シッダールタ(ヘルマン・ヘッセ)
お釈迦さまの生涯について、いろいろな研究書・解説書はあるのですが、
「小説仕立て」はそれほど多くありません。
そのうちの一つが、この『シッダールタ』(新潮文庫)。
中学の課題図書で『車輪の下』を読まされたりする、
あのヘルマン・ヘッセの小説です。
仏教界でどう評価されているのかは知らないのですが、
わたくしとしては、大変に好きな一冊です。
これは、釈迦の一生と銘打っているわけではなく、
仏教者の悟りへの道を小説にしたと言ってますが、
まあ普通に考えて、お釈迦さまの生涯の小説化でしょう。
ただ、学問的・歴史的な厳密さより、
文学性を重視している、ということなのでしょう。
シッダールタは、なかなか悟りません。
女を見て欲情に悶々としたり、
捨ててきた息子への愛=執着が捨てきれなかったり・・。
しかし、最後にシッダールタが浮かべる微笑は―ー
「静かな、美しい、はかり知れぬ、おそらくやさしい、
おそらく嘲笑的な、賢い、千様もの仏陀の微笑であった。」
「その顔は、今しがたまであらゆる姿、あらゆる生成、
あらゆる存在の舞台であったが、その表面の下で千差万別の
深い神秘が幕を閉じた後は、不変不動であった。」
(高橋健二訳)
「嘲笑的な」というところが、好きなのです。
とにかく、美しい小説であります(書かれたのは1922年)。
たとえば「愛」と訳されている言葉は、、
ヘッセにとって、仏教にとって、どういう概念か? とかいう、
考えるべきことはたくさんあるのでしょう、でもとにかく美しく面白い。
少し前に、世田谷の「東京禅センター」で、
「シッダールタを読む」という講義があったのに
寝坊して行き損ねたのが悔やまれてなりません。