あれは、いつ頃だったかしら?


日活撮影所の敷地内でナイター撮影していて

あの日は雨が降っていました。

撮影の合間、休憩するのにカメラマンの控え室の

入口で椅子に腰掛け、遠くの撮影を眺めていたとき

部屋の奥には、デビュー作でお世話になった

カメラのチーフがいて声をかけてくれました。


そこは寒いでしょ。中でコーヒーでも飲みませんか?


私は微笑みながら

ありがとうございます。

でも、ここでいいの。

風が気持ちいいから。


原さんは変わりませんね。

日活に初めて来たときから、ずっと一匹狼だ。


えっ?


組織や権力に対して、いつだって臆せずに主張する。

原さんは強い人だ。


私は微笑みで返しました。


女優原悦子として、私は私らしく生きてるだけです。

そう心の中で、つぶやいていました。



助監督さんが呼びにきました。


ありがとうございました。

何秒もの間、深々とお辞儀をした私に

チーフは少し戸惑っていました。


これまでの感謝の気持ちと

最後の別れの挨拶でしたから。