昼下がり。
窓からそよぐ風にカーテンが揺れて、
優しい陽だまりがソファに差し込んでいた。

俺とねねは、そこで並んで座りながら、
ついついうとうとしてしまっていた。

「ふぁぁ……お昼寝って、しあわせだよねぇ〜……」

隣で、ねねが可愛いあくびを噛み殺す。
ふわふわの髪が揺れて、
甘いシャンプーの匂いがふわっと漂った。

俺は自然と目を閉じた。
静かな時間。
その心地よさに、意識がふわふわと溶けていく――



……と、思ったその時。

「……ねっこくん……ぎゅー……ぎゅーしたいの……」

寝ぼけた声で、ねねが俺にしがみついてきた。

(お、おい……!?)

小さな身体を、ぎゅっと俺に預けてくる。
さらに、シャツの裾をきゅっと掴みながら、
ぽつりと呟いた。

「……ねね、がんばってるのに……」

その声は、かすかに震えていて――。

「お仕事、いっぱいで……
 ダンスも、お歌も……
 うまくできないと、悔しくて……」

言葉と一緒に、俺の胸にぽつ、ぽつ、と涙が落ちた。

無意識のまま、必死に甘えながら、
ねねは、ぽろぽろと涙をこぼしていた。

「……ねね、へたっぴだよねぇ……」

拗ねたような、悲しい笑い声。
そのすべてが、
俺の胸を締めつけた。

俺は、ただ黙ってねねの背中に手を回す。

「……だいじょうぶだよ。」

耳元でそっと囁く。
ねねは、さらにぎゅっと俺に抱きついてきた。

俺のシャツは、ねねの涙でじんわり濡れていく。
それでも俺は、
「泣いていいよ、がんばったね」って、心の中で何度も何度も伝え続けた。

ふたりだけの、静かな、あたたかい世界。

そんな時間が、どれくらい流れただろうか。

ふと、ねねが小さくまばたきをした。

「……ん、んぅ……?」

寝ぼけた顔で俺を見上げたあと――
自分が俺に抱きついていることに気づいた瞬間。

「えぇぇぇぇ〜〜〜〜っっっ!!」

ねねは、顔を真っ赤にして飛び退こうとした。
でも俺は、そっと手を伸ばして、引き止めた。

「大丈夫だよ。無意識だったし。」

そう言うと、ねねは小さな声で、
シャツに滲んだ涙の跡を見つめながら、呟いた。

「……ねね、泣いちゃった……?」

俺は優しく頷いた。

ねねは、ぎゅっと膝を抱え込んで、
か細い声で言った。

「……泣いちゃって、ごめん……」

その震える声が、どこまでも愛おしくて。
俺は、そっとねねの肩に手を置いた。

「謝らなくていいよ。
 ねね、いっぱいがんばってるんだもん。」

ねねは、びっくりしたように目を見開く。
そして、さらに恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、うつむいた。

「……かっこわるい、って思われたらやだなぁ……」

「そんなこと思わないよ。」

俺は、即答した。

「すごく、可愛いって思った。」

言葉にしてしまったあと、
俺自身も顔が熱くなった。

ねねは――

「……えへへ……♡」

照れながら、でもすごく嬉しそうに笑った。

その笑顔を見たら、もう我慢できなくなって、
俺は、もう一度ねねをそっと抱きしめた。

今度は、ちゃんと目を開けたままのねねを。

ねねは、俺の胸に小さく身体を預けながら、
そっと手を伸ばしてきた。

小さな手が、俺の手を探して、絡める。

指先が触れた瞬間、
心臓が跳ねた。

「……ねねね……もうちょっとだけ……」

ねねは、顔を赤らめながら、かすかに囁いた。

「……そばにいてほしいの……」

俺は、しっかりとねねの手を握り返した。

「もちろん。どこにも行かないよ。」

答えると、ねねは嬉しそうに目を細めて、
また俺に小さく寄り添った。

陽だまりの中、
ふたりでそっと手を繋ぎながら、
時間だけが、ゆっくりと流れていく。

窓の外では、
夕陽が世界をやさしいオレンジ色に染め始めていた。

そろそろ帰る時間なのかもしれない。
でも、今だけは――
このぬくもりを、もう少しだけ感じていたかった。

「ねぇ、ねっこくん。」

「ん?」

「また明日も、そばにいてくれる?」

ねねは、恥ずかしそうに笑いながら、
でも、まっすぐに俺を見つめて聞いてきた。

俺は、何の迷いもなく頷いた。

「うん。明日も、その次も、ずっと一緒だよ。」

ねねは、嬉しそうににこっと笑った。

その笑顔は、
この世界でいちばん、俺の心を温める。

ふたりで繋いだ手は、
もう、絶対に離さないって決めた。

――陽だまりみたいな、あたたかい未来へ。
ふたりで、ゆっくり歩いていこう。

【Fin.】