事件だ!


マーシュは訳がわからなくなっていた。


鳴り止まない、連続し続ける爆音。

その原因は、国の外どころか内にまで忍び込んでいたエリシア軍の砲撃だ。

街は砲弾により蹂躙され、建物が破壊され始めた。

今まさに、ロンヴォールは外敵からの攻撃を受けていた。


なぜ……なんで………。

そんなことしか頭には浮かんでこない。

あわてて皆、学校へ避難したが、こんなところに隠れる場所などありはしない。
最初の爆発の時点で、もうすでにこの街にはエリシア軍の攻撃が展開されていた。

兵士がそこらじゅうを歩いている足音がする。


先生が生徒達に言い聞せる。


「大丈夫、大丈夫です。
軍人は民間人には抵抗しなければ手を出しません。
落ち着いて」


少しずつ生徒達も小さな年少の子達を慰めたりして落ち着きを取り戻す。


しかし


ズタァアアアアアンッ!
ズダダダダタダダダダダンッ!


わずか数メートル先で鳴らされた銃声に、教室中が張り詰めた。

エリシア軍の声が聞こえる。


「一人相手に弾使いすぎました」


「構わない、皆殺しにしろ、弾は山ほどある」


(みなっ……!!?)


思いがけない言葉に一気に緊張が高まる。


見つかったら…



殺される



カタカタ…がたがた……。


信じられない事態に、マーシュは情けなく震え出した。

しかし、恐怖に襲われたのはマーシュだけじゃないようだった。



「うっ……」



子供が一人、我慢できない呻き声を漏らし


「うあああぁあああああああああ!!」


声が爆発した。
何人かがあやそうとしたが、決壊した心のダムはもう止まらない。
声はいつまでもやむことはない。


そしてとうとう

ピシャッと、大きな音と共に教室の扉が開けられた。



「久しぶりだなぁ!ここにくんのも」



城下町についたマーシュは街の散策を初めていた。
完全創造能力に目覚めているのが確認され、王位につく前、彼はここで育った。
懐かしい屋台の匂いが、気持ちを高揚させる。


「みんなはやっぱ学校かなぁ」



「行ってみればわかることよ」




相棒の提案もあり、マーシュは街の学校へ向かった。



「マーシュ!久しぶりじゃねえか!」



学校に向かうと、いきなり友達に囲まれる。
ここはまだ貧しい街で、学校も一階建て、教室も一つだけという小さな建物だ。

覗くだけで良かったのだが、校舎の小ささが裏目にでてすぐ見つかり、授業中にも関わらず、すぐに教室の中へと連れ込まれる。
先生も大して気にした様子もなかったみたいで、軽く挨拶をすると先生も返してくれた。



「久しぶりね、マーシュ。今、神学の授業なのだけど、ノエル・エヴァンスについて知っていることを挙げてもらっていいかしら」



マーシュはノエル・エヴァンスにはあまりいい思い出がない。
先生は軽い挨拶代わりだったのだろうその質問に、マーシュは胸が痛むのを感じた。
楽しい気分が少しだけ湿気たものになる。
だけれど、顔には出さず、すぐに答えを返した。



「ノエル・エヴァンス
古代時代の英雄、また世界初の完全創造能力者として知られる。

功績は多々ある。

最もポピュラーなものは、ロンヴォール王国の建国、そして限定条件の創造である。

かつて、能力(チカラ)を無制限に使うことができた時代。
無法者達がいたずらに能力(チカラ)を振りかざさぬよう、全ての能力者に、限定条件と呼ばれる、能力を発動するための条件をかしたのが彼だ。
彼の力は絶大であった。
本来他人の体質、または生命への能力(チカラ)による強制的な介入は不可能なのだが、彼はその能力(チカラ)をもって、全ての能力者が限定条件を満たしていない限り能力(チカラ)が使えないよう体にインプットした。
その能力(チカラ)は現在も続いていて、今を生きる我々も各々の限定条件を満たさない限り、能力(チカラ)は発動しない。

って感じですか?」


「いーえ、30点ね。」


頑張ったつもりだが評価は辛口だった。


「ノエル・エヴァンスは能力(チカラ)や武術もさることながら、何よりも周りの人間を幸せにすることに尽力しました。
古代の北の大陸に対する差別をなくし、行き過ぎた国家体制を撤廃したのも彼です。

『上から下、下から上には言葉が届かない』

と言う言葉を残し、対等を望み、貧しい者の言葉を聞き届けるため、決して裕福な暮らしをしようとはしませんでした。
彼の死後、彼の意志を継ぐため生まれたのがエヴァンス教団であり、その意志は今も息づいています」



と、先生は締めくくる。




マーシュは説明を聞きながら思う。

(そうだった、憧れだったのんだよな……ずっと。)


胸の痛みは今も残る。
決して忘れられない、忘れてはいけない過ち。
それが今、改めて彼を責める。



(ええい、こんなの柄じゃねぇぞ)


胸の痛みを振り払うように、マーシュは授業後友達と遊ぼうとしたが、そのとき






ッカアァアアアアアアアアアンっ!!!!!




耳を突き破るような爆発が起こった。


彼女はロンヴォールの城下町にいた。


活気に満ちている、露店の集まった通り。


そんな中を彼女は王宮に向けて歩いていく。


女はかなりの美人で
何人かの男は彼女に見とれていた。
「何かしただろうか」
そんな顔で首を傾げられ、、男達は顔を真っ赤にしていってしまう。


ロンヴォールの王宮まで、まだまだ先は長い。

時は一刻を争うかも知れないが、焦ることでもない。
彼女の足取りはゆったりとしたものだった。



そんなとき、ふと、あるものが彼女の目に止まった。




(エリシア人と…なんだあれは…?)



彼女もロンヴォールに行く目的上、最近のロンヴォールのことはある程度調べている。


確かに、今日はロンヴォールへのエリシアの合併について会合があるはずだ。
しかし、だからといってそこにあるモノの意味はわからない。




そこにあったのは、巨大なリアカーだ。


リアカーには、沢山の野菜が載せられていた。


一見平和な光景だが、そこには戦の匂いが感じられ、銃の陰が垣間見ることができる。


比喩ではない。


リアカーの中、野菜に覆われたその下から、実際に火薬の香りがし、銃が姿を隠しきれずにいた。


彼女の顔が少し険しくなる。




やはり急ごうか…。


進む足が、速くなった。