エッセイノベル ほしの酒菜〜あきら編6〜
【あがり】
「いや、最悪でしたよ。写真と違うし。自慢話ばかりだし。朝まで独りよがりでしたしね。」
ボウモア12年のハイボールを煽る。程よいスモーキーさと、ピートの香りがお気に入りである。以前、食事だけした男性が、"ボウモアはアイラの女王"としきりに言っていた。若い女を口説くための口上に使われるのならば、そんな女王は御免だ。
「デートが良くなかったようですね。心中お察しします。」
「全くです。わざわざ美容室まで行ったのに。極めつけはですね、運転。私より下手くそでしたよ。その時に一気に冷めました。」
浮かぶ炭酸の泡に、香り立つアイラモルトの芳香。ボウモア12年、男性と飲むと大人びていると言われ、友人と飲むと男の趣味と言われる。
私は大好きだ。このウィスキーを若くして知れたことを嬉しく思う。むしろ、知るまでの数年を損した気持ちになる。
「つまらない人だったんですよ。セックスした途端に彼氏気取り。私はお腹が痛くて、もう黙ってましたが。」
「お身体は大事にされて下さいね。しかし、評価が低くとも、そういったことはされるのですね。お酒のせいですかね。」
「いえ、一滴も飲んでません。こんなにつまらない人たがら、むしろセックス位は良いのではと期待しましたが、ホントにダメでした。」
ボウモアのおかわりお願いすると、先にこちらからと料理を供された。
「真牡蠣のオイル蒸しです。殻を剥いた真牡蠣にオリーブオイルを流し込み、パルメザンチーズと、蟹のほぐし身で蓋をし火を入れました。熱いうちに、どうぞ。」
殻の中でグツグツとたぎるオリーブオイルと、オイスターエキスが混ざり合う。パルメザンとカニを、かき氷の要領でオイルへ浸し、牡蠣と一緒にひとくちで頂く。想像以上だ、おいし過ぎる。
「ほんと、おいしい。それぞれがコク深いはずなのに、不思議とまとまってる。」
「それは、塩味ですね。牡蠣、カニは海水、チーズは製造過程で塩を要します。それぞれコクのベクトルが違いますが、仄かな塩が、味を調和させてくれますよ。それにボウモア、アイラの潮風の味を教えてくれます。」
何とも贅沢な、かつ成熟した味だ。調味は全く感じない。こういうのを大人の味というのだろう。もちろん、年齢的な話ではない。
「ススムさん、人間の肉体的な全盛期は若さによると言いました。でも若い男女のセックスって、素晴らしいばかりじゃ無いですよね。やっぱり、精神的な部分が未熟だからでしょうか。」
ナイトライフの悩みは尽きない。行為が嫌いなわけではないが、相性が悪いとかなり苦しい。
「どうでしょう。個人的には、無理にしなくてもとは思いますね。子孫を残すことが目的なら違うでしょうが。その行為も、人間にとっては立派な娯楽のひとつじゃないですか。見栄や嘘を吐くより、リラックスしてる方が良いのでは。娯楽ですから。そうやってなれていくんですかね。」
慣れ。男性への慣れ。特に不信になったことは無いが、正直、期待をしていないのも事実である。
ただ、恋愛をするなら今 という固定観念が、間違っているとは思えない。する必要はあるように思う。
その考え方が、いつしか"しなければならない"へ昇華し、デートをよりつまらなくしているのか。