第12話
―――ディール、さっきとおんなじ。リカに触れられれば何とかできるかもしれない!
突然、ライバーの声が頭に響いてきた。
触れるだけで、またトリさんの時と同じように復活させて反撃、ということなのか?
―――平たく言うと、そういうこと。リカは気を失っているだけ。起こしてあげられれば、こっちに加勢できるはず。
(かなり体のダメージが酷そうだけど、いける?!)
―――完治、とまではいかないけど、僕の力で意識を回復させてあげるんだ。身体もなるべく回復させてあげたいけど、一瞬では無理だよ。少し痛みを和らげてあげるくらい。でも、リカは強いから戦力になるでしょ?
(ま、まあ…ランセットはいつもやられてたしな。なんでかケンカ強いんだよな)
―――あれ?ディールはリカがどうして強いのか気付いてないの?僕は何となく分かったけど…まあ、とにかく!それで行ってみよう!
「おうっ!」
最後の一言は声に出てしまった。
色々と気になることもあるけれど、それは全部後回し!
まずはリカに触れること!
長身の男―――リーダーが中央の奥。目的のリカも担いでいる。サッカーで言うゴールキーパー!
キーパーは人を抱えている分、動きが若干不利。だから奥に下がり、その両サイドの手前を、手下の覆面男たちがカバーに入っている。ディフェンスとしては、まあ定石。
大きく回り込むにしろ、狭い附室の中じゃああまり現実的じゃない。
「はぁぁぁぁっ!」
トリさんは光の槍を生み出し、なおも撃ち続ける。だが、額に浮かぶ汗がオレには見えた。
躊躇ってる時間はない。このままだと敵に仕掛けられてしまう!
その瞬間、オレは敵にめがけてダッシュした―――
正面に向かって進む。狙いはキーパー!
左右のディフェンダーは多少驚くがすぐにカバーに入ろうとする。向かって左のディフェンダーが少し反応が早い。オレは右足を使い、左に跳んだ。左のディフェンダーはすぐさま臨戦態勢に入ろうと両手を構える。が、オレは相手のほぼ正面に着地した左足を使いそのまま右に跳び直す。
簡単なフェイントだが、相手を少し混乱させるくらいは出来たようだ。
左のディフェンダーは不意を突いたオレの動きに混乱し、少しだけ態勢を崩した。
ぎぃん、とトリさんの放った光の槍がオレの左側を通過した。こ…怖ぇ…
そしてそのまま左のディフェンダーを貫き、敵は大きくふらつく―――
ならば…
さらに今度は着地した右足を使って左へ跳ぶ。
しかし正面には左のディフェンダーがいる!だが、こいつは光の槍に貫かれている。
どういうダメージなのかよくは分からないが、もうこいつはダメな気がした。
ふらついて、意識が消えそうで。多分この後、膝をついてそのままうつ伏せに倒れるのだろうが、そんな時間いちいち待ってられない。
正面にいる左ディフェンダーの左サイドをすり抜けた。壁際ギリギリ!
予想通り、敵はフラフラしたまま何もしてこなかった。何かされたらオレには逃げることができないけど。
そのままかわしてキーパーに突っ込む。キーパーはここまで攻め込まれることを予想できていなかったのか、反応が悪い。それはこちらには好都合。オレはそのままキーパーに担がれたリカの足に触れる。
一瞬、オレは少し疲れたような感覚に陥る。
しかしすぐさまオレは気合を入れて後ろに退いた。リカに触れて復活させてから3人で全滅させるのが当初の目的。今無理をして手を出し過ぎても、敵にやられてしまったら元も子もない。
ごっ!
背後から大きな石か何かで背中を殴られた。一瞬、息が詰まる。
「かはっ」
視線を右後ろに移すと、右ディフェンダーがいた。
忘れていた!
オレはそのままうつ伏せで倒れた。
意識はある。だが、全身に力が入らずに立ち上がれない。
右ディフェンダーがオレに追加攻撃を仕掛けようと次のモーションに入る。
まずいっ!
ぎぃぃぃぃぃんっ!!
大きな光の槍に、右ディフェンダーは貫かれた。
「私もいるわよ?女だからって、甘く見ないこと……あなたたちに言うのはこれで二度目ね」
トリさんの援護射撃一撃で右ディフェンダーは戦闘不能に陥った。あの槍…よく分かんないけど相当な威力があるようだ。そして…トリさん自身もかなりの使い手。
「そうだな。甘く見ていたな。味方をここまでやられては、元も子もない。生きたまま連れて行くのが目的だったが、こうなってしまっては殺すつもりでかからねばならん…」
長身のキーパーはそう言い放つと、担いでいたリカをオレのすぐそばに放り投げた。
リカはノーリアクション。回復が効いていないのか、それとも―――
「殺すつもり?笑わせないで。あなた一人で私たちを相手にできるのかしら?」
そう言ってトリさんは静かにキーパーを睨みつける。
オレは戦闘不能な上、リカは意識を失ってる。人質にでも取られようものなら、逆に1対1の勝負より不利だ。
「面白いな―――たかが女一人に後れをとったりはしない…」
キーパーはそう言い放ち、構える。黒く、そして邪悪な意志。大きく噴き出してくるかのようなオーラが視える。生まれて初めて感じるような―――恐怖。
今までのものとは比べものにならないような大技を繰り出そうとしている。こんな状況でここまでチャージされたエネルギーを放たれては即死する可能性がある。
ここまで…か。
―――ディール、諦めないで。
頭の中にライバーの声が響く。
言われてオレは気付いた。
自分の全身に、力が入るようになっていたことを……
トリさんは、オレの回復が完了している様を何かの力で感じ取っていたのだろうか…?
だとしたら、きっと……
「っ!!」
気合を入れて、オレはうつ伏せから一瞬で起き上がる。
「?!」
キーパーは少しだけ動揺の色を見せる。
オレは全力でキーパーに向かって走る!
しかし、キーパーはチャージがほぼ完了したその技を放とうとする。
そこへ、トリさんの光の槍が突き刺さる。
ぎががががががが!
ディフェンダー二人には貫通したその槍は、相手の胸元で金属が摩擦するような音を立てながら止まっている。貫けないっ?!こいつだけは別格ということなのだろうか?
そうこう考える間に懐に飛び込んだオレ。残念ながらパンチには自信がない。
思い切りショルダーチャージで相手をブッ飛ばす!!
―――はずだったが…
「がっ?!」
オレはなぜか大きく後ろに吹き飛ばされた。
3、4メートルくらい飛ばされ、体勢は崩さずに両足でなんとか着地した。
よく分からないけど、何かの力がキーパーの体表を覆っているのだろうか。
「もう遅い!死ねぇぇぇぇっ!!!」
どひゅっ!!
キーパーの巨大な闇は解き放たれ、右側のエレベーターの扉に2メートルくらいの大きな穴を開けた。奥には闇が広がっているが、先に光も見えている。どれだけ貫通しているのか…
「あたしも…いんのよ!」
見ると、リカはキーパーの顔面に怪力パンチを食らわせていた。
このお蔭で、闇の軌道が逸れたのか!
「はっ!たぁっ!ふんっ!はぁっ!!」
ジャグやフック、ローキック、ストレート。格闘技というやつなのだろうか…リカはコンボを操り出し、キーパーの顔面を中心に攻撃していく。完全に殺す気だ。えぐい。
長身キーパーは眼鏡を掛けているが、それはもうフレームも曲がりレンズも割れ、残念なことになっている。
謎の覆っている反発力は発動していないのか、見事に全部綺麗にヒットしていた。
リカの攻撃に少し後ずさるキーパー。しかし、よろめいてはいない。どこまでタフなのか…!少しだけ対峙した後、そのまま附室の外―――58階フロア内へと逃げ込んだ。
「二人とも、追うわよ!」
トリさんはそう言いながら、すぐさま追跡に転じた。
回復や立て直しもしたいところだが、オレもつられて走り出した。
「ちょっと!何なのよ!」
すぐ後ろをリカが追ってきた。
話したいことは山ほどある。だけど今は―――生きていて良かった。
58階は同じように廊下を半周し、A階段側の附室へと進んだ。
特にこのフロアは荒れようが酷く、怪我をしたのか息絶えたのか、人があちこちに倒れていた。血の海。身体の一部や臓器なのだろうか、色々なものが飛び散らかり、生臭い臭いが立ち込めている。確か、ここは国際弁護士事務所か何かだったような…?
マインド協会のフロアが無人だったのはマスターを連れ去ったから…?そして、このフロアに死体が散乱しているのはマスターではない一般人だから…?
憤りや複雑な想いを感じる。そして―――怖い。最終的にシンプルに表すならそういう気持ちになってしまう。だけど今は……前へ走らなくちゃいけない!
A階段へ到着すると、階段はそこから上へも続いていた。
予想は当たっていたようだ。
倒された状態の『関係者以外立ち入り禁止』の立てサインもあった。
そこから階段を駆け上がる。
そして2フロア分ぐらい駆け上がったところで、ペントハウスのサインと、少し広めの附室があった。
大きな金属の扉に大きなハンドル。近くの白壁に、インターフォンが備え付けられいる。
目の前の扉はハンドルが捻られた状態で、押すと簡単に開いた。
