第15話
レッダーは全く疲れた様子もなく、飛び上がってミニ馬の元へと飛んでいく。
「普通はね…精神力を大きくマインドに持っていかれてしまうから、しばらくぐったりするものなのよ」
何かを諦めたような感じで言いながら、フィリス先生もオレと共にミニ馬のところへと向かう。
よく見ると…
「間抜けな顔してるなぁ、お前…」
と、レッダーがミニ馬に言った。
「レッダー。気合い入れないで、ってフィリス先生が言ってたけど…気を抜き過ぎたんじゃない?」
「ミユ!」
「お、俺、別に悪くないもん、言われた通りにしただけだもん!」
「そう、この子も悪くないのよ」
フィリス先生はそう言って、ミニ馬の首を撫でた。
「もしこの子が間抜けだとしたら…それはレッダー君譲り、ってことね。ディール君たちには前にも言ったけど―――個性なの!どんな姿であっても、どんな性格であっても。一つずつの命の形。みんな違っているから素敵なの。分かったら……この子に間抜けって言ったことを謝りなさい」
オレからは見えないが、(多分)ものすごい険悪な顔でレッダーに迫った。
レッダーはガチガチに首をこくこく縦に振った。
「うん…ごめんな、間抜けって言って」
「くぅ~ん…」
ミニ馬はそう鳴きながら、首をレッダーに近づけて顔をペロペロする。
「やめろって…はは。くすぐったいじゃないか!」
「くぅんくぅん!」
呆然とじゃれ合う光景を見つめながら、オレはあることを思った。
「犬……?」
「ミユユ……」
犬のようなミニ馬とじゃれあいながら、レッダーは楽しんでいる。
「おまえ、角あるじゃんか。ユニコーンじゃねぇか。―――そうだ!!」
オレは、その先は既に読んでいた。コーンとか、大好きなシリアルに関係のある名前にするつもりだ。
「ミユ…」
ライバーもそう感じ取っていた。
「おまえの名前、ユニコーンだからコーンにしような!鳴き声もコーンって言ってるもんな!」
「くぅ~ん!くぅ~ん!」
コーンは尻尾を振りながら喜んでる。
オレにはどうしてもくぅ~んと鳴いてるようにしか見えない。
「そうだね…レッダーの大好きなシリアルもコーンだもんね…」
「シリアル?ディール、なに言ってんの?俺はただ、ユニコーンだからコーンにしたんだぜ?」
レッダーは想像以上に単純だった。
そして、一同はトライテクノスのミーティングルームに集まった。
オレ、レッダー。ライバーにコーン。フィリスさんにトリさん。
10人程度で使えるこの部屋にまだまだ余裕はあった。
ランセットもこの場にいれば良かったのにな。
「さて、早速―――みんなも知っての通り、マインドのマスターは狙われているわ」
トリさんは淡々と語り始める。
「最近各地でマスターが消息を絶つ事件が起こっているの。私たちは誘拐じゃないかと踏んでいたの」
「私たち?」
うっかりオレは感じた疑問を口にしてしまった。
その疑問にはフィリス先生が答えた。
「ディール君、トリは王室専用SPの一人なの。ガーディアンと呼ばれているわ」
「ガーディアン…」
全然聞きなれない言葉だ。
メリグロウォス王国の王族を護衛する、めっちゃ強い警護の人…ということか。
「王族から直接の命令が出ていたの。この事件の首謀者を捕え、組織を壊滅させるように」
レッダーはトリさんにこう問いかける。
「でもそれって、警察とかの仕事じゃないんですか?」
するとトリさんは左手の手のひらを上にして、オレたちに突き出す。
そして…その左手首には次第にうねうねとした身体で巻きついた黒蛇が姿を現した。意味もなくリボンをつけている。トリさんの趣味なのだろうか…?
「ま、マインド?!」
オレは思ず声を上げる。
「そうよ、私のマインド、ジーナよ。君たちのマインドとは少し違っていて…戦闘用として抽出されているの。だから、長時間―――本気を出せば起きている間くらいならほぼずっとリュニオン状態を維持できるの」
「へ、へぇ~……」
戦闘用じゃないとは言え、オレはすこぶる弱かったということか。ん?
「ということは。あの覆面男たちもみんな―――?!」
「そう。あいつらも全員マインドマスターね。戦闘用の。だから普通の警察とかじゃあ全然歯が立たないの。マインドにはマインドで対処しなとね。私たちガーディアンは全員マインドの使い手なの。専門の戦闘教育を受けた―――」
「そうか…それでトリさんはあんなに強かったんですね」
「ふっ…私なんて、ガーディアンの中じゃあ新米の下っ端の部類よ?ガーディアンは本来、王族を護るための存在だけど、今回の事件、ガーディアンしか対処出来ないんじゃないかって話になってね。王族も大事だけど、国民を守ることもその責務だと考えられて、事態の終結に向けてガーディアンを投入することになったの。それで、協会本部に打ち合わせに行こうとしたんだけど、変な精神攻撃を食らって、捕まって―――そこをディール君に助けてもらったのよね?」
「え?…は、はいっ」
事態が想像をどんどん超えて大きくなる中、自分だけ取り残されてしまいそうな感じだ。
「それでトリ、奴らの狙いは掴めたの?」
フィリス先生はそうトリさんに訊いた。
「他の班の報告とも重ねて―――予想でしかないんだけれど…。奴等はマインドのマスターを捕まえて、何かの人体実験を行ってるんじゃないかと思うの」
「人体実験?!」
レッダーが声を張り上げ、部屋の中に残響が響く。
「私たちがスカイブルータワーの屋上に到達したとき、意識を失ったマインドマスターが87人見つかった。それらは全て、何らかの実験に付き合わされたが故だと私は見ているの」
そう…ぐったりして動かなくなった人たち。かなり衰弱しきっていて、ぱっと見、死んでいるのかと思うほど。
「!そうだ…今さらだけど、みんなマインドがいなかった…ですよね?」
こくっとトリさんは頷く。
「そう…屋上にいたマスターたちは今も誰一人意識が回復していない。マインドはいなくなってる。これはおそらく……」
その続きは、フィリス先生が答えた。
「屋上に一か所に集められ、何かしらの措置を受けた―――そしてそれはおそらく、精神エネルギーを吸い尽くされた、と見るべきかもしれないわね…」
重い空気に包まれた。敵の目的ははっきりしない。マスターを誘拐して力を吸収する―――それが一体何を意味するのか。
でも、ということは……
「あの~…」
「俺たちも危ないってことですか?」
トリさんもフィリス先生も、こくっと頷いた。
「しばらくは家から出ない方がいいかもね。マインド協会の本部はなくなってしまったから、私のところから出来る範囲で周りに注意喚起するメッセージを発信しておくわ」
「でも…その…オレたち、まだ研修受けてないんですけど…それはどうしたら…?」
ちょっと言い出しにくい事実。マインドを抽出しただけで扱い方の研修をオレもランセットも受けていない。協会の本部が機能してない今、どこでそれを教わればいいのか…?
フィリス先生はうんと考え込んで、頭をポリポリと掻いた。
「トリ、あなた研修してあげたら?」
「お断りします」
「しかしディール…あれ、即答すぎだろ?」
研究所からオレんちへ向かう途中の緑道。レッダーはむすっとした顔で訊いてきた。
オレだってあまり気分は良くない。
コーンの背中にはライバーが乗っている。馬(?)とは言え、オレやレッダーが乗るにはコーンは小さい。大型犬くらい…かな?
「仕方ないよ。トリさんもフィリス先生も、そういうのが仕事じゃないんだし」
「でもよぉ~いざって時の為にも戦いに必要な知識くらいは知っとかなきゃ、襲われたときに対処できねぇじゃねぇーか!」
それは確かにご尤も。
なんとなくライバーと同化できるようになり、なんとなく回復能力が使えたり。もう少し突っ込んだところまでは最低でも知っておきたい。
「でも、だから―――かもしれない」
オレはぼそっと口に出た。
「ん?どういうことなんだ?」
「オレたちが戦う力を身に着けたら、逆にそれで首を突っ込んで余計に危ない目に遭うんじゃないかってこと。事件の捜査はガーディアンって特殊な強者や警察も動いているんだから、ほとぼりが冷めるまで待ってろってことなのかもしれない」
レッダーはう~んと唸った。
「ディール。おまえ、結構色々考えてんだな…」
「レッダーが何も考えてなさすぎなんだよ~」

