大きな扉の前には、さっき私の着替えを手伝ってくれた女性が立っていた

 

私たちの姿を見つけると

すぐにこっちに向き直り、お辞儀をしている

 

「ダリ、何か飲み物を」

 

皇子にそう言われると

 

「かしこまりました。」

 

返事をして、下がっていった

 

 

 

扉を開け、中に入ると

私はすぐさま大きなソファへと身を投げ出すようにして座った

 

「あぁ~~~・・ 疲れたぁ~~~」

 

 

 

「・・・・・・」

 

大きく伸びをしていると

スッと目の前に立ちはだかる大きな影から

突き刺さるような冷たい視線を感じた

 

 

「あれくらいでへたばっているようじゃ、この先、務まらないぞ?」

 

仁王立ちしている皇子から見下ろされ

 

「はぁ?この先って、何を言ってるの?私はー」

 

納得のいかない私が睨みつけるようにして見上げると

 

皇子は腕を組んだまま

腰を折るようにして上半身を乗り出し

その顔は、思い切り眼前にやってきた

 

 

「不法侵入者だ。」

 

「・・っ!」

 

 

うっ・・・

 

「ふっ、不法侵入者って・・ そんなんじゃないんだってば!」

 

「ほう~?では、いったい、なんなんだ?」

 

「なんなんだ?って言われても・・ 私にもこの状況が全く把握できてなくって・・」

 

 

いったいぜんたい、私に何が起きているんだか

これは・・・

 

なんなの?

 

新しい体験型アトラクション?

というにはちょっと・・

手が込みすぎているというか・・・

でももしかしたらそうなのっ?

だったらさやかもどこかでやってるってこと?

 

 

「・・・ 毎日こういう設定でやってるの?」

 

 

「・・・・・・・?」

 

 

 

きょとんとした皇子の顔

 

 

 

「それとも、臨機応変に対応できるよう、めちゃくちゃ訓練されてるの?」

 

 

私の質問にさらに戸惑った表情の皇子

 

そのとき、扉の向こうで鐘が鳴った

 

 

「ダリか?入れ」

 

皇子がそう答えると

 

重い音とともに、扉が開いて

ティーセットを乗せたワゴンを押したさっきの女性がはいってきた

 

カタカタと音を立てながら

私の横までくると

ひとつのティーカップに飲み物を注ぎ

 

「どうぞ」

 

目の前に差し出された

 

 

「え?私?」

 

 

こういうのって、普通えらい人・・ そう、ここで言ったら、皇子が先に飲むもんじゃないの?

 

でもダリと呼ばれた女性は、私の問いかけに肯いている

 

 

「・・・ 先に飲んでいいの?」

 

 

それでも不安に思い、皇子に聞いてしまう

 

 

「もちろん」

 

 

あ、いいんだ?

その笑みに安心して、渡されたティーカップを口へと運ぶ

 

「わ、いい香り・・」

 

素敵な香りがして、口に含むと中いっぱいに香ばしさが広がる

 

ゴクンッ・・

 

「美味しい・・・ ね、これって何て言うお茶なんですか?」

 

 

今度はダリさん、思いっきり私の質問をスルーし

もう一杯のお茶をティーカップに注いで皇子の前へ

 

皇子も差し出されたそれを

うむ、と受け取り、口へと運ぶ

 

その時にハッと気づいた

 

 

「もしかして私・・・ 毒・・見・・役?・・だった・・とか?」

 

 

「フッ・・ ようやく気づいたか」

 

 

「うっそでしょー?そこまでやるっ?すごい徹底した設定よね?

なに?結婚する予定のお姫様が襲われて、王様もどこか変で、あなたに仕える人も怪しくて・・・ あー、そうか!さしづめあなたは、疎んじられている存在の皇子っていう設定なんでしょ!!?」

 

 

ビクッー

 

 

突然、首筋に何か冷たいものを感じた

 

え?なに?

何があたってるの?

 

 

 

「皇子・・・・ こやつはいったい、何者ですか?」

 

 

背後から押し殺したように響く低い声

 

え?なに?

後ろに人がいる?

いつのまにこの人、入ってきてたの?

 

 

おそるおそる見下ろす私の視界に入ったのは・・・ 

後ろから伸びてきた剣?

・・が、首筋に当てられてる・・・?

 

 

 

「・・・ わからん」

 

 

 

「ちょ、ちょっと・・ さすがにこれは勘弁してほしいんですけど・・・

いつまで続くの?どうなったら終わり・・?」

 

 

 

「テジュン・・・ この者がユリン殿ではないと知っているのは、ここにいるダリとおまえ。

そして今、本物のユリン殿の行方を必死で探しているミヌだけだ。」

 

 

 

え?

ちょっとちょっと!

私の質問は完全スルーなのっ?

 

 

 

「そんなこと言って・・ さっき陛下も知ってたじゃないの!その姫が襲われたこと!

だったら案外、私のことも偽物だってわかってるんじゃー」

 

 

ピトッ

 

 

「・・っ!!」 ひぃっーー

 

 

さっきより、素肌に感じる剣の冷たさ

 

 

 

そして、目の前に再び近づいてきた、皇子の顔

 

 

 

「いいか?・・・ 不法侵入者のお前に残された道は、たったひとつ。

見事ユリン殿になりすましてここで過ごすことのみだ。

そのためには、私の言うことに従うしかない。・・・わかっているのか?」

 

 

 

「・・・・・・・・・・・」

 

 

 

まだ・・・ やるの?

 

 

ゴクンッ

 

「わ・・ わかったから、この剣、どけさせてよ・・」

 

 

もうーーっ

こうなったらとことんつきあってやるわよっ

 

どうなったら終わりになるのか!