入院中、一度だけ外出許可をもらったことがある。
行き先は、病院の裏にある美容室。
点滴もしなくて良くなって、病院内を自由に歩いて良いと言われた頃だった。

看護師さんたちから場所を聞いて、よたよた歩いて、散髪に行った。
その美容室は、実は、男性はやっていないとのことだったが、私が入院患者だとわかると、とてもていねいに対応してくれて、散髪&洗髪していただいた。
入院中、毎日髪の毛を洗ったりできなかったし、髪の毛も伸び放題だったので、とてもさっぱりした。
ただ、病院の裏口を出てすぐの場所にもかかわらず、行き帰り、歩くのが大変つらかった。
ゆっくりゆっくりとしか歩くことができない。
後日、退院するときも、地下鉄に乗って帰宅するなんてとても考えられなかった。
タクシーで帰宅した。
まだ、まともに歩けない。

自宅療養を始めて、いつごろになったら、体の具合がましになって、例えば、毎日電車通勤もできるようになるのか、仕事も再開できるようになるのか、全くわからなかった。
今後について、何の見込みも立てることもできない。
とにかく、毎日、薬を飲んで、安静にして、無理しないようにリハビリして、様子を見るしかない。
公園に毎晩散歩しに行って、体調を確かめる毎日だった。

職場に私物のパソコンを置いてきたまま突然入院してしまったので、自宅にはまともに動くパソコンがない。
無線LANでネットに繋がるiPod touchだけが情報源だった。

机の前にじっと座っていること自体、つらくてできなかったし、また後日、机の前に座って、両手でマウスとキーボードを使うのが実際とてもつらかったので、その頃はちょうどそんなものでよかった。
寝転がって、指先の操作だけで病気のことを検索して調べたり、ニュースを読んだり、youtubeを見たりできた。
このiPod touchは、4年ぐらい前に買った最初期モデルの電池のもちが悪くなってしまったために、たまたま入院前に新しく買い替えた新品だった。

ネットで検索して、大動脈解離の詳しいことが初めてわかった。
大動脈解離では、急死したり、つらい闘病生活を過ごす人が少なくないのだ。
私は幸運だったのだ。