*卒業後です。
R18です。
若干(?)捏造入っています。
龍也先生が野獣です。
その状態が苦手な方は避けて下さい。すみません。




「お前の全てを喰らう…」(龍也x春歌)
 
恋人で上司。
その距離感が難しいのか、
春歌は台所に立つ龍也の指示通りに動いていた。
まるで…少し前。
事務所での仕事を引き受ける様に。
 
「これは…」
「ああ。炒めるからそこにな」
「はいっ」
 
一人暮らしが長かった為か、
手際の良い龍也の動きを横から眺める春歌。
第三者がその場に存在していれば、確実に『邪魔になっている』と、
言いたくなる程になっているのに、
気付かない。
勿論。
作り手が、その言葉を言い出す訳も無い。
 
「凄いですね…私なら、そのまま入れています…」
「ん?ああ。そのまま入れちまうと、筋が引っかかるからな」
「確かに…」
「でも。お前は覚えなくて良い」
「…え?」
 
手に包丁を持ちつつ。
視線は食材に。
その恋人からの言葉は、『お前は不器用』と言われている様で、
春歌の視線が指先から、床の方に向けられる。
 
恋人の人気は、上昇ばかり。
誰かに聞く事も無く。
テレビのスイッチを入れるだけ。
部屋。本屋で雑誌の表紙に目を向ければ少し余所行きの表情で、
姿を見る事が出来る。
 
今。
まだ作曲家の勉強途中の為。
春歌が恋人に出来るのは、
事務所処理のみ。
 
後ろ向きにならずに前向きに。
付き合いだして、眩しさで立ち眩みさえ感じる程の姿を見て
自身も成長していると感じてはいても、
足りない事の方が多い。
 
___ふぅ。
 
聞こえない様に溜息をついた時。
龍也の手が端に置いてあった鍋に当たりそうになり、
咄嗟に春歌は自分の手を差し入れた。
 
「きゃっ」
「おいっ」
 
思考を内側に向けていた為に、
反射的に差し出した事で感じた衝撃に軽く声を出すと、
すぐに包丁を手放した手が包み、怪我の確認を始める。
 
「ったく」
「…すみません」
「お前。この鍋に火が付いていたらどうするんだ。
今は大丈夫だが。お前の手は作曲家の手だろうっ」
「…っぅ」
 
ぎゅっ。
火傷の注意をしつつ、
心配のあまり、握る手に力を込められ、
春歌の眉が寄せられる。
 
仕事上のミスで、注意される事はあっても、
自身の体に傷を付ける行為の方が激しく言われる。
それを知ってはいても、
春歌の行動は止まらなかった。
 
「…龍也さん。明日仕事で…」
「確かにな」
「私は事務処理ですし」
「お前なぁ。俺がっ」
「あのっ。でも…私が作曲するのと同じ位…龍也さんのお仕事。料理。体
…指先が私は大切で…」
「…春歌」
 
『これだけは』その気持ちが強いのか、
龍也の怒りの隙間で、強く思う気持ちを瞳に涙を溜めながら、重ねた。
…龍也の恋人として、成長した成果…なのか…。
 
「告白みたいだな」
「え?」
「俺の全部が好きだ。そう言っている」
「…そうです。私は私を作っている全部よりも、龍也さんの…全部が好きで大切ですから」
「おい…大人を煽るな」
 
完全に夕食調理の手が止まる。
瞳が耐え切れなくなったのか、ポロリと涙が零れ…
春歌の好きな指先がそれを掬い上げた。
 
「可愛いんだよな」
「え?」
「普通は、お前位の年になると、
ある程度は下心。欲望やら含んだモノを言い出したり、
行動するもんなんだが…
瞳も、唇も、本当に思った事を素直に言い出す」
 
瞳。唇。
言いながら贈られるキスをくすぐったそうにしながらも、
心に感じていた引っかかりで、涙は止まる事はない。
 
大きな瞳から、更に零れる涙。
 
「どうしたんだ。
もう。怒ってねぇだろう?」
「は…い。でも…私料理…」
「ん?ああ。ったく。面倒だな」
「……っ」
「うわっ。泣くなっ。面倒。言い方悪かった。
お前は素直に受け取るからな。
漠然とした言い方は拙いんだった」
「?」
 
ゆっくりと頭を撫でる仕草。
他の誰かにする事も無い優しげなモノは、
マイナスに落ち行く思考を浮上させ、体から力を奪っていく。
 
頬を両手で包み込むと上に向け、
背の高い自身の顔に引き寄せると、龍也はそっと贈る。
愛の言葉を…。
 
「お前は、俺の横で見ていれば良いんだ。
料理は嫌いじゃない。
俺だって、愛しい指が守れるなら。
何でもする」
「…ぁ」
「分かったか?」
「…はい」
「でもな…」
「え?」
 
 
ぐいっ。
艶やかな泣き顔を更に引き寄せ、
春歌に軽くキスをすると、腕の中に閉じ込める。
 
____はぁっ。
 
首筋に感じる息遣いは、
人のモノと言うよりは、野獣に近いモノ。
 
役柄で、多くの艶場面を演じてはいても、
体の奥底から吐き出す様な息遣いは出せない。
 
「…ぁっ」
 
普段感じる風とは違う熱風に近い吐息で、
足先から力が奪われる。
 
「春歌。
お前が欲しい」
「…でも…」
「後で食わせてやる」
「…ぁっ。あの…っ」
「俺だけの料理。『春歌』を喰わせろ」
「…はぃ」
 
がばっ。
抱き上げ、視線で春歌の力を完全に奪うと、
唇を噛む様に、キスをする。
 
抱き上げただけでなく、
唇。体に愛撫を与えても、
鍛え上げられた腕は、獲物を落とす事も、揺らす事もしない。
 
はふはふ。
唇同士の隙間。
短い呼吸を以前教わった通りに春歌はしていたとしても、
完全に喰い尽くすキスには叶わない。
 
「ぁっ」
「美味い」
「…ぁ…りゅっ…」
「お前がいれば良い。
俺の心に力を栄養を与えられるのは、
お前だけだ」
「…ぁ…っぁっ」
 
ベッドルームまで移動する道。
春歌の服が少しずつ落とされていく。
花が咲く様に。
 
 
 
「ひぁぁっ」
「んぁっ」
 
首筋。
胸先。
足先。
守る指先以外に整った歯の跡が刻まれていく。
 
最初は噛まれる事に恐怖を感じていた体も、
その感覚が快感になり…、
頭と心に弾むリズムが生まれだす。
 
「きょ…くが」
「感じろ。お前と俺の曲を」
「ぁぁっ」
 
反り返る体。
弾かれる楽器の様になり、
数時間後。
甘い、かなり遅れた夕飯を与えられるまで。
春歌は遠くに音楽と共に飛ばされる…。