もうひとつ片付いたことがある。
それは、ケンとの金銭問題だ。
月々の支払いは5月まで続く予定だったが、
少しずつ上乗せして前倒し返済され、3月末ですべて終了した。
彼にとって決して少なくない額だったはずだ。
トータル返済額が決まっても、月々の支払額では弁護士と彼は一万円の攻防をしていたほどなのだ。
それを一万、二万と上乗せして返済できた理由は分からない。
SNSをチェックしていると、夜勤などもはじめていたので
仕事を頑張ったのだと思いたいが、新しい女に出させていたのかもしれない。
分からないけれど、知りたいとも思わない。
すべて返済させた。
この事実だけが唯一の真実。
弁護士から、最後の完済連絡があったとき、
これが本当の終わりだと思った。
気持ちの関係はとっくに終わっていたけれど、
金銭貸借の関係だけは残っていたのだ。
それがなくなり、本当の本当に縁が切れた。
律儀に最後まで支払ってくれたので、手間がかからず済んだことは嬉しいけれど
私から借りた金額より多くのお金を支払ってでも清算したかったのだと思うと
悔しいような寂しいような気持ちだ。
完全勝利なはずなのに、漂う虚しさは未練なのだろうか。
桜が散り、厚手のコートはもういらない。
ケンと出会った季節から一年が過ぎている。
昨年の今頃はときめきの真っただ中で、私の世界は輝いていた。
ハッピーに満ちて、週に一度会えることが嬉しくて、その日のために残りの6日があった。
本当に好きだったなと今も思う。
またどこかで会ったら好きになってしまう?
きっと、ドキンと胸は大きく脈打つのだろう。
やはり好きだと思うのかもしれない。
でも、絶対に付き合うことはない。
まあ、会うこともないし、見かけても互いに避けるだろうから余計な想像なのだけれど。
弁護士が最後にメールでこう書いていた。
「確認の電話をした感じでは、今までの丁寧な感じではなく、疲れた声音だった。
懲りたという印象だ。制裁になったのではないかと初めて感じた」
そんなことはないだろうと思った。
面倒な厄介ごとから解放されて、丁寧な対応をする気遣いがなくなっただけだ。
そういう男だ。
頭の良い男ではない。
それでも、好きだった。
その過去だけは変わらない。
例え、気持ちが薄れていこうとも、記憶が薄れていこうとも。
2020年の春、私は確かにケンに恋をしていた。
だから、やっぱり「ありがとう」かな。
あのときめきを、輝く日々を貰えたことを感謝して、
いつかケンが、日々の小さな幸せが理解できる程度にはまともになってほしいと願う。