世界で戦うために“やってはいけない”ことは? もっと「個」で行動しよう | ビジネス人間学




 ニューヨークでSix ApartのCEOを務める関信浩氏が、日米のビジネス事情の違いを知り日系企業の米国進出を後押しするべく、米国ビジネスに精通した日本人アントレプレナーや、日本とのビジネスに興味を持つ外国人アントレプレナーと対談する当企画。

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 第1回のゲストとして、機楽株式会社代表取締役兼ロボットデザイナーの石渡昌太氏をお迎えし、「今注目のIoTの現場から、日米のビジネス事情の違いを知る」というテーマで対話しています。前編は、日米のキャリアパスの違い、ビザ取得の難しさなどを話し合いました。後編では、日本人が世界で戦うために改善すべき点について議論を交わします。



●プロフィール:



石渡昌太(いしわたり・しょうた)氏



「かわいい」と「テクノロジー」を組み合わせて、“少し未来”を表現するクリエイター。 プロダクトデザイン、組込み開発、展示製作やそのアートディレクションを行う。造形から縫製、機械設計、回路設計、プログラムまで一貫して一人で開発。 2011年にはnecomimiのプロトタイプ開発に携わる。同年、機楽株式会社を設立。2013年にロボット組立キット「RAPIRO(ラピロ)」をクラウドファンディングサービス「Kickstarter UK」で発表し、1000万円以上を調達。その後、国内のクラウドファンディングサービス「Makuake」でも500万円以上を調達し、RAPIROの製品化を実現。



関信浩(せき・のぶひろ)氏



米Six ApartのCEO 兼 米Infocom Americaの取締役務める関信浩氏。1969年、東京生まれ。1994年、東京大学工学部卒。1994年から2003年まで、日経BP社で編集や事業開発に従事。 2002年カーネギーメロン大学ビジネススクールで経営学修士(MBA)を取得。カーネギーメロン大学在学中に、ビジネスプランコンテス トで特 別賞などを受賞。2003年12月、シックス・アパート株式会社を設立し代表取締役に就任(2015年5月より顧問)。2013年6月よ り米Six ApartのCEOに就任(現任)。2015年5月より米Infocom Americaの取締役に就任(現任)。2015年に米FabFoundryを設立。



●団体ツアーに参加せず1人で行くべき



石渡: 海外の最新情報を得る手段のひとつとして、各国の展示会に顔を出すようにしているのですが、近ごろ多くの人から、「石渡くんは『バーニング・マン』に参加したら絶対受けるから、行って来たらいいよ」とススメられます(バーニング・マン:米国北西部の人里離れた荒野で年に1度、約1週間に渡って開催される大規模イベントのこと。各参加者は何もない平原に街を作り上げ、新たに出会った隣人たちと共同生活を営み、そこで自分を表現しながらイベント期間を過ごす。そして、1週間後にはすべてを無に戻す)。どうやら、そのイベントに集まった面白い人同士がつながって仕事が生まれるから、行ってみたらよいということらしくて。気にはなりますけれど、荒野はちょっとイヤですね(笑)。



関: SXSW(サウス・バイ・サウス・ウェスト:デジタル・IT関連、音楽、映画の3本柱で構成される大型イベント)もバーニング・マンと一緒で、もともと日本人があまり参加しないローカルなイベントという印象でしたよね。ところが先にお話した通り、最近はSXSWの出展トレンドが、日本人が得意とするロボティクスやIoTに寄ってきたこともあり、ここ数年で、日本人がどっと押し寄せるようになってきたようです。まだ日本からの参加者が少なかったころは、「日本人」というだけで希少価値があったはずです。そこで、その価値を利用したらよいんじゃないかと考えた先駆者たちが外部の人を巻き込み、日本人が多く訪れるイベントへと様変わりしていったのかもしれません。



石渡: それにしても不思議なのは、どうして多くの日本人は、その希少価値を生かして個人で参加するのではなく、わざわざ集団で行動しようとするんですかね。SXSWはまさに典型例ですけれど、これだ! と思ったら団体ツアーを組んで行くなど、あの行動心理って何なんでしょう……。



関: そうしないと不安だからというのと、そうすることで得られる“メリット”があるからでしょう。もし私がSXSWの魅力にいち早く気づいた日本人で、ここはビジネスの場として生かせると判断したのだったら、あまり人に言わないでしょうね。だってSXSWに行ったら日本人が全くいなくて、日本人というだけでいろいろな話が来るんだったら、そんなにおいしいことはないですから。そこにわざわざ他の日本人と一緒に行くということは、その行為が自分にとっても“何かしらのメリット”があるんだと思います。



 ただツアーを組んでまで行くというのは、経済合理性があまりなさそうですよね。そういう意味で日本人は、少しインセンティブに対して鈍感な気がします。儲け話があります=儲け話じゃない、とよく言われるのは、本当はそんな儲け話を人に伝えるのはおかしいからなんです。



石渡: ツアーで行ってよいことって本当にないですよね。例えば工場見学ツアー。よく中国でやっていますけれど、集団で行ってツアーに参加しても、相手企業から名前を覚えてもらえないですし、それって行かなかったも同然かな……と。



関: 本当に目的が視察だけなら、それでもよいと思います。もっとも後からビデオを借りて、内容をチェックするだけで十分かもしれませんが。



石渡: そうです。集団で行くくらいなら、後からビデオを借りたり、参加者のブログを読んだりすれば十分です。そうじゃなくて1人で行って、一緒に現地の人と行動するから価値があるんです。40人くらいで行って、わーっと騒いで終わったのではもったいないですよ。1対1とか相手が家族連れでも構わないので、一緒に食事するから有意義な話ができるし、お互いのパーソナリティが分かります。



関: 団体ツアーの話もそうですけれど、日本人の場合、「そこの場で何を得たいのか」「何を得るために自分/自社はどんな行動を起こすべきなのか」をハッキリさせないまま、動き出すことがあります。ですから海外出張時に、日本人得意の“表敬訪問”をしたがるんです。



 昔、当社の本社がシリコンバレーにあった時、「来週シリコンバレーに行くので、オフィス訪問させてください」という依頼がよくありました。私が日本にいてシリコンバレーにいなくても、それでもオフィス訪問したいと。そこで、「アポを取る目的は何ですか? 」と聞くと、「あ、表敬訪問です」という返事が来ることもありました。日本人は「訪問」そのものを目的にしていることが多いですが、「表敬訪問に……」と言われるのは受ける側からすると、インセンティブがないので困るのです。



 米国人は、不要だと思ったらメールに返事をせず遠回しに断りますからね。本気でアポを取りに行く場合には断られないよう、代わりに私が考えていました。「どうして出張に行くんですか?」と質問して、その答えをヒントにするなど。そこから、「たぶん話題としてはこういうことになるだろう」と考えて、米国側の担当者に「これから訪問する人はこういうバックグラウンドがあって、こういう仕事をしているから、こういうことを聞くとビジネスにつながるかもしれない。だから会ってくれ」とつなげていました。



 ここまですれば大抵は会ってくれます。相手側もビジネスの意識を持っているので会えば親しく話してくれますが、訪問者側が本当に目的を持っていかないと、せっかくの打ち合わせがうまくいかないこともあります。米国人の多くは、事前に目的を定めてから打ち合わせや会食に臨むので、「この日は誰が来る」から始まって、「その人と何を話すか」という具体的な内容まで予め固めています。もちろん日本人の中にもそういう事前準備をする人はいますが、あまり多くない印象です。



 米国人のように「目的意識」を明確にしておかないと、せっかくの貴重な時間が、相手にとってはただの迷惑な時間で終わってしまうこともありますから、真剣に米国とのビジネスを進めたいのであれば、そのへんは気をつけたほうがよいと思います。



石渡: 確かに、日本人が相手だと目的意識がハッキリしていない打ち合わせって結構ありますが、私は苦手ですね。とりとめのない話をしても仕方がないので。せめてこういうものを作るなり、売るなりしようよ! という話がしたいです。



関: まあ実際そうじゃないことが多いんですよね。せっかくオフィス訪問の時間をもらったのに、記念写真撮っておしまいとか。



石渡: 日本人によくあるパターンですね(笑)。



関: 当社のシリコンバレーオフィスを来訪した日本人の中には、「グーグルにも行きたいんですけれど、行けますか?」と言ってきた人もいたそうです。「大丈夫です、玄関に行って写真撮って帰るだけですから」と。本当にオフィスの前に行って写真撮るだけならよいんですけれど、実際には「中に入りたい」「人に会いたい」という話になりますよね。



 グーグルを観光地として捉え、そこに行くこと自体は否定しません。でも、こういう明確な目的がないアポなし訪問は相手の立場からすると、わざわざ会う理由がないのに時間を割く必要があるんだろうか? と思うものです。いきなり言葉が通じない人が来ても困るだけですからね。



 逆に考えてみたら分かると思うのですが、自分が日本のオフィスにいて、日本語があまり得意じゃない人から、「東京のオフィスがカッコイイから、1時間訪問させてください」と言われても受けますか? という話です。実際、受ける人は少ないと思います。でも逆の立場のときには、そこの意識が希薄化してしまう。



 日本人はオフィス訪問にしても、カンファレンス参加や工場見学にしても、「海外に何をしに行くのか」、しっかり目的を定めてから行動に移したほうがよいですね。もしツアーに参加して取引先を作ることを目的にしているなら、ツアー中に自分の足で動くなど。本気で海外でのビジネスを成功させたいんだったら、人任せは早く卒業したほうがよいと思います。



●世界を目指すのだったら、米国から発信したほうが有利



関: 少しネガティブな話が増えてきたので、ポジティブな話もしましょうか(笑)。これまで挙げた通り日本人には改善する部分がいっぱいある一方で、もっと伸ばせるところもあると思っています。特に私が米国にいて感じるのは、日本人や日本に対する海外からの評価の高さ。たぶん、自分たちが思っている以上に、すごく評価されています。



石渡: それは分かります。私のところにFacebookやTwitterで連絡をくれる外国人も皆、日本が大好きで、行ってみたい、住んでみたいと言っている人が多いです。



関: 日本人は、国民全体のイメージとしてだけでなく、個人レベルでも丁寧で礼儀正しいと好感を持たれていることが多いですよね。この前面白かったのが、米国人のデザイナーとユニクロの話をしていたとき、ユニクロは米国でも売れていてスゴいという話題になりました。



 なかでも彼が驚いていたのは、ニューヨークにグローバルの旗艦店1号店を出していること。「日本の会社なのに、どうしてニューヨークに1号店を? 不思議だ」と言っていました。米国人の発想だと、ニューヨーク出身の企業だったらニューヨークに旗艦店1号店を、テキサス出身だったらテキサスに旗艦店1号店をという感覚のようです。



石渡: ああ、日本の会社なんだから、東京に1号店じゃないの? ということですね。



関: はい。彼は、「日本はあんなに経済的に優れ、外国人観光客も多く訪れているのに、どうしてわざわざニューヨークなの? 東京なり、日本の主要エリアを1号店にすればいいじゃん!」と疑問を持っているようでした。私もそうなので人のことを言えないのですが、米国、特にニューヨークという世界の中心地に本社や主要店舗を出すことは、一種のステータスのようなところがあるじゃないですか。でも米国人からするとそこが疑問だと。その差が面白いですよね。日本人は必要以上に、自分たちを過小評価しているところがあるのかもしれません。



石渡: そうかもしれないですね。今回ニューヨークに来て改めて思ったんですが、日本って素晴らしい国ですよね。グローバルに見てもいろいろな意味で優れています。だから基本的には、日系企業は日本を拠点にしたままでよいと思うんです。そこから世界を狙うために米国をどうやって活用しましょうか、という話になるのかなと。



 もちろん海外にわざわざ出てくるメリットもたくさんあって、例えばニューヨークでビジネスをすると、より大きな市場を相手にできるのでレバレッジが高いという話を聞きます。そうした優位性を求めて拠点を海外に移すという選択もありだと思います。関さんは、実際ご自身がニューヨークに来られてみてどうですか?



関: Six Apartが提供するソフトウェアやインターネット・サービスのビジネスは、米国企業が圧倒的な存在感をもっているので、米国で活動していると、より多くの国から注目され、よりスケールの大きい仕事ができると思っています。



 また最近は多くの日本企業がシリコンバレーに進出していますが、ニューヨークでは日本人駐在員が減っていて日本企業のプレゼンスが低くなっているように感じます。なので、「逆張り」が好きな自分にとっては、シリコンバレーよりニューヨークに進出するほうが、より「おいしい」可能性があると思っていました。



 実際、ニューヨークに来てみると、ニューヨークの人たちは本当に日本という国や文化が大好きな人が多くて、ずいぶんと「得」をしているように感じます。あとは米国に来ると、「個人」の可能性が高まるなと思いますね。日本だと会社の枠を出ないことを求められている気がしますから。



石渡: 確かに米国は、数年刻みで個人が会社を転々とするような環境ですもんね。米国でSNS「LinkedIn」が広く使われているのは、個人の能力を評価する、注目する文化があるからだと思います。



関: 「ものづくり」という視点でいけば、大量生産・大量消費の時代だった従来は、1人1人が部品を作り、全体で大きなものを完成させるモデルでしたが、今は、1人である程度プロトタイプまで作れます。つまり、“1人のアーティスト”という部分が価値を持ってきている。にも関わらず、会社の組織は、“個人を殺す”方向にどんどん進んでいる。個人である程度ものを作っていこうと思ったら、失敗する確率は高いけれど可能性を追求できるので、米国に来るのはひとつの選択肢ではないかと。



 今はクラウドファンディングサービスを使って、日本にいながら可能性の高い米国市場を利用することができるようになったので、まずはオンラインを足がかりにするところから始めてみてもよいと思います。そして次のステップとして、「米国を拠点にする」を選択肢に加えてみる。すでに、オンラインで米国市場にアクセスする日本人は増えてきたので、今度はそういう人たちとの差別化を図るために、「わざわざ米国に来る、住む、お客さんと直に話す」ことが次の作戦になってくると思います。世界を目指すんだったら、東京から発信するよりも、米国から発信するほうがポテンシャルは大きいですからね。



石渡: 後は、米国に来ただけだと意味がないので、何のために米国に行くのか考えてから来たほうがよいですよね。来たから偉いわけじゃない。何をしに米国に来たか。米国人も私たちにそれを求めて来るので、しっかり答えられる状態を作っておく必要があります。まずは、「何かを作りに来た」「学びに来た」というシンプルな回答でもよいと思います。「セルフブランディング目的で渡米しました」以上の具体性が欲しいです。



関: 目的意識をより先鋭化させる。企業から個人に目的意識を絞る。量より質に転換する。これらを実現する中のオプションとして、日本の企業は米国を活用するのがよいと思います。そしてその目的を果たすために、自社や自分個人に合ったやり方を選んでいくと。今日の話はずいぶんと盛りだくさんでしたが楽しかったです。ありがとうございました!



石渡: こちらこそありがとうございました。



(終わり)



[公文紫都,ITmedia]