに
自分で自分の命を終わらせる行為をしてほしくない
と願っていることは間違いないと思いますが、
やっぱり、先のような思いがあると、
「死なないで」
にこめられる本気さが
違ってきてしまうような気がしてなりません。
 
自殺しないでといっても、
自分を大切にといっても、
学校で教えられた「唯物論」では、
患者さんの「どうして」に本気で向き合えません、
少なくとも私は。
 
USPT仲間の小栗康平先生たちが、
輪廻転生の視点から患者さんたちに関わっていかれるように、
治療者の内になんらかの土台となる(たたき台となる)
人生哲学、信念がないと、
本気の心と心、魂と魂の触れ合う診療は
成り立たないのではないかなぁ。

その点で、
神田橋先生や中井久夫先生の
影響を最小限にしぼることを目指した
精神療法に、完全には私淑しきれていない自分がいて、
その分、
現在の自分の診療スタイルと
自分の診療でのしっくり感とのあいだに齟齬が生まれている
ような気がします。
 
いつかクリニックがもてたらなぁ

と宝くじに当たることを夢想するような
ファンタジーを抱くことがときどきあります。

(いまの病院を辞めるなんて言ってませんからね、誤解なきよう。)


あなたが死んだら私は悲しい
 心理学者からのいのちのメッセージ
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