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 いまから4カ月前の初夏のドイツ・ニュルブルクリンクで、彼らは確かに輝いていた。

 第10戦ドイツGPを制したのは、マクラーレンのルイス・ハミルトンだった。その時点で6勝を挙げていたチャンピオンシップリーダーのセバスチャン・ベッテルに次いで複数の勝利を挙げていたのは、ハミルトンただ一人。シーズン折り返し点での完勝に、後半戦での巻き返しが期待された。

 ところが、ここからハミルトンの歯車が狂い出す。第11戦ハンガリーGPではトップ快走中にスピンを喫し、慌ててスピンターンしたところに後続のクルマと遭遇。危険な行為と判断されてドライブスルー・ペナルティを受ける。

 第12戦ベルギーGPではブレーキングで小林可夢偉と接触。第13戦イタリアGPはミハエル・シューマッハの過激なブロックに悩まされ、第14戦シンガポールGPと第15戦日本GP、そして第17戦インドGPではフェリペ・マッサと接触事故を起こした。

■「僕を理解してくれる人が必要なんだ」(ハミルトン)

 気がつけば、ハミルトンの顔から笑顔が消えていた。

「僕を理解してくれる人が周りにいないんだ。チームやチームメートに不満はない。そうじゃなくて、プライベートな部分で、僕には僕を理解してくれる人が必要なんだ。ジェンソンがうらやましいよ。彼はお父さんがいつもサポートしているし、ガールフレンドも応援してくれる。だから、彼は100%ドライビングに集中できる。でも、僕は周囲の雑音とも戦わなければならないときがある。もちろん、そんなことは僕だけでなく、多かれ少なかれみんなも同じだろうけど、時に僕は自分自身に厳しくする自分とも戦っているときがある。それが問題なんだ」

 インドGPでマッサと接触した直後、ハミルトンは無線でこう確認してきた。

「いまの接触は、僕が悪いのか?」

 チームはすかさず「君のせいではないと信じている」と返答。7位でチェッカーフラッグを受けた直後に、ハミルトンが「チームは今回も素晴らしい仕事をしてくれた。結果を出せずに、申し訳ない」と無線で謝罪したときも、「謝る必要はないよ、ルイス。接触でペナルティを受けたのはマッサなんだから」とハミルトンをかばった。

■ハミルトンに送られた宿敵アロンソからのエール。

 直後の第18戦アブダビGP。ハミルトンはある人をアブダビに呼んだ。それは母親である。毎晩、サーキットを後にするハミルトンの隣には母親の姿があった。母親と会話しながらパドックを歩くハミルトン。久しぶりにハミルトンの顔に笑みが戻っていた。

 そんなハミルトンにもうひとつ思いも寄らないメッセージがイギリスBBCの放送を通して入ってきた。'07年にマクラーレンのナンバーワンの座を巡って骨肉の争いを演じた、かつての宿敵、フェルナンド・アロンソである。

「ハミルトンは最高のマシンでなくとも、チャンピオンになれる才能を持ったドライバーの一人」だと。

 そのハミルトンと今年7月のドイツGPで優勝争いを演じたのが、アロンソだった。じつは、そのアロンソも複雑な思いでアブダビを訪れていた。それは、1年前、チャンピオンシップリーダーで乗り込みながら、チームの作戦ミスでタイトルを失ったのが、ここアブダビだったからだ。

■「F1も人生と同じ」とアロンソは過去の記憶を払拭する。

「でも、アブダビに来るとき、そういう嫌な記憶というのは何も蘇らなかった。信じてもらえないかもしれないけど、韓国やインドへ行くより、ずっと快適な気分でサーキットに入ったよ。F1も人生と同じで、振り返ってもいいことはない。常に前を向いて進んだ方がいい」

 アロンソにとってアブダビはタイトルを逃した地というだけでなく、19戦あるF1グランプリの中で唯一表彰台に上がっていない場所でもあった。

 そして、日曜日のレースではハミルトンとアロンソが優勝を目指した戦いを演じた。ベッテルが1コーナーでパンクに見舞われてトップに立ったハミルトン。1周目にジェンソン・バトンをオーバーテイクして、ハミルトンを追うアロンソ。2人の戦いにはオーバーテイクもサイド・バイ・サイドの争いもなかったが、常に5秒以内で繰り広げられた2ストップ作戦の戦いは、手に汗握る接戦の末にハミルトンが制した。

「世界一のドライバーの一人と戦うのがこんなにも厳しいとは思わなかった」とハミルトンが語れば、アロンソも「すべてのラップを予選アタックのように走ったけど、今日の彼には勝てなかった」と勝者を讃えた。第10戦ドイツGP以来の優勝を飾ったハミルトンと、1年前の雪辱を果たしてこれまで一度も手にしたことがなかったアブダビGPのトロフィを表彰台で獲得したアロンソ。長いトンネルを抜けた2人は、ともに笑顔で表彰台でシャンパンファイトを演じた。

■艱難辛苦に耐え忍び、停滞を抜け出した可夢偉の精神力。

 そのアブダビで、もう一人、長いトンネルを抜け出したドライバーがいた。

 小林可夢偉である。

 最後にポイントを獲得したのが第10戦ドイツGP。その後、可夢偉はまるで悪霊にでも取り憑かれたように不運が続いた。

 ハンガリーGPはチームの戦略ミスに足を引っ張られ、ベルギーGPではハミルトンに当てられ、イタリアGPはメカニカルトラブルでリタイア。シンガポールGPはセーフティカー導入時にピットが混乱してピットインさせたために周回遅れとなり、日本GPは不運なタイミングでセーフティカーが導入されたために3ストップ作戦を活かせずに沈んだ。そして、韓国GPとインドGPは、スタート直後に接触。

 気がつけば、前半戦でコンストラクターズ選手権6位だったチームは、フォース・インディアに抜かれ、トロ・ロッソにも並ばれていた。そこで迎えたのが、第18戦アブダビGPだった。

「確かに状況は苦しい。でも、そういうときだからこそ、もがいたりせず、平静を保ちたい。僕たちがやっていることは、決して間違ってはいないんだから」

 チームリーダーである可夢偉の堂々とした態度がチームを落ち着かせ、ライバルのトロ・ロッソを抑えて10位入賞を果たした。

 ハミルトン、アロンソ、可夢偉――長いトンネルを抜けた3人が最終戦ブラジルGPでどんな走りを披露するのか楽しみにしたい。

(「F1ピットストップ」尾張正博 = 文)

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