あと1刻で太陽が真上に上がる頃。
デュナンよりさらに西の山小屋にて。
「ねぇ、“カフ”さんって、どんな人?」
「え?」
窓から差し込む陽気が心地よく、セレナはついうとうととまどろんでいたが、
突然声をかけられて一気にこちらの世界に戻ってきた。
「なぁに? マイラ、なんて言ったの?」
「カフさん。 どんな人なの?」
マイラと呼ばれた少女は、陽だまりのような暖かい笑顔をセレナに向けた。
それをまっすぐに受け止め、問われた少女は少し頬を赤らめながら簡潔に答えた。
「すてきな人よ。 でも、どうしてそんなことを聞くの?」
明るい緑の瞳を細めたのは、
向かい合った1歳年上の友人の笑みにつられたせいか、
それとも、想い人に思いをはせたからか。
「そうね……、大切な妹を持つ姉の心境だから……かな」
「じゃあ大丈夫よ。 マイラもカフのこと、きっと気に入るから!」
「ふふ、そうだといいけど」
-同時間、別の場所にて-
「よぅ、愛しの彼女とはどうなんだ?」
「……ッぶハ!!!」
少し早めのランチの最中に、あいさつよりも先に飛んできた言葉。
レオはしばらくせきこんだ後、少し涙のにじんだ目を向けてみれば、
普段は不機嫌な顔をした男 ―カフが、今朝は妙ににやにやと、珍しく笑みを浮かべている。
しかしそれは無邪気なそれではなく、えらく下卑たものだったが。
「ずいぶん遅くに起きてきて、今日の第一声がそれか……」
「これでも十分に早いと思うけどな。……そだな、いつもうるさいのがいなかったから、結構寝られたか」
「ゴリガンは、あの放浪神とかいう男と、話があるとかなんとか。セレナはその間、退屈だからと勝手に遊びに行ってしまったな……あ、勝手に食うな!」
「スキを見せるのが悪い。 で、そのお姫様の行った先が、騎士様の恋人殿、と」
「べ、別に恋人というわけでは……」
「わかってる。 いまだに告白すらできない戦友への、せめてもの心遣いだ」
「………………」
同い年のハズなのに、どうしてこう、何も言い返せないんだ?
思わず突っ伏したレオの頭上から、心の内を知ってか知らずか声が降りかかる。
「興味はあるから、今度紹介しろよ。 値踏みしてやるから」
「絶対断る!!」
・・・・・・・・・・・・・・・
「あの……なんでこんなことになってしまったんでしょうか……」
見た目木製の人面杖が、さらに土気色の顔色になってしまっている。
「……すまない」
俺のせいではない。が、謝りたい気持ちだった。
目の前にはセレナ。
そして、彼女を挟んでふたりの覇者、カフとマイラが向かい合っている。
カフの表情はいつもと変わらず。 ただ、じぃっとマイラを見ている。
そしてマイラの方は、明らかに狼狽している様子。
セレナに向かって何か言いたそうにしてるが、肝心の声が出てこない。
わかる。
だって君はもっとまともな人間を想定してきたのだから。
少なくとも、この蒼いモヒカンをした、目つきも見た目も悪いチンピラじゃないハズだ。
「………………あの」
「25点」
「…………………………………………ハイ?」
やっと落着きを戻して声が出たと思ったら、急にカフがしゃべりだした。
「それでも身なりや化粧をほどこせば、まぁまぁ……かな?」
「? ………………………ッ!?」
最初はポカンとしていたが、点数の意味がわかるなり、みるみる表情が変わっていく。
バルベリトと対峙したときですら、こんな顔はしたことがない。
先ほどとは違う意味で声の出てこないマイラに、カフは涼しい顔で、
「あぁ、大丈夫。 物好きってのは、いるもんだから」
「 悪 か っ た わ ね ッ !! 」
「ヤバい!! 止めるぞゴリガン!!」
「はっ、はい~っ!!」
完全に頭に血が上り、ブックを手にした彼女を止めようと、
あわててふたりの間に飛び出したひとりと一本。
そんな騒ぎから、ひとり取り残されたセレナはぽつりと一言。
「相性、最悪?」
>>>>
同じく 07.12頃に書いたSS
「覇者」 というのは、カルド世界において神候補という意味ですん。
そんな大仰な存在なのにやってることはこんなもんですw
ちなみに
セレナ16歳 あとのメンツは17歳。
あ、人頭杖こと、アーティファクトのゴリガンは世界ができた時とほぼ同じくらい昔の品ですん