　先日、この地方のブロック紙である中日新聞の9月13日（金）愛知総合版に4段抜きの記事がありました。南方性カメムシであるアカギカメムシの死骸が県営名古屋空港の中日新聞社格納庫でみつかったというものです。

　記事では県内に定着した個体が偶然見つかった可能性も示唆されています。

中日新聞2024年9月13日（金）愛知総合版15ページ

　アカギカメムシは切手の図案にもなっている美しいアカスジキンカメムシと同じキンカメムシ科に属していて、カメムシの中では大型です。アカメガシワを好む昆虫です。

アカスジキンカメムシの標本と切手

　私は何十年も前に石垣島でアカギカメムシを何頭か採っていますが、前翅の角質部の面積が広く、昆虫に関心のない人は鞘翅目（甲虫類）と間違ってしまうかもしれません。

　いずれにせよ、私はこの新聞記事を読むまでアカギカメムシがこんなところにまで"進出"してきていることに気づきませんでした。カメムシには昆虫の中でも特に興味があるのにです。

　そこで、手許の資料で少し調べてみることにしました。

石垣島で採ったアカギカメムシ

　私は最近図鑑類を買っていないので、今の図鑑でどう記されているかわかりませんが、1993年に発行された図鑑１）では、その分布について九州（？）、南西諸島、東洋区としています。

　九州についてはこの図鑑の著者のひとりでもある安永智秀氏による報告があります2),3)が、その由来については南西諸島かもしれないし、より南方であるかもしれないとしています3)。

　更にごく最近では2021年に佐渡のコンビニに破損された個体があったという報告もあり4)、少なくとも発見される範囲は確実に北へ広がっているといえるでしょう。

　非公式にはこの他、兵庫県や四国の一部、さらには北海道での記録もあるようですが、学術的に認められているかどうかは未確認です。

　アカギカメムシには前胸側角に鋭い棘突起を有する個体があり、それは南西諸島より更に南方の個体に多いとされています。実際、私が石垣島で採った個体は全て棘なしです。

　ただ、有棘の種とそうでない種が共存している地域もあるようです。

　下の図では私の標本の写真を加工し、右に先端が黒い鋭い棘をつけてみました。左右比較してみてください。

アカギカメムシの前胸部側角：左が実際、右は画像を加工

　今回の新聞記事の写真をみると、鋭い棘がついています。また、佐渡の個体、九州の中でも福岡県の個体にも棘があります。長崎では棘のあるものとないものが別個に採れています。

　アカギカメムシの行動範囲はかなり広いため、南西諸島以外で発見された本種が必ずしもその土地に住み着いているとは限りませんが、気候変動、地球温暖化の影響で日本のあちこちで実際に土着していそうでもあります。

　今回の中日新聞の記事は記者が驚いただけで、「だからなあに？」というレベルのものでしょうが、昆虫のちょっとした生態の変化は私たちへのイェローカードかもしれません。

【引用】（数字は記事の引用番号に相当）

１）安永智秀,他：アカギカメムシ.日本原色カメムシ図鑑（友国雅章監修）,全国農村教育協会,東京,1993,p.217

２）安永智秀：九州本土におけるアカギカメムシの記録2例. Rostria 1991;41:67-70

３）安永智秀：長崎県におけるアカギカメムシについて. Rostria 1992;42:26

４）綿引大佑，中谷至伸：2020年に新潟県（佐渡島）から記録されたアカギカメムシ. Rostria 2021;66:35-37

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