コーチR 第4話 発想の転換
『3日間部屋を掃除する。ありえないほどきれいに』
私は自分のノートに赤ペンで大きく書いたこの『英語』の宿題を、家に帰って見つめ続けた。 部屋を掃除する? 一体どこから?
コーチには言わなかったが、どこから掃除すればいいのか分からないほど、私の部屋は散らかっていた。いや、最初からコーチは本当に見抜いてて、この宿題を私に出したのだろうか?
でもなぜ掃除? なぜ英語の勉強で掃除から?
意味が分からない。
私は混乱を通り越して怒りとなった。
それは自分に対する怒りだったのかもしれない。
この散らかった部屋を見ると、自分が見たくなかった、自分の心の奥底を見つめなければいけないようでとても嫌だったのだ。私はこの部屋にいたくなかった。この部屋は、弱った自分がふさぎこむだけの部屋、そして考えるのにも疲れて寝るためだけの部屋だった。
やはり掃除などしたくない。
掃除をする気力など起こらない。
私は窓の外の雨をじっと見つめながら、なぜか自分に言い聞かせた。
雨は次第に激しさを増し、大雨で窓は滝のようになった。 窓に映っていた私の顔も、私のこの散らかった部屋も、窓の雨が流れて、余計に醜く映した。 そんな醜い自分の顔、そんな散らかった部屋を見ていると、私はどうしようもなく悲しくなった。
私はさっきコーチと約束したばかり。
私はさっきコーチと生活に革命を起こすと約束したばかり。
そして決意して飛び込んだのに、掃除すらもできないなんて。
私はこんなにも弱い自分にまた泣いた。 泣いて泣いて、気づいたらそのまま深い眠りへと入っていた。
朝起きると、とてつもない罪悪感に襲われた。
『3日間部屋を掃除する。ありえないほどきれいに』
『途中メールにて進行状況と気づいた事を中間報告して下さい』
このコーチのコトバが私の胸を突き刺した。 しまった!私はまだ何もしていない!
この部屋をきれいにするには、昨日から掃除しないと間に合わなかった。
私はすぐに掃除にとりかかる事よりも、なんてメールで言い訳しようか、あるいは『掃除してきれいにした』と嘘をつくかで悩んだ。私はしばらく考えて、これ以上自分が醜くなるのはもう耐えられないと思った。私が今唯一できる事、それは素直にコーチに相談する事だと思い、メールを送った。
To コーチへ
先日はありがとうございました。実はコーチと約束した掃除なんですが、掃除すらできません。心が混乱しているんです。どうしたらいいですか?
コーチとの初めてのメールは、意外にもすぐに返事が来た。
そしてその内容も意外だった。
そこにはたった一行、こう書いてあった。
『どうしたらいいと思いますか?』
・・・どうしたらいいですか?
『はぁ?』 私は思わず声をあげた。
どうしたらいいか聞いているのに、どうしたらいいか?って全く答えになっていない。私の感情がまた乱れそうになったその時だった。私の頭の中でコーチのあのコトバが強く響いた。
『これから私に質問する時は、どんな質問でもまず自分でよく調べて、考えて、考えぬいて、それでもどうしても分からなかったら質問して下さい』
自分で考えて、考えぬいて。
自分で考えて、考えぬいて。
そうか!
コーチは私自身にまず考えさせようとしているのか!私は急に理解した。私は考え直し、返信した。
To コーチへ
先ほどは申し訳ありませんでした。まず自分で考える事を忘れていました。自分で考えたんですが、まだやる気に波があるんです。だからやる気が起きたら掃除できる時に、一気にきれいにする計画でいきたいと思います。
コーチからの返信を待った。
先ほどはすぐに返信があったのに、5分が経ち、10分が経った。返信は全くない。30分が過ぎた時、私はとてつもない不安に襲われた。
もしかして何か失礼な事を言ったのだろうか?
私は自分の送信メールを見つめたが、自分ではどこにも失礼な点が見つからなかった。もしかして絵文字を使うべきだったのか?そんなはずはないだろう。私は色々考えすぎて頭がグチャグチャになっていたが、考え過ぎた結果今の自分ができる最高のメールをもう一度送ってみた。
To コーチへ
何度もすみません(>_<)
あの、何かアドバイスを頂けませんか?
すると今度はすぐに返信があった。 私は恐る恐る、じ~とメールの内容を見つめた。
『やる気が先か、行動が先か。どっちだろうか?』
えっ!?
私はやる気と心の中で答えたが、いや、逆もあり得ると思った。
メールには続きがあった。
『もし君が僕の言うとおりに、ありえないほどきれいに掃除をしたならば、きみは英語が最短でできるようになるだけではなく、全てが急激に良い方向に進む事に、きみは驚きを隠せないだろう。嘘だと思うなら、まずは窓を思いっきり開けてみろ!そこから全てが変わる!』
今の私には迷う余地がなかった。
私は顔を上げ、勢いよく立ち上がると、おもいっきり窓を開けた。
【つづく】
注1)無断転載厳禁
注2)この話はフィクションであり、事実でもあります。
コーチRはmixiで公表し、100万人以上の方からご支持頂きました。 しかしながら字数制限ができた為、ブログとmixiオフィシャルコミュニティにて、全編を公開します
コーチR 第3話 スタート地点
『無意識には時間も空間も関係ない。言いたい事が分かりますか?』
私はなぜかその言葉が心に響いた。
コーチが言いたい事が分かったような、でもまだよく分からない。
さっきの体験で、無意識には時間が関係ない事は良く分かった。
ただ、これが勉強とどう関係があるのだろうか? 子供時代を話した事と、英語勉強がどう関係があるのだろうか?
私は質問してみる事にした。
『質問してもよろしいですか?』
『もちろん』
『英語の勉強と・・・』
私が質問し始めると同時にコーチは付け足した。
『ただし・・・』
またコーチの目と言葉の強さ、そして部屋の空気がガラッと変わった。コーチは口調を変え、声のトーンを変え、表情を変え、まるで空気や温度までも変化させて、私の生活に革命を起こそうとしているように感じた。いや、実際すでに革命は始まっていた。威圧感が私を黙らせ教室中を包み込んだ。
『ただし・・・これから僕に質問する時は、どんな質問でも、まず自分でよく調べて、考えて、考えぬいて、それでもどうしても分からなかったら質問して下さい』
『は、はい』
私は正直驚いた。分からなかったらすぐに質問する!それは良い事だと信じていた。だから私は無意識に、自分の頭では考えぬかない習慣がついていたのかもしれない。私は今自分が質問しようとしていた事を素直に考えてみた。
勉強と子供時代、勉強と自分のトラウマ・・・何が関係する?
私は自分の心に聞き、自分の心を感じた。さっき少し泣いたお陰で、今まで体験した事がないくらい心が軽い。
心が軽い?
今まで無意識にこんなに悩みを背負ってきた? 今までこんなにもツライ思いを封印してきた?
分かったかも。
悩みがあれば集中できない。
モチベーションは下がり、気分が落ち込む。それが無意識にまで深く浸透した悩みなら、そんな中で勉強など続くはずはない。そもそもTOEICなど始められる状態ではないのだ。
『何か思いつきましたか?』
『はい。私は勉強と自分の無意識の悩みが、どう関係しているのか質問しようとしてたんですが・・・私の生活が乱れていたのは、私の心が意識でも無意識でも乱れていたからだと思いました。コーチは心を少しずつ改善することで、何か英語を勉強する以前の、メンタル状態を安定させようとしているのではないでしょうか』
『そう』
コーチは大きな声で続けた。
『多くの人は、前に進もうと思いアクセルを踏みながら、同時にブレーキを踏んでいる。さらに悪いことにサイドブレーキまでかけている』
私は思った。私はサイドブレーキまでかけていたと。ブレーキをかけたまま、突然英語の勉強をしようとしていた。
コーチは続けた。
『もちろん、全ての障害が悪いわけではない。摩擦があればこそ飛行機は飛べる。ただし、障害や摩擦・競争は適度でいい。無駄に余計に背負う必要はない』
『はい』
私はその通りだと思った。最初ここに来た時より、心は軽くなりモチベーションは上がっている。
コーチは急に語調を強め続けた。
『いいか、英語の勉強ごときに時間とお金はかけるな。最小限で行こう。重要なのは英語ができるようになる事ではない。英語ができるようになって、その後自信を獲得した自分が、どういう風に社会貢献をするかだ』
私は大きくうなずいた。
そしてコーチは急に穏やかに質問してきた。
『では、もう一度教えて下さい。今現在あなたのTOEIC点数は大体400点前後。下手すると高校英語も危うい。それでもTOEIC600点突破はいつまでですか?
私は来年にとれたら・・・と言いそうになったのをこらえて、はっきり言った。
『2ヶ月後です』
『そうです。英検2級の合格も同じ頃でいいですね?』
私はまた動揺した。
2級?英検2級って難しいのでは? しかしここで『聞いてない』とは絶対に言えない。合格できるなら英検も合格したい。思い切って『はい!』と答えた。
『覚悟はできていますか?』
『はい!』
『では、6時になりました。今日はここまでにしますが宿題を出します』
私はドキドキした。『生活に革命を起こす』、どんな単語が出されても覚えてきてやると誓った。そしてリスニングだって、今までやらなかったNHKを英語で聞くとか、CNNを見るとか、どんな事だってやってきてやる!と心の中で決心した。
私は顔を上げ、黒板に大きく書かれた宿題を見た。
『3日間部屋を掃除する。ありえないほどきれいに』
私は思わず口をポカンと開けてしまった。
『では3日後の同じ時間にお会いしましょう。途中メールにて進行状況と気づいた事を中間報告して下さい』
開いた口がふさがらなかった。
私はここまで来たら、この不思議なコーチに付いていくしかないと思い、コーチの字と同じくらいの大きさで、赤ペンでノートに大きく宿題を書いた。
そう、口を開けたまま。
【つづく】
注1)無断転載厳禁
注2)この話はフィクションであり、事実でもあります。
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