「窓辺」
  by hakogame

小さなやもりが窓から見ていました。

  家の中には、女の子がひとりで祈っていました。
  涙が部屋中を静かにしておりました。

  元気づけてあげようかな。
  やもりはちっちっと鳴こうとしましたが、声がでませんでした。
  窓の外にも、涙の香りがしていたからです。

  女の子は涙が止まらなくて、
  もっと一心に祈りをこめていました。
  その時、どこから入ったのか蚊が一匹、女の子の上を飛び回りました。
  静かな部屋がかき回されました。

  女の子は一瞬たじろぎましたけれど、再びお祈りをしようとしました。

  ところが、蚊はすーっと降りてくると、女の子の腕の一番きれいなところで血を吸いました。
  たっぷりごはんをいただくと、蚊はのろのろと飛び立ちました。

  女の子は強く痒みが襲ってきたので、お祈りを中断しなくてはいけなくなりました。
  どうして、お祈りさえ邪魔されるのかしら。
  女の子はいっそう悲しくなりましたが、涙は止まっておりました。
  痒くて、からだが涙を止めてしまったのです。

  蚊が窓の方へのぼってきました。
  女の子は立ち上がって叩きで蚊をやっつけようと、手を振り上げましたが、どうしてか急にやめました。そして、窓をそっと開けました。

  蚊は、おなかいっぱいで重くなったので、よろよろ窓の外へ出てきました。
  そして、やもりの前に腰をおろしました。

  蚊とやもりの目が合いました。
  でも蚊は逃げようとはしませんでした。

  しばらく過ぎました。

  やもりは、まだ晩ご飯を食べていないことを思い出して、すっと息を吸い込みました。
  蚊は待っていたように、やもりのお腹に飲み込まれてゆきました。

  その頃、女の子はお祈りをする気分ではなくなっていました。
  ぼうぜんとして窓の方を見上げた時、ちっちっという鳴き声が聞こえました。
  よく見ると、窓にやもりのお腹が銀いろに映っておりました。

  女の子はやもりのようなものが嫌いでしたから、窓を叩いてどこかへおいやろうと思いました。
  でも、もう疲れていて立ち上がる気になれませんでした。

  ちっちっという音が、部屋にしみてきました。
  女の子は横になると、なんだかおかしくなってほほえみました。
  そして、いつの間にか眠ってしまいました。
  (おしまい)