なんか良いネタないですか?」
警部「よう、白石ちゃんか。
うーん、あるにはあるんだけど…」
記者「勿体ぶらずに教えて
くださいよー。またコッチからも
色々情報流しますから。」
警部「なかなかおっかない話だとは
思うんだが何と言うか…」
記者「とりあえず聞かせてください。
僕と北野さんの仲じゃないですか。」
警部「…窃盗なんだけどね。」
記者「はい。」
警部「現場はおもちゃ屋、
犯人は元アルバイト店員。
裏口から深夜に侵入しての犯行。 」
記者「なるほど…地味ですね。」
警部「よくある話で、解雇された
腹いせでやったそうだ。」
記者「…ますます地味ですね。
あ、金庫でも荒らしたんですか?」
警部「いや、盗んだのは商品だ。」
記者「高額なフィギュアとか?」
警部「いや、パズルだよ。」
記者「パズル?」
警部「被害はジグソーパズル
5ピースだ。」
記者「何すかそれ!?」
警部「まあ、聞いてくれ。
やっこさんはそれを店にあった
1000ピース以上のデカい
ジグソーパズル5箱から
盗んだんだ。」
記者「…?」
警部「5箱から抜いたんだよ。
1ピースずつ。」
記者「………。」
警部「で、包装キチンと直して
元に戻しといたんだと。」
記者「その…何と言うか…」
警部「…だろ?」
記者「…うーん。」
警部「あ、それでこの話
続きがあるんだ。」
記者「はい。」
警部「バレたのは今回はじめてだが
やっこさん、解雇された去年頭から
何回もやったって供述してる。
で、その1ピース足りなく
なってるパズルはそうとは知らない
お客さんにもう既に20箱程度
買われた後だそうだ。」
記者「……。」
警部「……。」
記者「…え?終わりですか?」
警部「おしまいだが…?」
記者「あの…警部。」
警部「何だ?」
記者「全くピンと来ないんですけど
その…どこがおっかない話なのか…」
警部「うーん…白石ちゃん
大きなジグソーパズル
作った事ないだろ?」
記者「ないです。子供の頃、
5分で出来るような簡単なの
やったくらいです。」
警部「だろうな。
うーんとそうだな…例えば…
白石ちゃんの息子さんが
将来 センター試験で
1000点満点中999点取れたら
どう思う?」
記者「ははは…大絶賛して
何でも好きなもん買ってやりますよ。
で、東大でも京大でも行きたいトコ
行けって言うかな。」
警部「だよな。だが、
ジグソーパズルで999点取れても
全く意味無いんだよ。
それは0点に等しい。」
記者「…あ、そうですよね。」
警部「俺はガキの頃
確か2000ピースかな…
作った事あってだな。」
記者「はい。」
警部「とてもじゃないけど
終わらないんだよ。
一日くらいじゃ。
何日も何日もかけてやっと
完成って時になって…」
記者「……。」
警部「じわじわ気づくんだよ。
そしてあと数ピースってところで
絶望が確信に変わるんだ。
…1ピース足りないって。」
記者「それ、キツいですね。」
警部「で、部屋中ひっくり返して大捜索さ。
カーペットの裏やらタンスの後ろやら
掃除機の中も見たな。」
記者「どうなったんですか?」
警部「見つからなかったよ。
途方もない時間とカネの浪費だ。
で、その後がまたキツいんだ。」
記者「はい。」
警部「そこそこ高いカネ
払って買ったパズルだし、
それ用の額まで用意してあったから
一応飾ったんだが…」
記者「……。」
警部「ぽっかりと不自然な形の穴が
空いたパズル見る度に思い出すんだよ。
ああ、ピース1個なくした。
ああ、一枚足りないって…」
記者「四谷怪談みたいですね。」
警部「まさにそれだよ。
今回思い出しちまってな。
…忘れてりゃ良かったよ。」
記者「なるほど、確かに
おっかない話に思えてきました。」
警部「抜かれたパズル掴まされたら
たまったもんじゃないよ。
で、発覚遅れたのもおそらく皆
自分がなくしたと思ったんだろう。」
記者「…でも何故犯人はそんな
めんどくさい事をしたんでしょう?
腹いせならもうちょっと店に直接
被害及ぶようなのを
選びそうなものですけど…」
警部「やっこさん、解雇された理由が
クレーマーと派手に
喧嘩したからだそうだ。
…で、そのクレーマーってのが、
パズル売り場に来た親子連れ
だったんだと。」
記者「はあ。」
警部「ココで買ったパズルの
ピースが3つ足りなかった。
不良品だから返金しろって
しつこく責められたらしい。」
記者「典型的なクレーマーですね。
3ピース足りない製品出す企業なんて
普通に考えて存続しないでしょうから。」
警部「ああ、で、やっこさんブチ切れて、
『 そのガキが散らかして無くしたんだろ?
3つ足りなかった証拠でもあるのか?
作る前に数えたのか?』と
胸ぐら掴んで凄んだらしい。」
記者「うーん、それ犯人にもちょっと
問題ありますね。」
警部「まあな、元々やっこさん
勤務態度も客の評判も良くなくて
店長はこれでクビに出来れば
良い厄介払いだって思ったそうだ。」
記者「なんか色々と嫌な話ですね。」
警部「…で、やっこさん
1ピースずつ抜けばまた
クレーマーが来て
店長が困るかも知れない。
あと、パズルなんかやってる奴
みんな地獄に落ちろって思って
犯行を続けたそうだ。」
記者「…なんか犯人 屈折してますね。」
警部「俺もそう思うよ。
動機は変な方向の逆恨み、で
犯行は多少サイコの傾向のある
愉快犯と言ったところかな。
売れたの確認しては深夜に密かに
ガッツポーズしてたらしい。」
記者「やっと全部が腑に落ちました。」
警部「そうか。」
記者「でもこれ記事には出来ませんね。
説明かなり要るし…」
警部「……。」
記者「何よりやっぱり
めっちゃ地味です。」