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Bluemoon Style Blog-とてつもない日本

とてつもない日本 (新潮新書) [新書]
I
SBN-10: 410610217X
麻生太郎(著)



「はじめに」については、以下のページに掲載あり。

http://www.shinchosha.co.jp/wadainohon/610217/reading.html


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 平成十七(二〇〇五)年の暮れ、外務大臣としてインドを訪問する機会があった。首都ニューデリーに滞在中、できたばかりの地下鉄を視察したのだが、この時インドの方々からうかがった話が今でも忘れられない。
 この地下鉄視察が日程に組み込まれたのは、日本の政府開発援助(ODA)を使って建設されたものだからであった。私たちが訪ねた駅には日本とインドの大きな国旗が掲げられており、日本の援助で作られたということが大きな字で書いてあった。改札口にも大きな円グラフが表示され、「建設費の約七十パーセントが日本の援助である」と分かるように、青で色分けしてあった。その配慮に感激し、私は地下鉄公団の総裁に御礼の言葉を述べた。
 すると、逆にこんなふうな話をしながら、改めて感謝されたのである。

 ――自分は技術屋のトップだが、最初の現場説明の際、集合時間の八時少し前に行ったところ、日本から派遣された技術者はすでに全員作業服を着て並んでいた。我々インドの技術者は全員揃うのにそれから十分以上かかった。日本の技術者は誰一人文句も言わず、きちんと立っていた。自分が全員揃ったと報告すると、「八時集合ということは八時から作業ができるようにするのが当たり前だ」といわれた。
 悔しいので翌日七時四十五分に行ったら、日本人はもう全員揃っていた。以後このプロジェクトが終わるまで、日本人が常に言っていたのが「納期」という言葉だった。決められた工程通り終えられるよう、一日も遅れてはならないと徹底的に説明された。
 いつのまにか我々も「ノーキ」という言葉を使うようになった。これだけ大きなプロジェクトが予定より二か月半も早く完成した。もちろん、そんなことはインドで初めてのことだ。翌日からは、今度は運行担当の人がやってきた。彼らが手にしていたのはストップウォッチ。これで地下鉄を時間通りに運行するよう言われた。秒単位まで意識して運行するために、徹底して毎日訓練を受けた。その結果、現在インドの公共交通機関の中で、地下鉄だけが数分の誤差で運行されている。インドでは数時間遅れも日常茶飯事であり、数分の誤差で正確に動いているのは唯一この地下鉄だけである。これは凄いことだ。
 我々がこのプロジェクトを通じて日本から得たものは、資金援助や技術援助だけではない。むしろ最も影響を受けたのは、働くことについての価値観、労働の美徳だ。労働に関する自分たちの価値観が根底から覆された。日本の文化そのものが最大のプレゼントだった。今インドではこの地下鉄を「ベスト・アンバサダー(最高の大使)」と呼んでいる――。

 私はこの話にいたく感銘を受けた。
 地下鉄建設に携わった日本人技術者たちの仕事ぶりそのものが、優れた外交官の役割を果たしたのである。彼らはなにも、よそ行きのやり方をやって見せたわけではない。いつものように、日本で普通に行なっているスタイルで仕事をしたに過ぎない。しかしそれが、インドの人々には「価値観が覆るほどの衝撃」だったのだ。
 日本ではよく「カローシ(過労死)」を例に挙げて、日本人は働き過ぎだ、日本人の働き方は間違っているという人がいる。だがそれはあまりに自虐的で、自らを卑下し過ぎてはいないだろうか。「ノーキ」を守る勤勉さは、私たちが思っている以上に、素晴らしい美徳なのである。
 第三次小泉改造内閣、安倍内閣と続けて外務大臣を拝命し、一年半が過ぎた。この間、二十三か国を訪問し、国際会議や国内での会談を含めれば、のべ百か国以上の首脳とお目にかかったことになる。
 私は外務大臣をやらせていただいていることに心から感謝している。なぜなら、外務大臣として様々な国を訪ね、各国要人と話したことで、世界における日本の位置づけを改めて確認することができるからだ。どの国の人からも日本に対する期待がヒシヒシと伝わってくる。外相就任は、日本の実力を冷静な視点で再確認できたという意味で、貴重な経験になっているように思う。

 日本はまことに不思議な国である。
 敗戦後は一度も戦争をすることなく平和と安定を維持し、数十年に及ぶ努力の結果、世界史上でも希に見る経済的繁栄を実現した。
 にもかかわらず、新聞を開けば、やれ格差社会だ、少子化だ、教育崩壊だ……と大騒ぎ。テレビをつければ凄惨な殺人事件ばかりが報じられ、識者と称する人たちが「日本はなぜこんなにおかしくなったのか」などと語っている。新聞やテレビを見ていると、まるで明日にでも日本が滅びそうな気がしてくる。
 でも、ちょっと待っていただきたい。日本は本当にそんなに「駄目な国」なのだろうか。そんなにお先真っ暗なのだろうか。
 私は決してそうは思わない。むしろ、日本は諸外国と比べても経済的な水準は相当に高いし、国際的なプレゼンスも極めて大きい。日本人が考えている以上に、日本という国は諸外国から期待され評価されているし、実際に大きな底力を持っているのである。
 バブル崩壊以降、日本はもっとグローバル・スタンダードを導入すべし、などという議論が幅をきかせたけれども、私に言わせれば、むしろ「日本流」がグローバル・スタンダードになっている現実もあるのだ。トヨタ、ソニー、カラオケ、マンガ、ニンテンドー、Jポップ……。「ノーキ」や「カイゼン」が、世界の経済にどれだけ貢献しているか。インスタント・ラーメンやカップ麺が、どれだけの人を救ったか。
 日本は、マスコミが言うほどには、決して悪くない。いや、それどころか、まだまだ大いなる潜在力を秘めているのである。
 もちろん、目の前に課題がないわけではない。少子高齢化に伴い、人口構成が変わってゆくのは間違いないし、それに応じて政策を変えていかなければならないだろう。社会の活力を維持しながら、セーフティネットを構築することも不可欠だ。しかし、そもそも社会というのは常に変化するものなのであり、それに合わせて臨機応変に対策を講じていけばよいのである。目の前の変化に怯えて、いたずらに悲観ばかりしているのは、かえって国の舵取りを危うくさせるのではないだろうか。
 本書は、そんな思いから、私なりに「日本の底力」をもう一度、見つめ直してみようとしたものだ。ときには話が脇道にそれてしまったり、かなり乱暴な物言いになってしまったりしたところもある。しかし、これは「失言」や「放言」のたぐいではない。発想の転換のために、あるいは考えるヒントとして、あえて暴論、異論めいたことも述べさせていただいた。あまり眉間に皺を寄せずに、柔らかい頭で読んでいただけると有り難い。これからの日本を考える上で、本書が議論のきっかけになれば本望である。
 祖父・吉田茂は、私が幼い頃、よくこんなふうに語っていた。
「日本人のエネルギーはとてつもないものだ。日本はこれから必ずよくなる。日本はとてつもない国なのだ」――。
 私はいま、その言葉を思い出している。


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以下、メモ。


はじめに

バブル崩壊以降、日本はもっとグローバル・スタンダードを導入すべし、などという議論が幅をきかせたけれども、私に言わせれば、むしろ「日本流」がグローバル・スタンダードになっている現実もあるのだ。トヨタ、ソニー、カラオケ、マンガ、ニンテンドー、Jポップ……。「ノーキ」や「カイゼン」が、世界の経済にどれだけ貢献しているか。インスタント・ラーメンやカップ麺が、どれだけの人を救ったか。




アジアの実践的先駆者

ソート・リーダー(Thought Leader)」というビジネス用語は、主にアメリカで使われており、「先駆者」というような意味がある。また、マーケティングの世界では、他人に影響を与える先駆者的存在といった意味もあるらしい。


これをもう少し私流に言い換えるならば、人より先に難問にぶち当たらざるを得ない星回りにある者のことであり、そして、アジアにおけるソート・リーダーとは日本だ。

現代の国家がぶつかる問題に、単純な解決法は存在しない。日本とて、直面している数々の問題は、完全には解決できないことも多い。それでも解決しようとしてもがく姿自体が、ほかの人たちにとって教材となる。

「成功のみならず、むしろ失敗例を進んでさらけ出す」タイプの存在、国、それがソート・リーダーである



メモ:

この話と、東京大学の小宮山 宏前総長から伺った「課題先進国 日本」の話が重なるものがある。

日本は課題に直面し、それを解決していくことで、新しいマーケットや次世代に向けた糧にしてきているという歴史がある。



日本の底力

2003年8月、歌手の椎名林檎さんがアメリカの有名な週刊誌「TIME」アジア版の表紙を飾った。彼女は、横文字よりも漢字を多用した独特の歌詞で人気を博している。

この号の特集のタイトルが「JAPAN RULES OK!」。「日本流でいいとも!」ということだろうか。

記事には、「アメリカ人は日本がハードの国だと思っているけど、その考え方は捨てなくてはならない。日本の最大のパワーはソフトだ」と書いてあった。椎名林檎はまさに、日本が誇るソフトパワーだというのである。さらに記事はこう続く。

アジアの街でドナルドダックやミッキーマウスを見かけることは少ない。ポケットモンスターやドラえもんがあふれている。メイドインジャパンの海外でものすごく人気のあるアニメーションのキャラクターだ。そしてJapanese pop musicのことをJポップ、アニメーションをジャパニメーション、ファッションをJファッションと呼ぶ。このスリーJでアジアは完全に席巻されている

アメリカ人が誇りに思っていたディズニーのミッキーマウスやドナルドダックがアジアの隅に追いやられ、ポケモンやドラえもんなどのメイドインジャパンのアニメキャラクタがこれに取って代わった。ポケモンやドラえもんが、アジアの子供たちの心をつかんで離さない。ポケモンは言葉を話さないが、それでもなぜだか心が通じ合う。これは、会話無でもコミュニケーションが取れる日本文化の特徴だ。言葉をもってすべて説得していくというアングロサクソン的手法ではなく、話をしないでお互いが分かりあってしまうのだからすごい

こうほめられると悪い気はしないが、記事にはこういう指摘もある。

「日本のサブカルチャーの持っている力を、日本人自身は全く理解していない」


3J、つまり「ジャパニメーション」「Jポップ」「Jファッション」がアメリカのサブカルチャーに取って代わるようなことがもしあれば、どれくらいとてつもないことになるだろうか。それを考えれば、マンガをそうそう軽視できないだろう。

たとえば、サッカーのワールドカップで活躍したフランスのジダンやイタリアのトッティがインタビューで、「あなたは何をきっかけにサッカーを始めましたか?」と聞かれて、二人とも同じことを言っている。

「きっかけは『キャプテン翼』だ」


メモ:

日本が目指すグローバル化は、単純に英語化でもなければ、海外と共通のルールに縛られる世界でも無い。

日本人が日本人であるが故に持っている特性を活かすことが、グローバル企業における日本が果たすべき役割であり、貢献の仕方でもあると考える。

英語が不要だとか共通のルールを設けなくて良い。という話ではなく、日本人が不得手とするものは他の得てする人種や国にお任せして、自分たちの特徴を活き活きと伸ばすことが、グローバル企業を1つのプロジェクトとして見たときの役割ではないか。というのが(英語とかルールが苦手な)私が見出したい生き残り方であり、会社へ貢献する方法である。

いうなれば「ジャパンプレミアム」であるその特徴とは、日本人どうしだから分かち合える価値観や、信頼関係、日本人ならではの高いサービス精神、日本人価値観から生まれるカルチャーのことであり、場合によっては、カイゼンやノーキ、3Jのように輸出も可能な価値観やサービス。

身の回りの仕事で言えば、きめ細かい商品企画や、合理性、省力化、こだわりの品質意識、現場に立ち入るチームマネジメント等である。

これに対してはお金もかかるし、スピードも犠牲にしているように見える側面があるため、一般にグローバルを推し進める人たちから見れば、否定的なものかも知れないが、残念ながら、それが日本人の価値であることからも目をそらしてはいけないのではないか



「格差感」に騙されていないか

お金も無いのに無理してお嬢様学校に行くことが、娘にとって幸せか、料理人として一流になりたいという夢を無視し、テストの成績がいいという理由だけで医学部を受けさせることが子どもにとって幸せか。子どもの将来を考えると心配なのはわかるが、大学に行くだけで幸せが約束されるわけでは無いということは、子どもにとって教えなければいけないと思う。



新たなアジア主義 - 麻生ドクトリン

2006年、イギリス公共放送BBCが、米メリーランド大学と共同で、世界33か国4万人にアンケート調査を行った。このとき、「今、世界に最も良い影響を与えている国はどこですか?」という問いに対して、日本の名を挙げた人が最も多かった。

参加33か国中、31か国で「良い影響を与えている」と答えた人が多いという結果になったのだ。ちなみに「悪い影響を与えている」と答えた人の方が多かったのは、中国と韓国だけだった。



三澤あずみさん、関根澄子さん、柴田紀子さんという3人の女性検察官がカンボジアに出向したのは、2003年のことだった。彼女たちはみな、法務省の「法務総合研究所」所属である。

カンボジアでは、クメール・ルージュ政権の幹部を裁く公判が続いていた。

<中略>

カンボジアでは刑事法だけではなく、民法や民事訴訟法も整える必要があった。そのために裁判官や弁護士を育てる学校もできた。3人の日本人女性は、その学校で教える先生方を、さらにコーチするプロとして働いてきたのである。


私たちのカンボジア法整備支援:

http://www.moj.go.jp/housouken/houso_cambodia_c-01.html


「自由と繁栄の弧」をつくる:

http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/enzetsu/18/easo_1130.html