「武田!?おまえ・・ まだ残ってたのか?」

 

 

俺が戻ると、まわりは皆帰って、誰もいなくなっている中

武田がパソコンに向かってキーボードを叩いていた

 

 

「これ、キリのいいところまでやってしまいたかったんで。」

 

「・・・ そうか。」

 

 

椅子に座ってネクタイを緩めると

デスクの上に溜まった書類に手を伸ばす

 

 

「松永さん、タバコ・・・ 吸いましたね?」

 

 

ビクッ

 

そうだった

こいつ、タバコ吸うとうるさいんだった

 

 

「悪い、まだ匂うか?」

 

「就業後なんで、うるさくは言いませんが・・・ せっかく今月は辞められていたのに、残念ですね、25日ぶりですよ。今度こそ禁煙できるかとー」

 

「待て待て、お前・・ 俺の喫煙日、チェックしてるのか?」

 

「ええ。」

 

武田が小さいカレンダーを俺に向かって差し出して見せた

そこには、俺の喫煙日らしきところにチェックがつけられている・・?

 

「上司の健康管理も私の仕事のひとつです」

 

「・・・・・・」

 

いやそれ、重役クラスの秘書の仕事だろ

 

「でもまぁ、N社の専務から、まさかの追加変更の要請なんて来ちゃったら、・・・しかも結構な・・ タバコだって吸いたくなるかもですよね」

 

吸わない奴が何を言ってんだか・・・

 

「まぁそうだな、今更、そこ、来るかぁー、って話だけど、あちらさんも、考えに考えての要請だったんだろうし。やるからには最高のものにしたいしな」

 

「松永さんなら、そういうと思ってました」

 

「・・・・・・」

 

「ってことで、ここ、まずはまとめてみてるんですけど、あとで見てもらえます?」

 

「あとで、って・・ これから?」

 

今、7時だぞ?

 

「ええ、乗ってるんです、今」

 

そういうとキーボードを叩く音が走り出した

 

「・・・ 鬼だな、お前も」

 

「松永さんほどじゃないですよ」

 

ボソッと吐いた言葉も、この静寂の中では拾われてしまうのか

 

「じゃあ、待ってるわ」

 

やることなら、山ほどあるからな

 

 

 

それにしても・・・

そっか、25日ぶりだったか

タバコ・・・

 

 

まっさか、夏川が森島とつきあってるとはなぁ~

 

いや、薄々、そんな気はしてたのかも

でも認めたくないっていうか

違うだろ、って否定してたのかもな

 

それをまぁ

なんで、言うかね?

アイツ・・・

 

告る前にフラれた

ってことか

 

二階堂に言われてたよなぁ

今まで何年あったと思ってんの、って

ほんとだよなぁ

何でオレ、もっと早く告っておかなかったんだろうな~

 

まぁ、告ってたらうまくいったのか?って話だけど・・・

勝手に心のどっかで、うまくいくような気がしてたわ

甘かったな

 

後悔先に立たずって

こういうときのことを言うんだろうなぁ

 

年下はない、って言ってたの、どこのどいつだよ

しかも、森島はないだろ、森島は

 

敵う気しないわ

全く

 

はぁ~・・

 

やっぱ、もう一服・・

 

 

「松永さん」

 

 

席を立ちかけた俺の前に、武田が立ち塞がってきた

 

 

・・え?

 

 

「まさか、また、タバコ吸いに行こうとしてません?」

 

「はっ?・・な、なんだよ、別にオレはー」

 

「百害あって一利なし、です。やめましょう。身体に悪いですよ?」

 

「・・ や、それはわかってるんだけど。ちょっとくらいー」

 

「肺がんで亡くしてるんです、父親」

 

「え・・」

 

「すごいヘビースモーカーでした。いつもタバコの匂いさせて・・・」

 

「・・ 悪い、そんなこと知らなくて・・・」

 

 

そうだったのか

それでコイツ、今まであんなにー

 

 

「いえ、だからなんだ?って言われたらそれまでなんですけど・・ただちょっと・・ タバコには人より過敏になってて・・うるさくしてすみません」

 

「いや。OK、やめるよ、タバコ」

 

 

そういうと、オレはポケットに入っていたタバコを取り出し

ぐじゅぐじゅっと握り潰すと

ゴミ箱に捨てた

 

 

「もう二度と吸わない。もし俺が吸ってたら・・・ また、厳しく𠮟ってくれ」

 

「了解です。じゃあ・・ これ、見てもらえます?」

 

「ん?あ、あぁ、見ておくから、お前はもう帰れ。」

 

「それ、見てもらってから帰ります。松永さんと一緒に」

 

俺と一緒に?

 

「そんなこと言ってないでー」

「だって、私が帰ってからまた、吸ったら注意できないじゃないですか」

 

「吸うわけないだろーが。今、捨てたの、お前も見ただろ?」

 

「他にもあるかもしれないでしょ」

 

「ないない、ありません」

 

「でも待ってます。なんか今日の松永さん、ちょっと心配ですから」

 

「・・・・・・・・・・」

 

 

武田・・・

 

今の、ちょっとグッとキたわ

 

 

「あっ、だからって送ってくれとか言ってるわけじゃないですよっ?ただ、一緒に会社を出るってだけでー」

 

「おーおー、わかってる、って。ついでに晩飯、ごちそうしてやるから待っとけ」

 

「ええっ!?いや、あのっ、ほんとにそんなつもりではー」

 

「俺が腹減ってんだよ。じゃあ、集中するから」

 

 

すみません、って小さく声が聞こえた

 

 

ふっ

さっきまで、自分が腹減ってることなんか

気づかなかったのにな