あの日以来、理佐に電話が繋がることはなかった。
繋がるどころか使われていないというアナウンスが流れて、唯一の繋がりすら途絶えてしまったことを思い知らされた。
繋がらないなら直接会いに行こう。
と思ったけど同じ長崎県というだけで理佐がどこに住んでいるのか知らない。
「私って理佐のこと何も知らないんだ。」
あの時は理佐と話せることが嬉しくて楽しくて理佐がどこにいようと関係なかった。
でもこうして繋がりが無くなった今は、理佐の事をもっと知りたいって強く思う。
「理佐はなんて言おうとしてたんだろう...」
あの思いつめたような声を思い出すたびに胸のざわつきが蘇る。
どうしてこんなにも理佐の事を考えてしまうのだろう。考えても考えても答えなんて見つからなくて、すがるように繋がらない番号にかけてしまう。
意味がないって分かっているのに、もしかしたらって考えてしまう。
もうこんなことはやめないといけないって分かってる...
番号を消去すれば全て終わるってことも。
どんなに縋っていたとしてもこれはもう理佐じゃないんだ。
だから私は消去ボタンを押した。
◇◆◇
それからはスマホにない番号に何回も涙が出た。
分かっているのに、受け入れたはずなのに心は激しく抵抗していたんだ。
それから1年が経ち涙は出なくなったけど心は寂しいままだった。
そんな日常でもなんとかやっていた時、
~0*0-★*#◇-0904~
知らない番号から電話がかかって来た。
その番号の下四桁は私の誕生日だったから「あ、私の誕生日だ」なんて呑気なことを考えて、いつもなら出ないけどなんとなく出てしまった。
「はい」
「...」
出てみたはいいけど相手からの返事はなくて、間違い電話かなと思って切ろうとしたら
「あの、迷ったんだけど...」
いきなり言うことではない言葉が返ってきて普通なら不審に思って切るだろうけど、私は知っている。
この声もやり取りも、心に閉じ込めて思い出にしようとした記憶。
「...どこに行きたいの?」
震えそうになる声を抑えながら、それでも視界がぼやけていくのは抑えられない。
「分かるかな...?欅病院の近くのケーキ屋さん」
「あのケーキ屋さん今日は休みだよ。」
「そうなんだ、じゃあもう1つあるんだ。
...長濱ねるのところ」
それを聞いた瞬間、必死で堪えていたものが抑え切れず溢れ出した。
「分からなかったら大丈夫、私は欅病院の前にいる」
そう言って切れた電話は通話終了を知らせる音が鳴り続いている。
もうすでに陽は沈み始めているけど、私は急いで欅病院に向かった。
「はぁ、はぁ、」
家からずっと走ってきたから胸が苦しい。
でもこの苦しさは走ったからだけじゃないんだ。
忘れようとして苦しんで、でも心がずっと求めていた苦しさは嬉しさと隣り合わせなんだ。
沈みかけている陽は辺りを薄っすらとしか照らしてくれず、病院の前にいる人の表情は伺えないけど私を見つめている。
でもあの人が理佐だってすぐに分かった。
「やっと繋がった...」
「待っててくれてありがとう」
そう言って笑った彼女の声は電話越しで聞いたものと同じだったから。