虹の羽根
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クリスマス。。。

終了式もそつなく終わり、冬休みが始まる。

私達は隣の町の美容室に向かった。

万引きで稼いだお金で初めてのパーマをかけた。

その時代に流行っていた髪形・・・

人気のあるアイドルや、学校の綺麗な先輩は

みんな同じ髪型をしていた。

家に帰り髪型を整えて、夕食の時・・・

案の定、父から大目玉を食らうが

通信簿の成績がよかったので、冬休み限定と言う事で

許しをもらう事が出来た。

次の日、一発目の行事を消化すべく

朝からオシャレにいそしんでいた。

妹が興味深く、部屋を覗きに来る。

お化粧のやり方もよく知らず、

ファッション雑誌を片っ端から見て勉強した。

大人っぽい服装と言う事で、私は

全身黒で着飾っていた。

タイトのロングスカートはずっと憧れで、その日の為にとってあった。

押入れに隠してあった少しかかとの高いパンプスを履いて、

小学生の妹だけを家に残し、私は彩ちゃんのママのスナックに出掛けた。

パーティーをする事は言ってあっても、スナックで開催される事は

親には内緒にしていた。

いつものように無人駅から電車に乗ったけど、

大人ぶっていたので、その日はきちんとお金を払った。

電車に乗っていた同世代の子の視線が気になった。

今日は大人だし、一人なんで喧嘩はしない・・・

そう心に決めていた。

結局何事もなく電車を降り、スナックへ向かった。

お昼なんで行き交う人はおばさんばかりだった。

お店に到着して、さっそく私は重たいドアを開けた・・・

お店は何だか怪しく薄暗かった。

天井から下がる電器は、キラキラと輝き

鏡の壁に反射していた。

赤いシートのソファーに、金色の縁取りがあるテーブル

カウンター越しにお酒とグラスが綺麗に並び異様な光景だった。

私には初めて見る物だらけだったんで、

しばらくその光景を楽しんだ。

みんなは先に到着してて、準備に励んでくれていた。

カウンターには彩ちゃんのママがいる。

彩ちゃんのママは若くてとても綺麗な人だった。

準備が済み、乾杯をしてアルコールが少し入った

シャンパンを飲んだ。

彩ちゃんのママにお礼を言って、

色々な話をした。

水割りの作り方も習った。

みんなで、大人っぽいお互いの服装を褒めあい

プレゼント交換もして、初詣の計画も立てた。

楽しい時間はあっと言う間だった。

門限があったので、私は先にお店を出る・・・

足元がフラフラして、刺すような冷たい風が

気持ちよく感じた。

そのまま、また電車に乗って家に帰る。

帰り道に楽しみにしていたプレゼントの中身を見てみた。

ピアスやお化粧品、可愛い文具や、靴下が入っていた。

私もまた同じような品をプレゼントに入れてたし、

そのプレゼントがどのようにして調達されたかわかっていたので、

あまり嬉しくもなかった。


帰宅すると、父と母はもう帰っていて、私の格好にびっくりしていた。

2階の自分の部屋に上がる・・・

1階ではパーティーの用意が忙しく行われていた。


「瑠璃ちゃんもお手伝いして~」


母の呼ぶ声が聞こえた・・・

私は疲れていた・・・


頭がガンガンする。

すすめられて飲んだ、コーヒー牛乳が妙に頭に残る。

アレ・・・美味しかったなぁ・・・

いつの間にか眠りについていた。


立ち上るいい香りで目が覚めた。

まだ2時間ほどしか寝てなかったのに

気分は爽快だった。


1階に行くと、部屋が飾り付けてあり、

大きなローストチキンがテーブルに乗っていた。

クラッカーや、オリーブの入ったサラダ、

フルーツポンチなどのおなじみメニューが次々と

食卓に並べられる。


妹はルンルンでお手伝いをしながらこう言った。

「お姉ちゃん、お手伝いしないと明日、サンタさん来んよ!」


妹の夢を壊さないように、生返事をして手伝いを始める。


家は幸せだなって感じる瞬間だった。

彩ちゃんは、今日、お母さんがそのまま仕事なんで

スナックの2階で寝るって言ってた。


今頃お店は始まってて、彩ちゃんは2階で一人なんだろう・・・

生まれる環境が違えば、育つ環境も違う。

私は不公平を少し感じながら、

本日2回目のシャンパンを手にとり

思い切りあけた。。。


遅くまで家族ではしゃいだ後、再び眠りにつく・・・

今日あった出来事を思い出しながら・・・


次の日、私の枕元には、ウサギのぬいぐるみと

大きな鏡、サンタさんからのお手紙が置いてあった。

万引き。。。

その件があってから、私はユウキと連絡も取ってない。

あの日の出来事を忘れるように私は遊んだ。

彩ちゃんの家には、あまり行かなくなった。


みんなで近所のスーパーで万引きをして、

戦利品を交換や売買して遠くの町まで遊びに行く・・・

そんな事を繰り返していた。


駅が無人だったので、遠くまで行っても、トイレに隠れてて、

目的地が近くなると車掌さんから切符を買う・・・

そんな事をしてたので、交通費もそんなにかからなかった。


遠くの町まで行く目的は、他校の生徒に絡み、顔と名前を売る・・・

そして万引き・・・

怪我したり、危ない目にも遭ったけど

友達と一緒だったんで、それが結構楽しかった。


喧嘩のやり方も覚えた。万引きもうまくやれる。

言い訳も上手になり、友達も増えた。


でも、私は空っぽのままだった・・・・・・


いつもと同じ、心に風穴があいているように

何をしても物足りない感じがしていた。


冬がやってくる。

何もない私は、精一杯、何かを探していた。


彩ちゃんと菊ちゃんとヒロちゃんとクリスマスの計画を立てる。

場所は彩ちゃんのママが経営するスナック。

お昼だったら貸切にしてくれると言う。。。

プレゼント1個持参で、服装は大人ファッション。

会費まで決めて、買出しも頼んだ。

その日まで指折り数える毎日だった・・・


冬休みも目前にせまった昼休み、

教室に伴が来た。

誘われるまま私は体育館用具室の裏に足を運んだ。


向かい合って立つ私と伴・・・

沈黙が続く。


耐えれなくなって、先に口を開いたのは私で・・・

長いスカートを折りながら、座る・・・


「何?何か用事あるから呼んだんでしょ?」


寒かったせいもあり、喧嘩腰になってしまった。


伴は私の横に座りながらゆっくりと話した。

「運動会に来てたの、彼氏じゃないんやろ?

 あの手紙見た?」


私は面倒だったんで、端的に答えた。

「あの人は彩ちゃんのお兄ちゃんの友達。

 手紙は見てない!どっかいっちゃった」


電話してないんで気まずくて、嘘をついた。


ふと遠くに目をやると、彩ちゃん達がひやかしに来ていた。

私は何か複雑な気持ちだったんで、その場を立ち去ろうとした。


伴は私を、捨て犬のような顔で見つめながら

「冬休み、電話する」

と、立ち去る私の腕をつかみながら、すがるように言った。


「24日と25日はいないから」


と言い残して、

彩ちゃん達の元へ振り返る事も出来ず走っていった。


みんなにこの会話の内容を報告すると

「いない日を伝えるなんて、電話して欲しいみたいじゃない?」

と、言われた・・・


確かに、空っぽで物足りなかった私は

どこかで期待していたのかも知れない。

日常を変えてくれる何かに・・・


伴と家が近い、ヒロちゃんが教えてくれた。

伴は兄弟が2人いるけど、お父さんがみんな違う事

お母さんは夜に働きに行ってる事

小さい頃からよく一人で遊んでた事


私に寄って来る人はみんなそんな人ばかり・・・

不思議だった。


その日はそのまま、学校を抜け出して

クリスマスの用意に使う物を、遠くの町まで万引きに行った。


私達はもう、悪い事をしていると言う罪の意識が消えかけていた。

理由なんか特になかったが、お店に出掛けると、

何らかの戦利品を持って帰らないと気が済まなかった。


わざわざお店に足を運んでるんだから…

お金を出して物を買う。

そんな当たり前の事が勿体無い気がして出来なくなっていた。


警備員がいないブティックやデパートを狙い、

時間帯も考慮して、万引きをする為に、

大きなバックまで用意して、物色に出掛けるようになっていた。


万引きするものはさまざまで、香水、スタイリング剤

文房具、お菓子、おもちゃ、本、洋服、アクセサリー


仲良くなった他校の男の子に電化製品を譲ってもらったり、

交換をしたり、お金に換えてもらったりしていた。

その内、エスカレートして、欲しくないものまでも万引きして

お金に換えたりするようになっていた。

もちろん欲しい物は何でも手に入れた。

ずる休み。。。

スーパーの裏の少しの隙間で、膝を抱え

声も出さずに泣いていた・・・


どのくらいたっただろう・・・

日が落ちるにはまだ早い時間だった。

ほとぼりが冷めた頃を見計らい、

ゆっくりと見慣れぬ路地を歩いていた。


今日は何かものすごく疲れた。

ここはどこだろう・・・


ふと気付くと財布もバックもユウキの家に置いたままだった。

どうしよう、どうやって帰ろう・・・

悩んでいるとあの音が聞こえた。

目の前に見覚えのあるバイクが止まる。


「送ってく」


ユウキだった。私の荷物を手に持ち、何も聞かずにバイクに乗せた。

家に無事帰れた事を嬉しく思えた。

ユウキは私を送った後、バイバイとだけ言い残し去って行った。

どことなく、急いでいるように感じた。


家に帰ると母が帰宅していた。

「おかえり!今日はお友達と遊んでたん?」


そうやっていつでも私を詮索してくる・・・

「うん・・・

 何か具合悪くて帰ってきた

 今日、夕食いらないかも」


そう言って自分の部屋に戻って、

ベットの上でまた泣いた。


気がつくと、外はもう日が落ちかけていて、

台所の方から、母が刻む包丁とまな板の音・・・

いい香りが漂っていた。

私はまた涙が出てきた。


鏡を見るとひどい顔で、とても楽しく夕食を食べる気分にはならなかった。


その日はそのまま、自分の部屋で夜を過ごした。

夕食はやっぱり食べなかった。

母は、今日、娘が何をしたか知らずに、陽気な鼻歌を歌っていた。


案外早く、朝は来て、やりきれない気持ちで夜眠れなかった私は

思い切って母に言う・・・


「今日、熱っぽいから学校休んでもいい?」


「今日、お母さん仕事やから、家、誰もおらんよ?

 病院も連れていけんし・・・」


毎度の事だった。

学校を今まで欠席したのはインフルエンザと喪の時くらいだった。

雪降る寒い冬も、荒れ狂う台風の日も、

真夏の暑い陽射しの中も、私は休ませてもらえなかった。


母は何かを感じたのだろうか

その日は母も変だった。

私の為に、何時間か年休をとって、病院に連れて行こうとした。


「具合はどう?どんな感じなの?」


「ムカムカする・・・気分が悪い」


適当に答える。

連れて来られたのは、胃腸内科だった。

診察を受け、告知された病名は驚くべきものだった。


神経過敏症


薬をもらい、家に帰り、色々と注意事項を母から聞いて

ついに学校を休む事に成功した。

ずる休みしたのに、病気だったんだ・・・私はそう思っていた。


母が仕事に出て、私は書斎で病名を調べた。

そこに載っていたのは、笑いが出ちゃうほどの真実だった。


「精神病か・・・」


独り言をつぶやきながら、幼い頃読んだ本などを読み返す。

書斎には本が沢山あり、そこはまるで小さな図書室だった。

法律や経営学、育児書や医療関係の本、心理学や障害者について書かれた本

そして、童話や小説、辞書に料理本、美術や骨董品の本・・・

分野はさまざまで、私は小さい頃から、雨の日はここで過ごしていた。


世界遺産に目を見張り、図鑑で色んな物を知り、辞書で言葉を学び

工芸品や骨董品に触り、時代に触れ、童話や小説で想像力を養った。

それは全部母が居ない雨の日だった・・・


幼い頃を思い出し、幸せに育った事を感謝した。

それと同時に気分が悪くなる。

淋しかった雨の日・・・

薄暗くなっても誰もいない雨の日・・・


今日は誰かと一緒に居たかった。

淋しい気分になりすぎて、ユウキを思い出す。

学校だからいないはず・・・

少しだけ・・・何コールかしたら切るから・・・

自分に言い聞かせて・・・受話器を握った。


・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ガチャ

「モシモシ」


「・・・」

私は突然の事で何も言う事が出来なかった・・・


「誰?」




ツー・・・・・・・・・ツー・・・・・・・・・・・・・


私が先に切るはずだった電話は・・・気付くと淋しそうな音を出していた・・・

私は黙って受話器を置いた。

聞きたかった声・・・

受話器の向こうにはユウキと・・・誰かがいた。

誰?と聞いたその声は、明らかに女の声だった。

その女が電話を切ったんだ!直感的にそう感じた。


私がこんなに悩んでるのに・・・ユウキは違う誰かと居た。

きっと彼は・・・誰でもよかったのかも知れない。

今の私と一緒で・・・


私は彼に再会して、運命を感じていたのに、

彼は運命の人ではなかった。

先を急いだ恋に、私は自ら終止符を打つと決めた。

こんなみすぼらしい思いはもう二度としたくない・・・


お別れの印に、オキシドールをかけた安全ピンを

ライターであぶって、耳たぶに突き刺した。

ピアスの穴が3つになった。

残っていたオキシドールをかぶり、初めて家で脱色行為をした。


一人の家は大きくて、心細く寒かった。

特にする事もなく、暇だったので、陽の当たる机で本を開いた。

こんな時、彩ちゃんやユウキだったら何をするかな・・・


私は暇な時間が嫌いだった。

幼い頃から母に、時間の有効活用を言う言葉を繰り返し言われ続けてきた。

だから毎日何かしら忙しかった。

学校を休んだ私はポッカリ穴が開いたような空虚な気持ちだった。


屋根に出て、ポッカリと浮かぶ秋晴れの空を見ながら

秋空の中、運動会の練習をしてた時間を思い出した。

ほんの何日か前の事なのに、ずいぶん前の事のようだ・・・


ピンポーン


インターホンが鳴る。

誰かな・・・

魚眼レンズで外を見ると小さく人が立っている。

学生服を身にまとう・・・男の人だった。


学校のプリント、誰かが持ってきたのかも?

そう思い玄関のドアを開けた。


そこに立っていたのは、1歳年下の伴だった。

伴は心配そうに話しかけてきた。


「今日、学校休んでるって聞いた・・・」


私は伴が来た事が不思議で、じっと彼を見つめていた。

伴はあまり話した事がなく、友達とかでもなかった。


「明日から行くし大丈夫、ありがと!プリントは?」


そう聞くと伴は、恥ずかしそうに小さな紙を私に渡した。


「じゃ」


不思議な時間はすぐに終わった。

伴が帰った後、渡された紙切れをそっと開いた。


るりこへ

電話番号かいておく

30分後電話して


そうやって電話番号が書いてある簡単な手紙だった。


電話をする気はなかった。

と言うか、あまりにも突然な出来事で、

今の私にとって、伴は眼中にない存在であったし

これ以上、問題を増やすのは正直きつかった。


彩ちゃんが来た。

プリントを持ってきた。


話す気がなかったので、インターホンが鳴っても私は出なかった。

屋根に出てゆっくり目を閉じ、煙草を吸った。


私はそれから買い物に行き、未練がましくタクティクスを探し、

万引きをした・・・

デート。。。

彼は次の日、バイクに乗ってやってきた。

CBRって言うバイクに、ほどよく塗装を施して、

「今日はお前とデートやから、直管じゃないんよ」

ってニコニコして言った。

私は夏休みに見た、綺麗なバイクを思い出していた・・・

「今からどこ行くん?」

私は不安になりユウキに聞いた。

「ん?俺んち!」

はっきり言ってびっくりした。

デートと言えばお買い物に行ったり、映画見たり、

手をつないで海辺を歩いたりするもんだと思っていた。

男の人の家なんて今まで行った事もなかったんで、興味はあった。

ユウキのバイクの後ろに乗って・・・慣れない事にドキドキしていた。

高まる鼓動を聞かれたくなくて、少し離れて乗っていた。

せっかく何時間も頑張って、セットした髪が、風に吹かれて冷たくなった。

そう言えば私、ヘルメットかぶってない!!!

気付いたのはずいぶんたってからだった。

ユウキがあまりにも自然だったんで、そんな事忘れていた。

もちろん本人もかぶってなかった。


「ヘルメットなくて大丈夫なん?」


問いかける声は風に消えた。


パトカーとすれ違った。

ユウキが手を振る・・・

その瞬間、パトカーの回転灯が回り出し、サイレンが大きく鳴る。

振り返るとパトカーはUターンをしていた。


それにあわせたように加速するバイク・・・

怖い・・・どうしよう。

捕まったら怒られる・・・

ユウキをしっかり握り締め、目をぎゅっと閉じていた。


あっと言う間に事は終わった。


倉庫の中にバイクを止めて、降りたユウキは上機嫌だった。


「大丈夫?」


心配する眼差しに、私は少しホッとした。


「警察、ここに来ないかな?」


当たり前の質問だと思ったのに、ユウキは思い切り笑った。

私は怪訝な顔で眉をひそめ、笑うユウキに少しむかついた。


「現行犯か、写真とか物証ないと捕まえるの無理なんよ」


それを聞いて少し安心した。

ユウキと一緒に家に入る。


「おじゃまします・・・」

玄関で靴をそろえて、ユウキについて2階に上がる。


壁には小泉今日子のポスターと、落書きをした日章旗があって、

灰色のジュータンの上に中山美穂のレコードが無造作に置いてあった。

コタツの上にはライダーと、チャンプロードと言う本があり、

夏休みに見たような綺麗なバイクが掲載してあった・・・


黒いカバーをかけたベットには刺繍をした白い服が置いてあった。

ユウキの部屋はタクティクスの香水と、煙草の香りがした。


「その辺座って」


座る場所なんかなかったけど、頑張ってスペースを作って、座った。


「さっき面白かったね!女と単車に乗って警察追われたの2回目!!」


少しショックだった。初めてじゃないんだ・・・って

ドキドキはしたけど、面白くはなかった。

それからユウキは武勇伝らしき話を続けたが、

私には意味のないものに聞こえた・・・


「今日、何か機嫌悪くない?」


そう言ってユウキが私のそばに座った。

1階で電話が鳴っている・・・


「あ~ぁ、ちょっと出てくる」


そう言い残して彼はしばらく戻ってこなかった。

私はユウキの部屋で暇を持て余しながら部屋を散策した。

学校のノートが落ちてあった。

中を開くとキン肉マンと、ドラゴンボールの絵がいくつも描いてあるだけで

勉強した痕跡はなかった。


ケープとVO5のスプレー缶が押入れに無造作にしまってある。

隠しているつもりなんだろうけど、ムートンの端からバスケットが出ていた。

裏返しになった写真を見つけた。

I LOVE YOUって写真の裏に書いてあり・・・

表は同じ制服の女の人と楽しそうに肩を組んで映ったユウキだった。

見ていないふりをしてそっと元の場所に戻した。


電話の相手、彼女かな・・・

さっきまでなかった感情がこみ上げる。

私、ここで何してんだろ。

彼女とはもう別れたのかな・・・

頭を巡るのは写真の女の人の事ばかりだった。


ユウキが戻ってきて、再び私の横に座る。

私の肩に手を回し、ゆっくり近付く・・・

あの女の人にしてたみたいに、私にもそうするのかな・・・


そう思うと何か耐えれなくなって、彼の腕をほどいた。

まだ中学生の私には耐え難い出来事だった。


ユウキはほどいた腕を再び肩にまわし、

私に覆いかぶさってきた。


「ちょっ、何してんの・・・」


「ねぇ~、処女?」


質問の意味すらわからない私は彼の腕を・・・

彼の手を・・・

体を・・・

跳ね除けるのに必死だった。


再び電話が鳴る。

何度も鳴る。


「心の準備、してるから電話出てきていいよ

 その前にトイレ・・・行きたいし」


口をついて出た嘘を言ってみる・・・


ユウキと1階に降りていった。

トイレに入って、どうしようって考える・・・

悩んでも自分が悪い。でもどうしよう。何か怖い・・・

泣きそうになる自分を抑えて、

これから何が起こるのか・・・不安で仕方なかったけど、

でもこのままじゃどうにもならないから・・・

軽率な自分を反省しながらトイレを出た。


ユウキはまだ電話をしている。

玄関に目線をやる・・・靴の位置を確認する。

忍び足で玄関に向かい、飛び出しそうな心臓を押さえ、

私は黙って靴を取り、家を出た。

人の家に上がって、おじゃましましたを言わずに玄関を後にしたのは、

物心ついて初めての事だったかも知れない。


靴を履く暇も惜しみ、裸足で走る・・・

狭い方へ、暗い方へ・・・

逃げなきゃ・・・本能がそうさせたのかも知れない。


熱い涙が次々と頬を濡らし零れ落ちる・・・

後悔の念と動揺を私は隠しきれなかった。

運動会。。。

最近、赤い髪が増えています。

風紀の乱れは心の乱れ、

まずは服装から・・・きちんとして行きましょう。


校長先生のこの発言がすごく気に入らなくて

彩ちゃんとふざけて文句を言った。


ユウキのバイト先は精肉店で、その華奢な外見には似合わない

力仕事をしていた。

ユウキはジャニーズ系で、アイドルにもなれそうな

綺麗な男の子だった。


そう言えば私の周りには綺麗な子が多い・・・

その時に気付いた。

私は人を表面でしか見れない子なのかも知れない・・・

綺麗なもの可愛いものに誰もが魅かれる。

私は今まで、望んだものを手に入れてきた。

でもそれは間違いだったのかも知れない。


そんな思いを秘めたまま、ついに運動会の日が来た。

幽霊部員だったはずの部活に少しだけ出席して

依頼されていたドラゴンボールの旗を作り上げた。

闘魂、疾風などと書かれた旗が大きくはためいていた。


「来なくてもいいから」


運動会の前日、家族団欒のヒトトキに両親に向けて言った言葉。

悲しそうな両親の顔を見て、私は少し反省した。


高らかに鳴るスタートの合図。

応援する人たちの声。

そんな光景を尻目に私と彩ちゃんは校舎の方に向かっていった。

他校の生徒が沢山来ている。


「来んなよ、お前ら何しに来とん?いい男とかおらんぞ!」

彩ちゃんが知らない子に罵声を浴びせた。

私はただ、びっくりしてその光景を眺めていた。


私達は和くんとユウキを探す為に校舎の方に来たのに・・・

不穏な空気の中、頭をめぐるのはその事ばかり。


他校の生徒は負けじと文句を言い返してくる。

喧嘩だ・・・

私はその時、初めて知らない人との喧嘩を体験した。


向こうの方がはるかに仲間が多かった。

負ける・・・負けたくない・・・

必死で堪えて応戦した。


金髪の人が何か言いながらこっちに来ていた。

聞き覚えのある声だった。


ユミちゃん!!


それはこの前転校していったユミちゃんだった。

ユミちゃんは何人かの友達と一緒だった。

長いスカートをはき、化粧をして、前と同じように笑った。


「何しとん?」


他校の生徒は去っていった。

格が違う。

そう思った。


「久しぶりやねぇ!」

元気に話すユミちゃんは、外見は変わっても

中身は昔のままだった。


陽に透ける金の髪・・・

道路になびく長いスカート・・・

そして赤い口紅・・・

赤い靴下、赤いゴム・・・

近寄り難いユミちゃんだった。


「ヤンキーになったんよ。似合うやろ?」

そう言って笑った。


私は変わってしまった友人にかける言葉を探していた。


「・・・何で

 ・・・・何で黙って行ったん?

 私あの後、ユミちゃんのせいで結構悩んだんよ」


久しぶりに会ってそんな言葉しか思いつかなかった私は

結構何でも忘れられず、根に持つタイプの人間だった。


でもユミちゃんは気にせず続けた。

「初体験した~!まじまじ!

 シンナーとかも吸いよるんよ!

 一回泊まりにおいでよ。おもしろいから。

 夜とか遊びたい放題やし、

 単車とかも全然乗れるし」


違う人みたいだった。

話し方や笑い方、変わってないように見えたのに

違う学校で違う生活をたった2ヶ月しただけで、

こんなに変わってしまうのかってくらい、

私には別人に見えてきた。


温度が違った。


私は何も言わずその場を立ち去った。


一人で自分の居場所を探した。


運動場に戻ると、家族が来ていた。

来なくていいっていったくせに、何だかホッとした自分がいた。


「瑠璃ちゃ~ん!お弁当いっぱい作ってきたから頑張るんよ!」


昨日の事は聞いてなかったように母が微笑んで言った。


でも頑張りたいと思う競技なんて何ひとつなかった。


彩ちゃんが戻ってきた。

「和くんたち来てる!」

息咳切って言った。


友人が変わってしまったショックで私はまだ放心状態だった。

案外、その時から脆かったのかも知れない。

なぜか私は傷ついていた。


彩ちゃんに連れられるまま行った先は校門で

バイクに乗った少年がいた。


「ユウキ・・・」


ブルマ姿が恥ずかしいと思った。

何でこんな格好してんだって後悔した。

心臓の音が聞こえるくらいドキドキしていた。


「バッカじゃねぇ?」

ユウキは恥ずかしがる私に向かって言った。


「明日、代休で休みっしょ?迎えに行くから!」

って言い残して、和くんと帰ってしまった。


彩ちゃんはデートの約束じゃんって喜んでくれたけど、

私はユウキが怒っているように思えて、すごく不安になった。


家族と昼食をとった後、ブラブラしていたら、3年生に呼ばれた。

体育倉庫の裏で、私はその日、根性焼きをされた。


煙草の火を腕に押し付けられた・・・


彩ちゃんが探しに来た。

そのせいで彩ちゃんも根性焼きをされた。


私のは軽かったけど、彩ちゃんのは痛そうだった。

保健の係に言って、テーピングを持ってきてもらった。

先生にばれないように二人でそれを巻いた。


親にもばれないように・・・


彩ちゃんのお母さんは、運動会に来てなかった

ユウキ。。。

それから度々、私達は学校を抜け出した。

別に理由なんかなく、ただそれがブームだった。

抜け出す時と、戻る時、最高にドキドキした。

彩ちゃんの近所に住んでる菊ちゃんとヒロちゃんとも仲良くなった。


髪は少し茶色になった・・・


薬屋で、オキシドールを買って、彩ちゃんの家でよくかぶった。

手が白くなるのが気持ち悪くて、頑張って洗った。

彩ちゃんのお兄ちゃんの部屋で、煙草も吸うようになった。


毎日が新鮮で、刺激的だった。そのおかげで、

塾や他の習い事など、面白くない日常もあったけど我慢してすごせた。


ある日学校の帰り、彩ちゃんの家にいつものようにあがりこんだ。

玄関に靴が沢山あった。

家の中から男の人の笑い声がする・・・


彩ちゃんのお兄ちゃんが友達を連れてきていた。


「あ~~~~!!!」

私はその時、指を指されて叫ばれた。


それは夏休み以来の出会いだった・・・

ナンパ男がそこに居た。


仲良くなるのに時間はかからなかった。

ナンパ男はユウキと言う名前で、よく見るとかっこよかった。

彩ちゃんの家に来てるのに、ユウキとばかり話して過ごした。


彩ちゃんは全然平気って言ってたから、調子に乗って遊ぶ約束もした。


電話番号もバイト先も教えてもらって、上機嫌に毎日をすごした。

夜の8時に毎日電話をくれたから、私は彼にどんどん魅かれていった。


「運動会に遊びに行くから!」

って言われたんで、彩ちゃんと練習も頑張った。


彩ちゃんはいつの間にか、私の知らない間に

お兄ちゃんの友達の和君と付き合うようになっていた。


和君とユウキとお兄ちゃんは毎日、夜遊びに出掛けているらしく

彩ちゃんは心配だとよく言っていた。


私はきっと暴走族だってわかっていたけど

なぜか彩ちゃんには内緒にしていた。


彩ちゃんの知らない和君やユウキを

私は知ってる。

その優越感にひたりたかったのかも知れない。

脱出。。。

学校では運動会の練習が始まっていた。

毎日体育の日々で、繰り返しやる遊戯に疑問を感じていた。

中でも総合体育が大嫌いで、他の学年がうっとうしく感じた。


「暑いよね~!」

「だるいよね~!」

って口々に言い合ったが、状況が変わるわけでもなかった。


4時間目が終わり、あまりの暑さに耐えれずに、私は保健室に行った。

彩ちゃんが居た・・・

彩ちゃんは小さくて色白、ハーフみたいな転校生だった。


「具合悪いの?」

初めて話しかけてみる・・・


「私、3時間目からサボってんの♪」


予期せぬ答えだった。

それから私達はお弁当を食べながら色々な話をした。


彩ちゃんは小学校の時、少しの間、こっちに居た事

両親が離婚して、転校したけど、また戻って来た事

戻って来たけど、あまり覚えてる人がいなくて不安な事

今住んでる家の近所にいる同級生の事


話は尽きなかった。


「5時間目どうする?」

そんな話になった時、お互いが同じ気持ちだったはず・・・


「小学校に遊びに行かない?」

彩ちゃんが提案した。


私達は保健室の先生に挨拶をすると保健室を出て

上靴をはいたまま、学校の外に向かった。


ドキドキした。


車が来るたびに身を潜めながら、走って小学校に向かった。


「懐かし~!!」

「何かちっちゃくなってない?」


そんな話をしながら昼休みの小学校に入っていった。

ウサギ小屋のそばにいた小学生がこっちを見ていた・・・


校舎に入ると私達は保健室に向かった。

「保健室の先生ってみんな優しいよね!」

そんな思い出話をしながら保健室のドアを開けたが、

先生は不在だった。


誰もいない保健室。


職員室に行く勇気はなかった。


「どうしよっか?」

私の問いかけに彩ちゃんは答えなかった。


「本当はね、目的があったんだぁ♪誰もいなくてよかったよ」

そう言いながら薬が入っている戸棚を開けた。


「何してんの?」


「これこれ☆」

彩ちゃんが取り出した物はオキシドールと書かれてあった。


「消毒液なんだけどさぁ、髪が脱色出来るって噂♪

 さっ、用も済んだし帰ろうか!」


私達は来た道を、もし見つかった時の言い訳を考えながら

今度はゆっくりと帰り始めた。


「今日、これ使って一緒に遊ぼう?そんで、これから毎日、一緒に帰ろうょ!」

彩ちゃんは強引に何度も誘ってきた。

私は彩ちゃんのペースがあまり好きではなかったが

断る理由も見つからなかったんで、黙ってうなずいた。


学校に戻ると5時間目が始まっていた。

体操服に急いで着替えた。

彩ちゃんの体操服はブルマではなくて長ズボンだった。。。


先生に二人で考えた遅刻の理由を言う・・・

二人して校庭を3週もさせられた。


でも何か楽しかった。


その日は帰りに彩ちゃんの家に行った。

急に仲良くなりすぎて少し怖かったけど、

悪い事を一緒にして、秘密を共有した仲になったからかもと

自分で自分を納得させた。


お風呂場に行き、彩ちゃんがオキシドールを半分かぶった。

何となく悪臭が漂うが、気にせず私もかぶった。


どんな色になるんだろう・・・そう思いながらドライヤーをかけた。


それから彩ちゃんの家をゆっくりと見渡す。

机の上にはお金が二つに別けて置いてあった。


「あ、それね、家、お母さん夜いないんだよね・・・

 だからさ、ご飯代?」

って言い訳のように彩ちゃんが言った。


「ふ~ん」

私は冷静に返事をしたが、すごくその事に興味があった。

夜勤かな?忙しいのかな?

聞きたかったけど、その場の空気がそれをさせなかった。


夜はお兄ちゃんと二人らしい。

お兄ちゃんは高校2年生で、いつぞやのナンパ男と同じ高校だった。


私はその後、何事もなかったように帰宅した。

彩ちゃんの家と同じ、誰もいない家。

でも机の上には二人分の手作りのおやつがあった。

台所のお鍋をあけると今日の夕食が作ってあり、

冷蔵庫を開けると、隙間がないくらいに詰まっていた。


私は彩ちゃんとも違う気がする・・・


愛情はいたるところにあふれかえっていた。

カナちゃん。。。

夏休み明けのテストもうまくクリアした。

成績、落ちてると思ってたけど、思ったより出来てて、

両親を喜ばす事が出来た。

夏休みに書いた、読書感想画と感想文、

今年もまた選ばれたねってお祝いをした。

「自慢の娘だよ」って父の口癖。

「さすがお姉ちゃんだね」母も満面の笑みで言う・・・

私は両親から褒められる為に頑張っていた気がする・・・

その言葉を聞き、その笑みを見る為だけに・・・


妹は勉強が出来なかった。

三角形でつまずき、分数、小数点でつまずき、

漢字は覚えれない、地図もわからない、

実験をすれば服を汚して帰り、

絵を書けば色彩感覚がなく、何を書いたのか不明だった。


でも外見が父親似で、南国系の顔立ちをしていたせいか、

誰からも気に入られ、可愛がられた。


唯一、体育だけは得意で、学校対抗の記録会で

いつも呼ばれて行っていた。

父が監督をやってる子供会のソフトボールのチームでもピッチャーで

自転車も水泳も、私より早く覚えた。

それが羨ましくて、ないものねだりで・・・コンプレックスだった。


私は、時々、母親から愛情を受けていないと感じる時があった。

そのきっかけになる事件に妹は関わっていた。

それは私が5年生くらいの頃・・・


学校から帰ると、妹が窓辺に座って珍しく本を読んでいた。

私の本だった。

「おかえり」

涼しげなその態度が気に入らず、私は妹に駆け寄った。

「何の本?」

わかっていが、わざとに聞いた。

「知らな~い」

妹が答える。


「それねぇ、カナちゃんが見ても、きっとわからないよ?」

意地悪に問いかけた。

「別に読んだっていいじゃん!」

そう言って妹は本を高く上げた。


「返してよ!それ、お姉ちゃんの本でしょ!」

我慢してたのに・・・貸してねって言えば貸したのに

私は別にどうでもよく、どこにあったのかわからないような本を

必死で妹から取り上げようとした。


妹がバランスを崩した。

窓の下には割れたレンガが二つ、置いてあった。

落ちるかも?瞬時に計算は出来たが、止まらず、

私はついに妹の手から本を取り上げた。

その瞬間、カナちゃんが大きく、悲鳴のような声で泣き出した。


私は、見なくても、何が起こったか予想出来た。

怖くて見れなかった。

呆然と窓際に立ちすくんだ。

視界に赤い物がどんどん広がっていく。


カナちゃん死んじゃうのかな・・・?


色んな思いが巡った。

私は振り返りそのまま外まで走った。

泣き喚く妹を見捨てて・・・

誰かを探しに行こうとしてた。


ちょうど、仕事から帰ってきた母の車が見えた。

「お母さん!」

車から降りた母は、妹の尋常じゃない泣き声に気付いた。

母は、事情を話そうとする私を通り過ぎ、

妹の元へ向かった・・・


それからどのくらいたっただろうか・・・

泣きじゃくる妹を抱き、母が家から出てきた。

服とタオルが真っ赤に染まっていた。

「病院に行くから!」

そう言い残して母と妹は姿を消した。

その時の母の形相を今でも忘れない。

しかめ面で、怒った様な、それでいて悲しい様な・・・


母は察したのだろう。喧嘩の末そうなってしまった事を・・・

それまで妹と喧嘩を幾度となくして、

いつも同じくらい怒られていたけど、

その時は違った。

何も言わず、ただ冷たい目で厳しく、私の方を見ただけだった。


置いていかれた・・・

家から車まで、ポタポタと続く血の痕を見ながら

孤独を感じ、私は泣いた。

家に入るのが怖くて、なぜだかひどく悲しくて、そのうち暗くなり、

父が帰ってくるまで外で・・・一人で泣きながら待った。


その件があってから、

妹の傷を見るたび責任を感じ・・・

母の大事な物を壊してしまった・・・

そんな感情が幼いながら、深い傷跡として心に刻まれていた。


だから母の喜んだ顔を見るのが好きだったのかも知れない・・・

ずっと妹にコンプレックスを感じてきたのかも知れない・・・

妹は結局5針縫って、一生消えない傷を負った。


ごめんね・・・


その一言がその時言えたら・・・


あの時病院に無理にでもついていっていたら・・・


何かが変わってたのかも知れない。

学校。。。

家族との会話が少し少なかった夏。。。

この前の春休みは、学校が始まる前、

家族みんな、一緒に買い物に行った。


親が知らない間に、私は少しだけ、大人になっていた。

一人で近くのお店に行き、勉強する為に文房具を選ぶ。。。


選ぶ。。。


なぜかその時は全然買えなかった。

全部1学期と同じまま、お金だけもらって、

私は何も買わなかった。


学校が始まる・・・

真新しい制服を着て、始業式に出る。

私は違和感を感じた。

ここは私のいる場所じゃないと思った・・・


仲が良かったはずの友達が転校していた。

小学校の時の記憶が少し蘇る。


そう言えば夏休み、全然遊んでなかったよね。。。


何があったのか知ったのは、始業式が終わった後だった。

「原さんは転校しました」

先生が淡々と告げる。

「そして、このクラスのみんなに新しい仲間が出来ます」


ざわつく空気をよそに、一部の女子が噂していた。

「原さん家、すごかったんだって?」

「そうそう、毎日喧嘩・・・」

「お姉ちゃんも悪そうだったしねぇ」

「家庭環境悪そうよね!」


ユミちゃんの家は、両親と3人姉妹。

ユミちゃんは末っ子だった。

中学になって、いきなり

「小学生の弟が出来たんだぁ」って言ってた。


それからわずか1年余りの出来事だった。

両親が離婚して、違うお父さんと、弟と暮らす為、

どうやら引っ越したらしいけど・・・


私にはピンとこなかった。

お母さんが違うお父さんと暮らすなんて、

それまで考えたこともなかったし、考えても考えても

少しも想像出来ないくらい、ありえない話だった。

生まれて一度も、夫婦喧嘩すら見た事がなかった・・・


私はその日、沢山話して、沢山聞いた。

父と母の馴れ初め、喧嘩の有無、結婚のきっかけ、

私が生まれた時の話、思い出の新婚旅行。


自分の家にはありえない不幸を、誰かと比較して安心した。

この家に生まれてよかった。

親の都合で転校しないでよかった。


友達が転校しても、事情を知らなかったショックより、

そう思った軽薄な自分がショックだった。


そうしてまた、ユミちゃんの変わりに、誰かが席に座る。

そんな仕組みを小学校の時と違い、すんなりと受け止めた。

ナンパ。。。

その日も、薄暗い時間に出掛けた。

風はまだ冷たく、涼しく、どこからか新聞配達のバイクの音と

こだまする何匹かの鳥の声を聞いた。


まっすぐ目指すはこの間、バイクを見た場所。

忘れない、忘れられない楽しそうな少年達に、

私は恋をしてたのかも知れない。

何日もそこに通った。


夜も、バイクの爆音がすれば二階の窓から

小鳥のように真っ暗な外を眺めた。


もう一度会いたくて、会ってどうするなんか考えずに

ただ無償に会いたくて。。。

そんな気持ちだった。。。


家に帰りかけたその時、

この前と同じ音、遠くから聞こえる。。。

サイレンの音とともに。。。


一台のバイクが、急いで通り過ぎた!

この前のとは違う。

一度しか見てないのに、脳裏に焼きついて離れない

綺麗な黒と金の模様。


またバイクが通り過ぎる。。。


今日は多いな。

あのサイレンの音は火事かな?

そんな事を思いながら、心なしか家路を急いだ。


「お姉ちゃん何してるん?」

大きな音の車が止まった。


「何なん?中学生やん!」

「何年?」


「2年」


「そぉなん?じゃぁこいつが一番年近い?」


紹介されたのは高校2年生・・・

聞けば慶ちゃんとは違う高校の人だった。

農業高校・・・それは地域ではもっぱら、不良の行く学校と

名高い高校の名前だった。


「ねぇ、今からどこいくん?」

「名前は?」


私はしつこく車でついてくる人たちに苦笑いして、

早足で家路についた。

今日のあれは何だったんだ?


後でわかった事だけど、それが初めてのナンパだったのかも知れない。