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 執筆の動機は「経済学は無力だ」という皮相な批判にこたえるため——。著者がそう語るように、今ほど経済学がつらい立場におかれた時代はないかもしれない。
 リーマン・ショック後、主要国は教科書どおりの巨額の財政出動、超金融緩和を繰り出した。だが簡単に経済再生とはいかず、批判はその理論的支柱である経済学にも向けられる。なぜこの事態に適切な処方箋(しょほうせん)を示せないのかと。
 著者の説明はこうだ。経済学は「文法」に似ている。まずそれを知ることが必要だがそれだけで、話す、書く、ができるわけではない。
 「純粋な経済問題」など、この世には存在しない。さまざまな経済的対立の根源には価値観の違いや政治的問題もある。原発政策がいい例だ。解決には当然、経済学や市場の活用は必要だが、道徳や正義、バランス感覚といったものも求められる。
 民主主義はそのための社会的装置だ。それを国民の「知性」によってうまく機能させられるかどうかが現代社会に突きつけられた難題なのだ。
 その難しさを十分に知る著者だけに、昨今見られるような一刀両断で経済の論理だけ言いつのる、強すぎる主張には、用心すべしと警告する。
 中央銀行 になぜ独立性 が求められるか、という今日的テーマもとりあげた。金融政策の効果は専門家でも予測が難しい。日本銀行 には石橋をたたいて渡る以上の慎重 さが必要で、利害関係者から批判されても軽々に判断してはいけない。そうクギを刺す。
 アリストテレスからTPPまで古今東西の思想 やテーマを織りなしつつ、歴史的視点から社会制度を論じている。この経済思想の泰斗が「半世紀近く向き合ってきた経済学への思いを埋め込んだ」という重い言葉ばかりだ。
 一昨年、著者にインタビューで「皮相な批判 」を浴びせた一人として、この濃密な仕事ぶりに敬意を表したい。