フリークス。

今や、名古屋では最も人気があるバンドの一つである。

ヒロシの加入で、四人のメンバーたちはその潜在能力を一気に開花させ、フリークスに対する声援は、転がる雪だるまの勢いで、目に見えて増えていった。

派手なアクションはまだできず、どこか照れた仕草の残るヒロシのボーカルだったが、彼は声、そしてルックスが良かった。

その印象的な二重まぶたで客席を見つめながら、時に叫び、時にスローに歌うヒロシは、女性客を一瞬にして彼のファンにした。

先月行われたグランドキャニオンでの人気投票では、５０組程度のバンドの中で、遂にフリークスが一位となった。

「俺たち、ひょっとしてひょっとするぜ、これは」

ひょっとしてひょっとする、って、何がどうなるのかさっぱりわからないのだが、つまり、フリークスのメンバーたちには、この道でやっていけると、急速に自信が湧いてきたのだった。

既にヒロシ以外、全員学校も辞め、完全にプロのバンドとして活動している。

ヒロシも今や、「これこそ俺に向いている」と感じていた。

学校に戻るつもりはさらさらない。

その昔、映画関連の仕事をかじったことがある父親も「まあ、やってみればええ」との反応である。

そのヒロシには、フリークスの将来に関し、引っかかることが一つある。

彼の不安、それはグループ名だった。

涙の乗車券（１８）