一夜明けて…早速、近所の本屋に行き…求人誌をかき集めた…
一人、1冊づつみて…目星を付け…お互いにどうのこうのと議論を交わした…
僕と綾…それに中島さんの奥さんは、年齢的な問題は無く…応募資格が適用されるが…
しかし中島さんは年齢的に…非常に厳しい状況だった…
彼は一軒一軒…電話をかけていたが…年齢の事で…悉く断られていた…
僕も求人誌を見てはいたが…この土地で生きて行こうなんて思ってなかった…
ただ…中島さんの生きて行く術が…見つかれば…それでいいと思っていた…
…が!結局、どこにも面接すらしてくれるお店は無かった…
僕らに…無駄に沈黙の時間が流れた…
昼食を取り…これからどうするかを話し合う訳でも無く…お互い押し黙ったまま部屋にいた…
すると…突然、綾の携帯が鳴った…
綾は慌てて携帯をバックから取りだし…電話に出た…
相手は大阪のパチンコ屋にいた時、アルバイトをしていた佐々木恵子さんだった…
彼女は大阪の服飾系の専門学校を卒業した後…広島の両親が経営しているショップで働いていた…
綾は10分程度、彼女と電話で話していた…
電話を切った後…綾に要件を聞いてみると…
僕ら4人の心配と…今、広島本通りのショップで働いているので…暇があったら遊びに来て…との事!
その直後、綾がいきなり…「甘いものが食べたくなったけぇ~何か買ってくるわぁ~」っと言った…
綾は中島さん夫妻に、何かほしいものが無いか聞いて…僕を連れて…買い物に出た…
「どうしたん?急に?別に今すぐ…そんなもの買いに行かんでも…」
っと、僕は綾に聞いた…
「真ちゃん…佐々木さんが…もし仕事が決まって無いんやったら…広島に帰って来たら?って言うとん
よ…広島じゃったら真ちゃんも、うちも住み慣れた街やし…仕事も此処よりはあると思うし…
二人で帰っておいでって…言うとんよ…」
「二人だけか?中島さんはどうするんよ…もし、そうするにしても中島さんに、どう言うんよ…」
「わからん…でもこのままでもいけんじゃろう?それに…うち…もうパチンコ屋さんで働きとうないんよ…
体調も良くないのわかっとるし…真ちゃんにも普通の仕事してほしんよ…中島さん、悪い人じゃないの
はわかっとるけど…うちらこのまま、あの人とおったら…ダメになるよ…うちら絶対、ダメになる…」
「なんねぇ~ダメになるって…中島さんと一緒におると…俺らが別れるとでも言うんか?」
「違うよ…違う!そうじゃなくて…ズルズルとダメな人生を送ってしまいそうで…怖いんよ…
中島のお父さん…もう出られんのよ…ぬるいお風呂に入ってしもうとんよ…仕事なんか何でもあるが…
別にパチンコ屋さんじゃなくても…でも中島さん、もうこの世界じゃないと生きていけん人になっとんよ…
家を貸してくれて…食事も出してくれて…きっちり8時間だけ働いたら、お給料くれて…
それで嫌なら…辞めて次のパチンコ屋さんを探して転々として…
もうそんな世界でしか生きられん人になっとんよ…うちは真ちゃんにそんな人になってもらいとうない…
うちらそんな人生送りとうないんよ…」
僕は綾の言った言葉に何も返す事が出来なかった…
それは僕も同じ事を想っていたから…解っていたから…
僕は愛媛に来た時に、心に決めていた事を綾に話した…
岡山に帰る事を…
「俺な…岡山に帰ろうか思っとるんよ…俺の生みの母親の実家が、広島との県境に近い場所にあって
な…小さな町じゃけど…今は母屋には母親一人しかおらんけぇ~ 暫くの間はそこにおる事が出来る
と思うんよ。そこで仕事を見つけて…家を見つけて…なぁ?どう思う?今やったらお金も少しだけやけど
残っとるし…何とかなると思うんやけど…」
「うち…嫌や…岡山に帰るのだけは嫌や…例えどんな小さな田舎町じゃろうと…岡山に帰りたくない…」
綾は頑なに岡山に変える事を拒んだ…
僕には…綾のその気持ちは十分すぎるほど…解っていた…
しかし…僕は…さらに綾を追い詰めるような言葉を投げつけた…
「それやったら…広島でどうする言うんよ…広島には、綾の親も兄弟もおるんで…もし見つかったら…
どうするんよ…俺と一緒にいるのが判ったらどうするんよ…差し詰め…住む家はどうするんよ…
住む家も無いのに…広島でどうする言うんよ…何かメドでもあるんなら話は別やけど…」
「ある…」
綾はポツリと言った…
「はぁ?あるって何?何があるん?綾…何か隠しとん?なぁ?」
僕は綾を問い詰めた…
綾は僕らが大阪を出てからも…広島にいる佐々木さんとはメールで話をしていた…
それは僕も知っての事だった…
そのメールでの会話の中で…広島で一緒に働こうと再三、言われていたようだった…
住まいの事など問題も多く…僕には相談できなかったようだが…
家が見つかるまでの間、佐々木さんが暮らしているアパートに取りあえず間借りさせてもらい…
生活をしていくと言う…佐々木さんは市内の実家にその間だけ帰っているので…自由に使って良いとの
事…それは佐々木さんの両親も了解している。それを条件に帰ってくれば?と話しを進めていたらし
い…
「何ねぇ~それ?俺の知らん所で…そんな話進めて…なんや広島に帰りたいんか…なぁ?
ハッキリ言えや…」 僕は怒鳴りつけるように…綾に言った…
「違うよ!帰りたいわけじゃないよ…佐々木さんも心配してくれて言うてくれよんよ…勝手に話進めとる
わけじゃ無いし…それに真ちゃんにこんな話ししても…聞いてくれんじゃろ?でも…もう今はそんな事言
っとる場合じゃないが…それやったらっと思って話ししただけじゃ…別に変な事は考えてないけぇ~」
僕は黙りこんだまま…綾の顔すら見なかった…
そのまま買い物袋をぶら下げて…旅館に帰った…
部屋に入ると…中島さんが一人、背中を向け…テレビを見ていた…
「お~遅かったやないけぇ~ なんや、ええ話でもしとったんか?」
中島さんが勘ぐっている様な口調で、僕らに問いかけた…
「いえ~ちょっと市内をプラプラしとって…松山に来ても市内を見て回って無いんで…つい…」
適当な言い訳をし、買い物袋をテーブルに置いた時…気が付いた…
奥さんのカバンが無い…
「中島さん…奥さんは?」
「あ~メグミかぁ・・・帰ったわ~福山に…」
「え!」
僕ら二人は…愕然とした…
奥さんは…荷物を持って…僕らの前から消えて行った…