「日向君。腰のほうはどうだい?」

「結構いいですよ。痛みもあんまりないし」

少し先生に腰を見てもらった。

・・・・・・


「日向君。本当に三回も飛んだのかい?」

「はい。やっぱり・・・決勝は本気だしちゃダメですか?」

「イヤ・・・あと4回。4回飛べるだろう。よかったね。」

「ホントですか!よかった~」

「そのかわり!」

「15分空けろ・・・ですか?」

「それもあるけど・・・」

「あるけど?」

「次、診断をするときは優勝しているように!」

「先生・・・ハイ!!」



このときすっごく思ったんだ。

俺は一人じゃない。みんなの支えがあってここまで来れたんだ。簡単に諦めちゃいけない。俺だけの問題じゃないんだ。みんな信じてくれてる。勝たなくちゃ!



決勝まであと30分・・・

先生が言うことはわかっていた。

「一回目は、わざと失敗。」

もちろん一回目は失敗だった。そして二回目。俺の前に衝撃が走った。なんと俺の前のヤツが175cmを飛べなかった。つまり、決勝にはいけない。俺が失敗したらA組からは一人も決勝に行くことができなくなる。

でも大丈夫。俺は飛べる!そう思ってないとプレッシャーで押しつぶされそうだった。


会場が一つにまとまり、大きな手拍子が俺を迎える。さっき飛んでから11分。最悪だ。三回目のスクリューバックで、しかもまだ時間が経ってない。

大きく息を吸い、目を閉じる。音が聞こえなくなってきた。目の前には細いが存在感がとんでもなくデカイ、バー。決勝に行かなきゃ行けないんだ。飛べる。大丈夫だ!

思いっきりバーに突っ込むように走りだす。

正面から思いっきり踏み込み。

空中。なぜか腰は痛まなかった。半回転して、背面の状態に。

完璧だ!まただ。こんなに飛んでる気持になれるなんて。これがスクリューバックだ。

マットに沈む。

もちろん待っていたのは大歓声だった。ヤッタ・・・俺飛んだんだ!決勝にいけるんだ!

足が震えている。うまく立ち上がれない。イヤ、体調が悪いわけじゃない。ただ、震えるような、嬉しさ、達成感?言葉じゃ言えないような感覚だった。足がガクガクと震えている。




「これより、走り高跳びB組準決勝を始めます。」

俊樹・・・絶対来いよ。それと中田・・・お前は俺がぶっ倒す!こんなとこで負けたら許さねぇぞ!




そんな心配いらなかった。

「走り高跳び、決勝進出者は、A組より、日向 勇太君。B組 田中 俊樹君 中田 昇君。なおA組では、175cm以上の条件を満たしたのが日向君だけだったため、代表者一名になっております。決勝戦は3時00分からとなっております。」

スゲェよ。誰も邪魔がいない。本当に3人だけの闘いだ。絶対勝つ!俺は負けネェ・・・

「日向 お医者さんが来てくれたわよ」

ガチャ。

「日向君。腰のほうはどうだい?」

残ったのは4人。決勝に行けるのは2人。

次は173cm。俺の前のやつは失敗した。

「先生どうする?」

「やっていいわよ。でも絶対成功しなさい。」

「わかった。」


そして俺は踏み込み開始の位置へ。

絶対飛んでやる!大丈夫!飛べる!飛べる!

目を閉じ、集中。周りの音が聞こえなくなってきた。

全力でバーに向かって走る。

足首は曲げずに全力を上に飛ぶ力にささげる。

足が陸から離れた瞬間、腰を曲げて背面の状態へ。

体を反りマットに沈む・・・

完璧だ!やった!完璧に決まった!

大歓声が会場を包む。

初めてあんなにすごいジャンプをした。全てが完璧だった。

少し遠くを見ると俊樹が笑いながら親指を立てていた。

アイツが待ってくれてるんだ。行かなきゃいけないよな!絶対行かなきゃ!

俺の後は一人が失敗。

一回目失敗だった二人は二回目も失敗した。

なんとこの時点で残りは2人。次は175cm。

次さえ飛べば、決勝進出だ・・・。

午前9時

まずは準決勝の抽選からだ。二つのグループに分ける。その中で決勝にいけるのは2人だけ、しかも175cm以上という条件付きだ。抽選ではそのグループで何番目に飛ぶかも決まる。


「田中 俊樹君。」

最初に呼ばれたのは俊樹だ。

「Bグループ6番。」


その後も何人かが呼ばれた。そして

「中田 昇君」

「Bグループ2番」


俊樹と中田は同じグループか・・・。俺がもしBに入れば三人での決勝は、なしだ。

「日向 勇太君」

「Aグループ4番」


Aグループか、よかった・・・のかな?でも4番か・・・



午前11時 Aグループ予選開始。

最初は170cmから。いきなり高い壁だ。

俺の番まで2人失敗。成功者は一人だ。

「先生。どうする?」

「普通に飛んで。あなたなら飛べるわ。」


一日三回・・・決勝まで残しておきたい。こんなところで使うわけにはいかないんだ。

集中!大丈夫飛べる!

助走。なぜかわからない。でもすっごくいい感じがした。俺は今高飛びを楽しんでる。

踏み込み。なんだか俊樹と飛んでた頃を思い出す。

マットに沈んだ。バーは落ちてない。

成功だ!俺のあとの4人は3人が失敗。

二週目。俺より前にとんだ二人は失敗だった。俺より後にとんだ3人は一人が失敗。

残ったのは4人。早くも半分になった。

170cmを飛んでから16分。ギリギリで間に合った。

俺が飛ぶ前に成功したのは一人。もう一人は失敗。。俺が飛べば、脱落。失敗すれば171cmで勝負だ。でも俺は171cmを飛ぶことはできない。スクリューバックを出せるのはあと1回。しかも15分以上空けられないだろう。俺に次はない。ここで飛ばなきゃ。


集中!集中!集中!飛べる!飛べる!

全力でバーに向かって走っていく。踏み込み。決まった。あとは空中だ。腰をひね・・・腰に激痛が走った。

チクショウ・・・またかよ!またここでダメなのかよ!いっつもいっつもふざけんなよ!なんで俺だけ・・・・・・

・・・・・・決勝か・・・行ってみたかったな。俊樹と飛びたかった。中田を越したかった。・・・・・・これが最後の大会なんだよな・・・・・・もう終わっちゃうのかよ・・・・・・俊樹・・・まだだ。まだ飛べる!諦めんの早いだろ!飛べる!


ガシャン・・・・・・バーはしなって、1cmくらいはねただろうか?落ちるな!!絶対落ちるな!

「・・・・・・・・・・・ウォォォォォォ!」

会場はいままで見たこと無いほどの歓声をあげた。バーは、はねながらも残ったのだ。

やった。明日も飛べる。まだ残れるんだ!


「これよりEグループ予選大会を開始します。」


「俊樹!先行ってるぞォ!絶対こんなとこでコケんなよ!」

俊樹はこっちは向いて笑顔で右手を掲げた。




朝だ。今日はどんな日になるんだろう。俊樹も中田も生き残ってる。もしかしたら準決勝で3人で当たって誰かが散るかもしれない。イヤ、そんな事なくても、俺がまたミス連発して勝手に消えてくかもしれない。何が起こるかわからない。でも・・・今日という日を目指してずっと練習してきた。いろんな事があった。だから。だから思いっきり飛んでこよう。楽しんでこよう。今日がいままでの人生で一番楽しい日にしてやる。