小津映画で好きなものは沢山あるが、その中で上位に位置するのが麦秋(51年)なのだ。

いわゆる紀子三部作(晩春、麦秋、東京物語)はブルーレイで買い直すほどそれぞれ思い入れのある作品だが、

その中でとりわけ麦秋は家族の在りようが理想的で、何かと虚無的になりがちな心を癒す妙薬の働きをする。

原節子演じる紀子を中心に据え、父(菅井一郎)、母(東山千栄子)を脇侍に、兄(笠智衆)、兄嫁(三宅邦子)

、そして二人の子供が円環を構成し放射状に親戚友人らが配されていて、それが無理なく調和を保ちながら埋没

せず存在しているこの世界の尊さよ。昔はそれぞれの人物がしっかり描かれていて、”この世界に確かに存在する”

という説得力を持った映画がゴロゴロしていたが、今の映画は総じて人の濃さが薄い気がしてならない。味付けは

濃いのに中身が薄いというか。だから観終わってもなんの感慨も残らない場合が多い。いかに上手くストーリーを

紡ぐのかも大事だがもっと”人を描く”ことに力を注いでほしいと思う今日この頃。と、つらつら連ねたところで

実はそんなのは関係なくて、自分がまだ小さいころ、ギリギリ存在したこの昭和世界に対する強い郷愁がこの映画

を特別なものにしてるんですなぁ。こういう家族観が今の若い人にどう映るのかわからないが現代にも通ずる価値

観が見出されるかも。

 

 

ちなみに麦秋は秋ではなく初夏のこと(麦の実りが初夏だから)。

だから英題では”アーリーサマー”となってる。