幼い頃、化粧品関係の仕事をしていた母の
商売道具の口紅をよく塗った。
なんとも言えない口紅の味と
塗った後、必ず口紅を折っては
怒った母の顔をよく覚えている。
母の部屋の三面鏡があって、幼稚園の頃、
三面鏡の正面の自分に目を合わせ、左右の鏡を寄せて集めて集合し、三者で集まって沈黙しては
みんな黙ったまんま、、、
まるで自分の姿が無限に広がったような異空間へと
旅に出た。
「あれ?」
と小さく声を出してようやく沈黙がはじかれる。
そうやって一連の答え合わせが終わったら心が落ち着く。
残念ながら
今、僕の家には三面鏡はない
実家にはまだ
あの三面鏡はあるのだろうか
また三者が集まれたなら
三十数年ぶりに見る僕の姿は
どんな風に見えるのかな