Life in the Lone Star State -10ページ目

Staple Financing

昨日は所内のファイナンスグループの勉強会に参加しました。所内の弁護士が当番制で毎回プレゼンテーションをしてくれて、ランチを食べながらディスカッションをするという感じなんですが、今回のテーマは “Current Trend in the Corporate Debt Market”。サブプライム問題に端を発する金融危機以降、アメリカのDebt Finance市場も冷え切っていましたが、最近少しずつ回復の兆しが見えつつあるという現状の詳細な分析でした。

その話の中で出てきた“Staple Financing”について、備忘の意味を込めて書き留めておきます。

M&Aファイナンスの場面で、Seller(売り手)のFinancial AdviserがBidder(買い手候補者)に買収資金を融資するLenderの役割も兼ねることがアメリカでは広く行われており、こういったファイナンスをStaple Financingと呼んでいます。Stapleというのは、M&AのタームシートにそのFinancial Adviserが融資を行なう場合の条件(Terms & Conditions)がStapleされてBidderに対して提供されるというのが語源だそうです。

このStaple Financingのメリットは、買い手側にしてみれば自分でFinancerを探して融資条件を交渉する手間が省けること(Financerが別途対象会社のDue Diligenceをする必要もなくなる)、売り手側にしてみれば、より多くのBidderを入札手続きに参加させることができ、より高い金額で売却できる可能性が高まること等が挙げられます。この点で、特に資金調達が困難な不況時期においては、このStaple Financingは重要な役割を果たすことになります。

他方で、このストラクチャーを見て最初に感じることはコンフリクトの問題です。SellerのFinancial Adviserでもあり、かつBuyerのFinancerでもある(例えば)銀行は、潜在的には利益が相反する可能性を秘めています。

例えば、Financial Adviserとして受け取るアドバイザリーフィーは成功報酬型であることが多いと思われますが、そうするとFinancial Adviserとしては案件を成就させることに強いインセンティブが働きます。また、Buyerへの融資も実現すればそこでもFee及び金利収入を見込めることになりますので、当該銀行としては、自己をFinancerとして選定するBidderをより有利に評価して案件を成就させることに強いインセンティブが働き、その結果、Sellerの利益を最大化するというアドバイザーとしての義務と利益が相反する可能性が生じることになります。

実際アメリカの判例では、2005年のトイザラスの買収案件で、売り手がフィナンシャルアドバイザーであるクレディスイスにStaple Financingを提供させたことは、それをもって売却を禁止するものではないが、“the appearance of impropriety”であったと判示したケースがあるそうです。

また、以下はWSJのこの記事からの引用ですが、

"While there's a clear conflict of interest," said Guhan Subramanian, a professor of law and business at Harvard University who studies corporate acquisitions, "that conflict has to be weighed against the benefits of creating a more robust auction."

と、コンフリクトについては慎重な検討がなされるべきであると述べられています。

さて、日本の場合はどうでしょうか?金融機関に対しては、利益相反管理体制の整備が改正金商法で義務付けられ、一時期幅広く議論されていました。このStaple Financingについても金融法務事情の1850号で検討されています。

この記事では、Lenderとしての銀行は、Borrowerに対して忠実義務を負うわけではないため、アレンジャーとしてBorrowerに対して最善のシンジケーションを提供するといった善管注意義務を負っていない限りは、私法上の利益相反状況は生じないので、あとは銀行のレピュテーションリスクを考えて行動するべきといった見解が提示されています。

利益相反という場合、①銀行と顧客の利益が相反する場合と、②銀行の顧客と顧客の間の利益が相反する場合とがあって、上記金融法務事情の記事では②の利益相反関係については検討されていますが、①の利益相反についてはどう考えるのだろうかという印象を受けました。

SellerのFinancial Adviserであり、かつBuyerのFinancerであるという構造を取った結果、銀行とSellerの利益が相反する状況になるとすれば、①の利益相反類型として顧客に対する忠実義務違反を問われるリスクは潜在的に存在するのではないかという気もします。それでも正しい行動を取れば必ず忠実義務違反が発生する状況ではないので、②のようないずれかの顧客の利益を考えると必ず他方の顧客に対する忠実義務違反が発生するという状況とは異なるという意味で、あくまでレピュテーションリスクの問題に留まるという趣旨のようにも読めます。

日本の実務について現在どの程度Staple Financingが行われているのか、またその場合利益相反についてはどのような手当がされているのかよく知りませんが、忠実義務違反のリスクについてはアドバイザリー契約を締結する際に手当てをすることである程度避けられるような気もします。レピュテーションリスクを気にする大手邦銀はちょっとやり辛いスキームでしょうか。