宮殿から初めて街に出ると

そこは本当に別世界

 

どこか海外に出掛けただけのようにも感じるほどで

宮殿よりも居心地がいいことこの上ない

 

自然と私の足も軽くなり

飛び出そうとしたところを

皇子に掴まれた

 

「どこへ行くっ?さすがにひとりでは危ないであろうが」

 

「え?でも・・ 狙われたのは本物のユリン姫でしょう?だったら私はー」

 

「それでもだ。とにかく、この格好では目立つゆえ・・ ついてこい」

 

「え?ついてこいって、どこへー」

 

大きなケープを羽織り

皇子も私も、外からは顔が見えないようにしていたため

歩きにくかったのは確か

本当ならこのケープをとって歩きたいぐらいだったから

もしかして着替えさせてくれるの?

 

でもどこで?

 

 

 

皇子は一軒の家に入って行った

 

「リュウ、邪魔するぞ」

 

 

・・・ リュウ?

 

 

後に続いてドアを入ると

そこには、何人かの男の人たちがいて

 

 

「ユノッ!!」

 

 

皇子を見るや、皆、口々にそう呼びながら集まってきた

 

「どうしたんだ?」

「久しぶりじゃないか」

「今日はゆっくりできるのか?」

「うまい酒があるぞ?」

 

 

なになに?

この人たちはいったい・・・?

宮殿の兵士のようには見えないし・・・

 

何より、皇子のことを呼び捨てにしている

 

 

「・・・・ この女は?」

 

 

 

突然、誰かがそう言って、あっという間に視線は私に集中した

 

 

「あ、えと・・・」

 

 

何て言うべきなの??

 

 

「もしかしておまえの女か?」

「そうなのかっ?」

「ここに女を連れてきたのは初めてじゃないか!」

 

 

・・・ そうなの?

 

 

「ただの異国の女だ」

 

 

・・・・。はい、そうですけど

 

皇子がなんていうのかちょっと興味あったりしたから

何だか少し・・

そう、ほんの少しだけ、ショックだったりする・・・かも・・

 

 

「異国の・・・」

「そう言われたら、この街の女でもないな」

 

 

「初めてこの国に来たので、街歩きをさせてやろうと思ってな?

いつものように俺の着替えと、こいつにも着替えを用意してくれないか?」

 

「・・・ よろしくお願いします」

 

 

私もユノの横で、頭を下げると

何人かが、奥へと消えて行った

 

 

「ところでリュウは? 姿が見えないようだが・・・」

 

「頭(かしら)は今、ちょっと出掛けてる」

 

「そうか・・。何かあったのか?」

 

「西の街でちょっと・・・」

 

 

 

・・・ 頭?

かしらって・・ 何か盗賊の一味みたいな響き?

ここはいったいどういうところなんだろう?

テジュンは知ってるのかしら?

 

 

なんて考え込んでいると

突然腕を引っ張られた

 

「こっちへ」

 

 

振り向くとひとりの少女がそう言って顎で私を促した

 

女の子もいるんだ?

 

私はついていき、そこに用意された服に着替えていく

 

 

「・・・ ほんとにユノの女じゃないのか?」

 

「・・・っ?」

 

 

わお!

ぶっきらぼうだけど・・

少女のように見えるけど・・

 

この子、ユノのこと好きなんだわ?

 

・・・と、女の勘が働いた

 

 

「うん、違うよ」

 

 

私がそう答えると

途端に少女はご機嫌になり

着替えを手伝ってくれた

 

あ~

なんて素直で可愛いんだろう!!

 

それにしても・・・

こんな少女も恋に落ちているとは

皇子・・・ 恐るべし

 

 

私が着替えを終えて、さっきの部屋へと戻ると

既に着替えを終えた皇子は、野郎共に囲まれて

にこにこ楽しそうに笑っていた

 

 

あら・・

宮殿では見たこともない笑顔

 

 

「皇っー」

 

私が皇子、と呼ぼうとしたら

こっちを向いて、立てた人差し指を口元に持っていき

まるで『シーーッ』のポーズ

 

・・・もしかして、ここでは皇子というのは内緒なの?

 

「着替えたか。では、行くとするか」

 

皇子が立ち上がると、皆、ちょっと寂しそうで

この男たちも落ちてるんじゃ?

なんて想像するとちょっと笑える

 

 

「なんだ?何がおかしい?」

 

「え?いや、ううん、なんでもない」

 

いつのまにか、この人が横に立って

この角度で見下ろしてくる

 

そんなのが、至極当たり前のことのように感じる自分がいて

ちょっとびっくりした

 

 

「じゃあ、出掛けてくる。あとでまたな」

 

「おうっ」

「気をつけてな」

 

 

皆に見送られ、私たちは街へと歩き出した

 

 

「あそこでは、皇子ってことは内緒なの?」

 

 

家から離れると

私は疑問に思っていたことを聞いてみた

 

 

「ん。だからおまえも、俺のことは皇子って呼ぶなよ?」

 

「え?皇子って呼ぶな、って・・ だったらなんてー」

 

「ユノ、でいいだろ?」

 

「・・・・・・・・」

 

 

いやいや、今まで散々、皇子って呼んできて

宮殿での横柄・・いや、偉い態度を見てきて

ここにきて、呼び捨てとか

 

 

「・・・できないなら帰るが?」

 

「えっ?やだやだー」

 

「だったら、ほら?」

 

 

ちょっと待ってよ

そんな、顔近づけて、促されても・・・・

照れるじゃないか!!

 

「・・・ ユノ」

 

「ん。 行くぞ」

 

 

そんな満足そうな顔しないでよー///////

 

 

 

 

 

 

 

「わー!ねぇユノ!あそこ、見てもいいっ?」

 

 

私は、軒先にたくさんの首飾りがぶら下がっている店を指差し

ユノの服の袖をチョイチョイッと引っ張った

 

 

「ん?どこー」

「行ってくるっー」

 

もう走り出していた

 

シンシア妃に言われるまでは、なんとも思ってなかったのに

いざこうしてたくさんの首飾りたちを見ると

どれもこれも可愛く、綺麗に見えて

自分の物欲が沸々と湧き上がってくるのを感じた

 

 

「お嬢さん、こっちも似合うよ?」

 

 

私が目についた首飾りを手に取って見ていると

お店の人が出てきて、別のを差し出してきた

 

 

「うわぁ~・・ 可愛い~」

 

 

手に取ってよく見てみると、凝った装飾が施されていて

明らかにさっき私が手にしていたものより高そう

 

 

「・・ いい、お仕事・・されてますよね~」

 

何て言いながら、それを店主の元へと戻そうとすると

 

「これを頂こう。いくらだ?」

 

横からユノがそう言った

 

 

途端に店主は嬉しそうな顔になり、値段を言って

ユノからお金を受け取った

 

 

「・・・ いいの?」

 

「欲しかったのだろう?」

 

「ありがとぉ~~~~っ」

 

 

思わず抱き着きそうになり

ハッとして

なんとか思いとどまった

 

 

ーー ほんとにユノの女じゃないの?

 

ーー ただの異国の女だ

 

 

 

「・・・?」

 

「ありがとう、ユノ!」

 

にっこり笑ってお礼を言うと

 

「どれ、つけてやろう」

 

 

あろうことか、ユノ・・・

さっき買ったばかりの首飾りを

私の首にー

 

 

どきどきどきどき・・・

 

うわわわわっ

 

近いっ(>_<)

 

 

「どうした?」

 

「・・え?」

 

「顔が赤いが・・ 熱でもあるのか?」

 

「っ!!!」

 

 

今度はおでこに手っ!!

 

もうだめっ、やばいってー((>д<))

 

 

「だ、大丈夫。」

 

 

私はユノの手をとり、退けると

 

「初めてのお出かけに興奮してるだけ。本当にありがとう」

 

そう言って離れ

両手で顔を仰いだ

 

 

ふぅ~

さすが皇子だ

天然たらしなんじゃないの?

あんなんやってたら、会う人会う人、みんな惚れてしまうわっ

 

 

「・・・ 水でも買って来よう。ここで待っていろ」

 

「えっ?そんなっ、大丈夫っー」

 

 

ってもう行っちゃった・・・

 

何よ

そんな・・・

優しいじゃないの

 

ただの異国の女に・・・

 

 

・・・・?

 

 

そのとき、どこからか、強い視線を感じて辺りを見まわすと

 

通りの向こうから私を見つめるひとりの男の人と目が合った

その男は、私と目が合うと

驚きの表情を浮かべ、慌てるように踵を返し、走って行った

 

 

・・・え?

なに?

私を知ってる?

 

っていうか、これってもしかして何か・・・

やばいんじゃ・・・

 

 

ユノ・・

 

さっきユノが消えた方を見ても

まだ姿は見当たらない

 

「もう~ どこまで水買いに行ってるの・・ ってー」

 

まさかっ

狙いはユノだったりするっ?

そりゃそうよ!

偽物の私が狙われたりするわけないじゃないっ!

 

私は慌てて走り出した

 

「ユノっー」

 

 

 

 

 

 

「・・・・ これはこれは、いったいどこから来たんだい?」

 

 

走る私に

そんな声がいきなり横から飛び込んできた

 

・・・今の、私に言った?

 

どこから、って・・・

 

 

声のした方を振り向くと

まるで占い師か!魔法使いか!

って突っ込みたくなるような風貌のおばあさんが

ひとり、道路脇に座っている

大きな木の杖に両手ですがるようにして・・

 

 

「どうやら・・・ 迷い込んできてしまったようだね」

 

 

・・・え?

 

私は吸い込まれるようにそのおばあさんの前まで歩いて行った

 

 

「・・・・ それって、私のことですか?」

 

 

「早く帰りなさい。でないと、大変なことになる」

 

 

「早く帰れって・・・。どうやって帰ったらいいのか・・ 私、帰れるんですかっ?」

 

 

「帰れるに決まってる」

 

 

えっ?

帰れるのっ?

 

 

「どうやって・・・」

 

 

「ユリナーーーッ!どこだぁーーーっ!!?」

 

 

ハッ

皇子の声っー

どこっ?

 

 

「ユリナーーーーッ!返事をしろぉーーーっ!!」

 

 

無事か・・

 

ホッとして顔を戻すと

 

 

「・・・あれ? おばあさん・・?」

 

 

そこに座っていたおばあさんの姿はなかった