綾は泣きはらした目で…奥さんを探しに、部屋を飛び出していった。


部屋に残った僕は…中島さんに事情を聞いた…


僕らが部屋を出た後、二人…口論になったと言う…


奥さんもやはり、この世界でしか生きて行く事の出来ない中島さんに嫌気がさしていたのだと言う…


それを聞いた中島さんは…「出ていけ」っと一言告げ…奥さんのバックを表に投げつたそうだ…


もう、お互いの感情線は…切れかかっていたのだと思う…


でも、今の僕には、中島さんに気の利いた言葉を掛ける余裕も無く…


かと言って、何か良い案でも出せるわけも無く…只、押し黙っていた…


すると…中島さんから…


「なぁ~渡辺よ…お前らも、もうここを出ろや…愛媛におってもええ事にはならんわ…


お前ら…広島でも岡山でも大阪でも好きなとこへ行けや…わしの事は気にせんでええから…


わしは松山でもう少し頑張ってみるわ…」 …っと。


「は・はい…」 とっさ出た返事…否定する事も無く出てしまった…


中島さんの真意は判らないが…もしかしたら中島さんの心の何処かに引き止めてほしい…


っと言う気持ちがあったのではないかと…返事をした後で思いはじめ…僕は申し訳なさを感じながら…


奥さんと綾を探しに行く…っと言う口実で部屋を飛び出した…


辺りはすっかり暮れかかっている愛媛の街並みを、呆然と見詰めながらあても無く歩いた…


奥さんは港にいる事くらいは判っている…松山から広島の三原港へ行くフェリーで帰るだろう…


でも僕はあえて港には行かなかった…


もう…一度、切れた糸は繋ぎ止める事など出来ない…


例え、今、この場で繕いでも…必ずいつか解ける…


中島さんを見続けた…この日々で…僕は確信していた…


それなら…新しい自分を探す為に…お互い一人になるのが、二人の為だと思っていた…


一人になって…自分自身を見つめ…周りを見つめ…新し自分を探す事が出来た時、またお互い巡り


合い…お互いが求め合うなら…そこから始めればいい…また一から始めれば…


だけど今の彼らにはゴールテープは見えていても…スタートラインは無い…


僕は…そう自分に言い聞かせていた…それはもしかしたら…綾との事も…そう言い聞かせていたのかも


しれない…


人の縁はすぐに切れてしまう…


そんな細くて弱い糸だから…人はそれを大事に・大事にしていくんだと思う…


大切に出来なかったり…思いやる心や…気遣いが出来なければ…音も無く切れてしまうのだと…


そして一度、切れたその糸を…再び繋げるには…今まで以上に心血を注がなければいけないと思う…


僕はその時、初めて人の縁の深さを知った…


僕は綾に電話し…帰って来る様に伝えた…


そして…僕と綾は…二人だけで深夜の国道を東に向け走っていた…


4人乗りこんで…夢を抱え…希望を見つめ…旅立った僕の車には…綾と僕の二人だけが…


交わす言葉も無く…只、お互い前を見つめているだけだった…


一夜明けて…早速、近所の本屋に行き…求人誌をかき集めた…


一人、1冊づつみて…目星を付け…お互いにどうのこうのと議論を交わした


僕と綾…それに中島さんの奥さんは、年齢的な問題は無く…応募資格が適用されるが…


しかし中島さんは年齢的に…非常に厳しい状況だった…


彼は一軒一軒…電話をかけていたが…年齢の事で…悉く断られていた…


僕も求人誌を見てはいたが…この土地で生きて行こうなんて思ってなかった…


ただ…中島さんの生きて行く術が…見つかれば…それでいいと思っていた…


…が!結局、どこにも面接すらしてくれるお店は無かった…


僕らに…無駄に沈黙の時間が流れた…


昼食を取り…これからどうするかを話し合う訳でも無く…お互い押し黙ったまま部屋にいた…


すると…突然、綾の携帯が鳴った…


綾は慌てて携帯をバックから取りだし…電話に出た…


相手は大阪のパチンコ屋にいた時、アルバイトをしていた佐々木恵子さんだった…


彼女は大阪の服飾系の専門学校を卒業した後…広島の両親が経営しているショップで働いていた…


綾は10分程度、彼女と電話で話していた…


電話を切った後…綾に要件を聞いてみると…


僕ら4人の心配と…今、広島本通りのショップで働いているので…暇があったら遊びに来て…との事!


その直後、綾がいきなり…「甘いものが食べたくなったけぇ~何か買ってくるわぁ~」っと言った…


綾は中島さん夫妻に、何かほしいものが無いか聞いて…僕を連れて…買い物に出た…


「どうしたん?急に?別に今すぐ…そんなもの買いに行かんでも…」


っと、僕は綾に聞いた…


「真ちゃん…佐々木さんが…もし仕事が決まって無いんやったら…広島に帰って来たら?って言うとん


よ…広島じゃったら真ちゃんも、うちも住み慣れた街やし…仕事も此処よりはあると思うし…


二人で帰っておいでって…言うとんよ…」


「二人だけか?中島さんはどうするんよ…もし、そうするにしても中島さんに、どう言うんよ…」


「わからん…でもこのままでもいけんじゃろう?それに…うち…もうパチンコ屋さんで働きとうないんよ…


体調も良くないのわかっとるし…真ちゃんにも普通の仕事してほしんよ…中島さん、悪い人じゃないの


はわかっとるけど…うちらこのまま、あの人とおったら…ダメになるよ…うちら絶対、ダメになる…」


「なんねぇ~ダメになるって…中島さんと一緒におると…俺らが別れるとでも言うんか?」


「違うよ…違う!そうじゃなくて…ズルズルとダメな人生を送ってしまいそうで…怖いんよ…


中島のお父さん…もう出られんのよ…ぬるいお風呂に入ってしもうとんよ…仕事なんか何でもあるが…


別にパチンコ屋さんじゃなくても…でも中島さん、もうこの世界じゃないと生きていけん人になっとんよ…


家を貸してくれて…食事も出してくれて…きっちり8時間だけ働いたら、お給料くれて…


それで嫌なら…辞めて次のパチンコ屋さんを探して転々として…


もうそんな世界でしか生きられん人になっとんよ…うちは真ちゃんにそんな人になってもらいとうない…


うちらそんな人生送りとうないんよ…」


僕は綾の言った言葉に何も返す事が出来なかった…


それは僕も同じ事を想っていたから…解っていたから…


僕は愛媛に来た時に、心に決めていた事を綾に話した…


岡山に帰る事を…


「俺な…岡山に帰ろうか思っとるんよ…俺の生みの母親の実家が、広島との県境に近い場所にあって


な…小さな町じゃけど…今は母屋には母親一人しかおらんけぇ~ 暫くの間はそこにおる事が出来る


と思うんよ。そこで仕事を見つけて…家を見つけて…なぁ?どう思う?今やったらお金も少しだけやけど


残っとるし…何とかなると思うんやけど…」


「うち…嫌や…岡山に帰るのだけは嫌や…例えどんな小さな田舎町じゃろうと…岡山に帰りたくない…」


綾は頑なに岡山に変える事を拒んだ…


僕には…綾のその気持ちは十分すぎるほど…解っていた…


しかし…僕は…さらに綾を追い詰めるような言葉を投げつけた…


「それやったら…広島でどうする言うんよ…広島には、綾の親も兄弟もおるんで…もし見つかったら…


どうするんよ…俺と一緒にいるのが判ったらどうするんよ…差し詰め…住む家はどうするんよ…


住む家も無いのに…広島でどうする言うんよ…何かメドでもあるんなら話は別やけど…」


「ある…」


綾はポツリと言った…


「はぁ?あるって何?何があるん?綾…何か隠しとん?なぁ?」


僕は綾を問い詰めた…


綾は僕らが大阪を出てからも…広島にいる佐々木さんとはメールで話をしていた…


それは僕も知っての事だった…


そのメールでの会話の中で…広島で一緒に働こうと再三、言われていたようだった…


住まいの事など問題も多く…僕には相談できなかったようだが…


家が見つかるまでの間、佐々木さんが暮らしているアパートに取りあえず間借りさせてもらい…


生活をしていくと言う…佐々木さんは市内の実家にその間だけ帰っているので…自由に使って良いとの


事…それは佐々木さんの両親も了解している。それを条件に帰ってくれば?と話しを進めていたらし


い…


「何ねぇ~それ?俺の知らん所で…そんな話進めて…なんや広島に帰りたいんか…なぁ?


ハッキリ言えや…」 僕は怒鳴りつけるように…綾に言った…


「違うよ!帰りたいわけじゃないよ…佐々木さんも心配してくれて言うてくれよんよ…勝手に話進めとる


わけじゃ無いし…それに真ちゃんにこんな話ししても…聞いてくれんじゃろ?でも…もう今はそんな事言


っとる場合じゃないが…それやったらっと思って話ししただけじゃ…別に変な事は考えてないけぇ~」


僕は黙りこんだまま…綾の顔すら見なかった…


そのまま買い物袋をぶら下げて…旅館に帰った…


部屋に入ると…中島さんが一人、背中を向け…テレビを見ていた…


「お~遅かったやないけぇ~ なんや、ええ話でもしとったんか?」


中島さんが勘ぐっている様な口調で、僕らに問いかけた…


「いえ~ちょっと市内をプラプラしとって…松山に来ても市内を見て回って無いんで…つい…」


適当な言い訳をし、買い物袋をテーブルに置いた時…気が付いた…


奥さんのカバンが無い…


「中島さん…奥さんは?」


「あ~メグミかぁ・・・帰ったわ~福山に…」


「え!」


僕ら二人は…愕然とした…


奥さんは…荷物を持って…僕らの前から消えて行った…




僕らは気が付けば…九州に来てから半月近く、遊び回っていた。


パチンコ・競艇など日々、ギャンブルを繰り返すだけ…


阿部さんから頂いた、お金は少しづつだか…確実に減っていき、気が付けば中島さんの預貯金まで切り崩して、


遊ぶ毎日に変わっていた…


僕らにも若干、蓄えはあったものの、とても遊んで暮らせるほどの額では無い。


そして…お金に底が見え始めた頃から・・少しづつ、僕らの間柄にも…妙な違和感が生まれてきた…


中島さん夫妻は事ある毎に、口論が絶えなくなった…


僕と綾の間にも、会話が少しづつ無くなっていた…


それでも明日に繋げる生きて行く為のお金の工面するには…やはりギャンブルだった…


中島さんには、このままでは皆がこの九州で共倒れになる…っと何度も忠告したが…


阿部さんからの「欠員が出たらすぐに呼ぶから…」っと言う言葉を…期待していたのかも知れない…


年齢的にも後の無い中島さんにとって、阿部さんは最後の砦だったんだと思う…


自分の人生の終焉を、阿部さんや僕達と、この地で終えたいとでも思ったのだろう…


中島さんは何かに必死で…しがみついていた…しがみ付こうとしていた


僕は、必死にもがいている彼を…時には「哀れ」にさえ思った…


そして故郷を捨て、身内を捨て、年老いてしまった人の末路は、こんな風になるんだと…不安にさえ感じた…


そんなある日…中島さんがぽつりと言った…


「そや…此処からフェリーで松山に行かんか…そこで…仕事を探さんか?」…っと!


「何で松山なんよ…九州にも探せばあるやろうに…今更、何で愛媛に行かないけんのんよ…」


もう奥さんは、中島さんに見切りを付けていたのかもしれない…


中島さんには付いて行きたくない…っと言わんばかりの言葉を言い続けた…


それでも中島さんは…最後の頼みと言って…僕らに頭を下げ、こう言った…


「わしは正ちゃんを頼って、ずっと仕事して来たんや。この九州でも正ちゃんの店が、わしの最後の仕事場やっと


思ったけど…わしは必要ないんやと…必要とされてないんやとわかたんや…そやさかい、色んな夢見て暮ら


していこうと思った、この九州で働くのが辛いんや…それやったら渡辺や綾ぼーの事も考えると…わしらの事を


知らん街で働いた方が…わしらの為や思うて…なぁ頼む!松山に行こうや…頼む!…」


僕ら3人は中島さんの言葉に何一つ返す訳でもなく、松山に行く事を決めた…


僕らは翌朝…小倉(浅野)港から松山観光港まで、7時間近くかるフェリーに乗って松山に入った…


松山に着いた時には、早、日が暮れようとしていた…


松山に着くなり…すぐに観光案内に行き、市内で一番安い旅館を紹介してもらい、そこへ向かった…


車で走る事、数十分…旅館らしき建物が無い…


僕は観光案内で聞いた旅館に「場所がわからない」と…電話をした…


すると主人らしき男性が、お店の前に出て待っているからという…バックミラーや前を見て…男性らしき人を探し


た…するとバックミラーに一人の男性が見えた…


僕は車を降りてその人にかけ寄った…


「あの~○○旅館さんですか?」


「あ~おたく?電話して来たの?」


「はい!観光案内で紹介されたものです!」


「うちはここ!」っとその男性は指をさした…僕はその指の先に目をやった



そこは見た目には、普通の民家と変わらない…旅館ぽくない佇まいの建物だった…


玄関の横に小さく旅館名が記してあった…


車を指定された所に停め…僕らは中に入った…


中に入ったとたん、入口に置いていた古びた応接セットに座っていた、高校生らしき子供が怪訝そうな顔をして


奥の部屋に行った…


中島さんが…小声で「何や…ここ!普通の家やんか…これで金とるんか…」っと…


僕らは宿泊の手続きをして、部屋に案内してもらった…部屋に入った僕らは愕然とした…


それは客室とは到底言えない…その家族が生活している中で、使用していないであろう開き部屋に近かった…


夕食も家の台所に面した部屋…


出された料理も…普通の夕食に…スーパーかどこかで買ったお刺身が申し訳ない程度で添えられているだ


け…お風呂は普通の家風呂だった…


僕ら4人は夕食を済ませ…一部屋に4人分の布団を敷いている部屋に戻り…黙り込んだままだった…


仕事も住む所も、見つからなければ…当分、ここに居なければならない…


お互いのプライバシーも何も無いこの部屋での暮らしなど…考えられなかった…


そんな事を考えている時、中島さんの奥さんが…泣きながら言った…


「明日・明後日の内に結果が出んかったら…私は福山に一人ででも帰るけぇ~もうこんな生活は嫌じゃけぇ~」


中島さんは必死で、奥さんを宥め諭していた…


僕はその時…綾を連れて…岡山に帰る決意をしていた…


もう…どこにもいく所などないと思っていた…











ドン・ドン・ドン…部屋のドアを叩く音で、僕らは目を覚ました…


枕元の携帯に目をやった…時刻は朝の7時過ぎ…


僕は慌ててドアに向かった…


「はい!どちらさまでしょう?」


「お~おはようさん…起きとるか?」…中島さんだ…


僕は、何だろうと思いながら、施錠を解いた…


「どうしたんですか…こんな朝早くに…」


「お~朝飯食いに行こうや…それで…そのまま出かけるから…」


「はぁ~ どこへ行くんです?」


「まぁ~ええから…支度せいや…」


僕ら二人急かされる様に…着替えを済ませ…部屋を出た…


隣の中島さんの部屋をノックすると…飛んで来るように中島さんが出てきた…


「よっしゃ~行くで…」


朝から凄いテンションで何処かに行く気満々だった…


僕はコッソリ奥さんに聞いてみた…


「こんな朝から何処へ行くんですか?」


「もう、うちのおとっちゃん…九州でパチンコで打ちたいって、朝早うから起きて張り切っとんよ…」


僕は、また朝から落胆した…


九州まで来たのに…仕事にもあり付けず、明日をも知れぬ状況なのに…パチンコなんて…


「まぁ~あの人も昨夜、だいぶ反省しとったみたいじゃけん…今日、一日は我慢してやって…」


奥さんは申し訳なさそうに…頭を下げた…


「お~い メグミ…渡辺…何しとんじゃ~早よぉ~来んかい~」


僕らは宿泊施設で朝食を取り…小倉駅辺りのパチンコ屋を物色した…


時刻はまだ9時前…


中島さんは…何の根拠も無く、とある店に目星を付けて…ここで遊戯をしようと言った…


店の状況も昨日のデーターも全く分からないのに…何で此処何だろう…勝てるわけ無いのに…


っと思いながら…お店が開くまで…僕らはシャッターの前で待った…


綾と僕は大阪にいた時も、パチンコ屋に勤めはしても…遊戯をする事は無かった…


もちろん興味が無いわけではない…パチンコ屋に勤めをしていると…不思議と自分たちも他店では、


勝つのではないかと言う錯覚に陥る…


店員は勝っている客しか見ない…


決して、負けた客のフトコロ事情などは目にしない…


いつも出玉交換の際の客ばかり…


言わば…使った金額は別にして…換金する姿しか見ていないのだから…


だから…皆、勝っているっと言う感覚に陥る…


僕らがパチンコに手を出さなかったのは…僕自身が、金融屋で働いていた際、見てきた多くの、人生の


北者のプロセスを知っているから…


消費者金融に金を借りに来る人たちの大半が、ギャンブルをする…競馬・競輪・競艇…


そして…パチンコ。


中でもこのパチンコは、とても身近な公のギャンブル場…


借金にまみれ…最後には、破産や債務整理・弁護士介入など…自分自信で解決出来ない様になった


人たちの大半が…パチンコを始とするギャンブルに手を出している人が多い…


弁護士からの書類に目を通し…その人の色々な人生の経緯は顧慮するものの…最終的にはギャンブ


ルが関わっている…それを目にし…時には…借金が原因で…命を落とす人も見てきた…


だから綾にも…僕らの約束事として…そう言った物には、一切、手を出さないと決めていた…


中島さんは…阿部さんから頂いた、お金の中から…各自に2万円づつ渡した…


「皆が無くなった時点で止めようや…なぁ~それで…この金はわしが持っとったら怖いさかい…


渡辺の母ちゃんに渡しとくわぁ~」っと言って…中島さんは綾に封筒を預けた…


僕らはシャッターの開いた店内に…他の客と一緒になだれ込むように入って行った…


その夜…僕らは小倉駅前の焼き肉屋にいた…


各自に渡した軍資金の合計をはるかに超える換金をしたのだった…


4人が4人とも勝ったわけではないが…皆、それぞれ嫌な思いをする事無く…遊戯をした…


僕も綾も決して手を出さないと言いていたギャンブルに対しての罪悪感など…その夜は無かった…


特に綾は…驚くほど換金をした事を、思いのほか喜び…中島さんのパチンコ談議に嬉しそうに耳を傾け


ていた…


もちろん僕も…嫌な思いをしたわけでは無い…むしろ他の人より今日の結果が劣っていた事が…


悔しいとさえ感じていた…


僕も綾も…たった一日で…ギャンブルの魔法にかかってしまった…


…この日…僕ら4人は…「堕落」と言う…開けてはならない扉のドアを叩いたのだった…






第3章(さよならは言わない) 77話へ

翌日、下関から関門トンネルを抜けて…北九州に入った…


レトロな佇まいの門司の駅の前で、車を停め…中島さんがここで、店長の阿部さんに電話をするという…


「あ~もしもし…正ちゃん…今、門司に着いたんですわ…どないしましょ!…はい…はい・・・」


何やら嫌な予感がした…


僕らの行き先が決まっているのなら…別にこんな場所で連絡を取らなくても…


直接、職場となるパチンコ店に行けばいい事…・


なのになぜ?今ここで電話なんだろう…


電話を話し終えた中島さんが言った言葉に…車内は騒然となった…


「今…正ちゃんは勤務中やさかい…どっか近くで、宿探しでもしといてくれ…言うとるわ~」


その言葉に…奥さんが…「ちょっとなんねぇ~うちら此処へ仕事しに来とんじゃないん?旅行じゃあないんよ…


何で、ここで宿探しせんといけんのんよ…仕事の話はどうなっとん?」


僕も中島さんの奥さんの言う通り…納得が出来ない…


僕は九州に来たら…すぐに仕事と住まいは手に入ると思っていた…


なのに宿探し…


僕は中島さんを問い詰めた…


実は…大阪にいる時の話では、九州のお店に勤めをすると言う話しでまとまっていたのだが…


阿部さんが九州に帰って…実際、現場を指揮してみれば…思いの他、自分の思うようには行かないみたいだっ


た…


現在のお店は…社員・アルバイトを含め…もう定員OVER…


仮に勤めさせても、4人分、2世帯の住居すらすぐに確保は出来ないと言う…


もちろん、人員整理も出来ないわけではないみたいだか…阿部さんのお父さん、いわば先代の会長のお気に入


りの社員ばかりが残っている…阿部さんには…今はその人たちを切る事が出来ないみたいだった…


その話は…僕ら二人が大阪を出たすぐ後に…耳にしていたらしい…


それを中島さんは、今日まで隠していた…


中島さんは車の中で…しきりに「会えば何とかなる…九州におれば何とかなる…」っとずっと言っていた…


僕には、それはまるで…中島さん自身が、自分に言い聞かせている様に見えた…


その日の夜…僕ら4人は阿部さんと…食事をした…


そこで中島さんは必死に、何とかならないかと懇願していたが…結局、今は無理との回答!


欠員が出たらすぐに呼ぶ…と言う。


結局、僕らは九州に遊びに来たのと同じだった…


その夜…宿泊施設のある、小倉のスパに宿をとった僕ら…


申し訳ないと思ったのか…阿部さんが…封筒に入れたお金を渡してくれた…


中には…30万ほど入っていた…


「これで九州でも観光してや…」っというお金だった…


そのお金を手にして…中島さんが…


「まぁ!しゃ~ない そういう時もあるわなぁ~ まぁこれで九州観光しようや…」っと言った…


そこへ中島さんの奥さんが泣きながら…大声で叫んだ…


「ええ加減な事言いなさんな…私はええよ…あんたに騙されても…でもこの二人はどうするん?あんたを信じて


ここまで来たんじゃが…今更、無理でしたじゃ済まんがぁ~ 私は二人に申し訳ないわぁ~ どうするんよ…これ


から…」…その内、二人は言い争いになった…


僕らはそっと中島さんの部屋を出て…自分たちの部屋に帰った…


国道3号線に面した…施設の窓から…二人…黙って外を見ていた…



言い表せない不安の中…窓から見る九州の星は、とても綺麗に見えた…





第3章(さよならは言わない) 76話へ