「あ、しまった・・」

 

 

突然 翔琉がそう呟いた

 

どうしたの?と首を傾げるように翔琉のことを見つめると

 

 

「荷物。・・・・ コインロッカーに預けてたの、忘れてた」

 

 

そう言って舌を出した

ペロってやつじゃないよ?

何て言うの?

唇拭うみたいな?

唇からのぞかせる、みたいな?

 

しかもこれがまたかっこいいのだ

可愛い系のやつじゃなくて

 

は?

舌を出す?

どうしてそこで?

なんだこいつは・・・!

なんという けしからんやつなんだ!!

 

と もはや私の頭の中は

おまえがだろ、と自分を戒める言葉しか見つからないほど

 

けしからんことになっている

 

 

「悪い、香子。・・・・ つきあってくれる?」

 

 

「え・・」

 

 

 

ーー 香子、つきあってくれる?

 

 

 

私の頭の中で、翔琉の言葉が何度も何度もぐるぐるぐるぐる

 

 

「・・・ 香子?」

 

 

「えっ?あ、あぁ、ごめん。いいよ。えと・・ 駅?」

 

 

我に返ると うっかりそう返事をしてしまった

 

 

おいおいおい

お前はさっき、翔琉の前から逃げ出したんじゃなかったのか?

 

一緒にいるの、無理になったんじゃなかったのか?

 

 

それを、こんなあっさり、ホイホイと・・・

 

 

 

「悪いな。そのかわり、タクシー代 おごる」

 

「やった!ラッキー」

 

 

笑えてる?

顔・・・

 

 

ちょっと不安

頬がひきつってたような気がする

 

 

 

駅までの道のり

 

歩く人たちはまばらだけど、まだ人通りはある時間

 

すれ違う女性たちの目が、翔琉を見てハートになっていくのがわかる

 

隣を歩く私は、いったいどんなふうに思われているんだろう?

 

暗くなったショウウィンドウに映る私たちふたり

その距離は近いようで遠いようで・・・

 

やっぱり「友達」の影だな

なんて思って心の中で笑えてくる

 

 

友達でいたい

 

友達ではいたくない

 

 

でもフラれたら?

 

 

 

何度この自問自答を繰り返せばいいんだろう?

 

 

 

「なぁ、香子?聞いてる?」

 

 

急に翔琉がそう言うと、私の目の前に立ち塞がった

 

 

「えっあっ、ごめん、聞いてなかった・・・ 何?」

 

 

突然 向かい合うことになってびっくりする

 

ぼ~っとしてました、はい

何か話しかけてくれてた?

せっかく翔琉と一緒にいるのに

翔琉が私に話しかけてくれていることも気づかないとは・・・

 

申し訳なさそうに翔琉の目を見つめると

 

フッと優しそうに目を細め

すぐに逸らされた

 

 

なに?

 

 

 

 

「うそ。・・・・ なんも言ってねーよ」

 

 

・・・え?

 

私の前から、また私の隣へと移動し 歩き始める翔琉

 

 

「ねぇ、なになに?嘘でしょ、今の。ごめん、私が聞いてなかったから怒った?ね、何?なんて言ったの?」

 

 

今度は私が翔琉の前に回り込む

 

 

すると、私の勢いに驚いたのか

翔琉の目が真ん丸になってる・・・!

 

 

今度は私が逸らした

 

 

 

「・・・ 別に、何も怒ってねーよ」

 

 

「・・ そか。だったらいいんだけど・・」

 

 

 

ホッと胸を撫でおろし、ゆっくりとまた、翔琉の隣に移動する

 

 

 

なんなのっ?

 

なんなのっ?この時間

 

 

翔琉の隣を歩ける嬉しい気持ちと

さっきからの自問自答が頭の中を行ったり来たりで

 

 

ほんっと困る

 

 

 

 

 

 

 

 

「ね、さっき・・・ なんで先に帰ろうとしたの?」

 

 

 

 

 

コインロッカーから荷物を取り出すと

 

翔琉はまたそう聞いてきた

 

 

 

「なんで?って・・・・」

 

 

 

蒸し返します?それ・・・

 

 

タクシー乗り場に向かって歩き出す

 

翔琉が荷物を持ってちょっと後ろを歩く感じになる

 

翔琉の顔は見えない

 

 

どうする?

 

あんたのこと、エロい目で見てしまって困るからだ、とでも言う?

 

言っちゃう?

 

 

いやいや、それはないでしょ

引かれるに決まってる

 

 

 

「あのさー」

 

 

 

後ろから声が聞こえた

 

翔琉の

 

 

 

なんだろ?

何を言い出すのかな?

 

もしかして、どこか寄りたいところとか出来た?

 

 

 

「なに~?」

 

 

振り向かないで聞き返す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「タクシー乗ったら、オレん家まで、ってことでいい?」