マンション玄関の植え込みのとこ。


道に迷った子犬のようにも見えるし、ふてぶてしい不良少年のようにも見える。


私がオートロックを解除すると、当たり前のように後ろについてきて、


「今日ってごはん、あんの?」


エレベーターの中で尋ねる君。



「大したもん、ないよ?」

振り返りもせずにそう答えると、


「ふーん」って。



部屋に入ると、真っ先にベッドに向かって、仰向けになって天井をみあげる。


夕飯の準備をしてると、天井を見上げながら、独り言のように君がつぶやいた。


「おまえってさ、なんにも聞かないのね。」


「急にどうしたの? とか・・・さ・・・」



「いや、話したいことがあったら話すだろうって思ってる。

 話せる範囲のことはさ・・・ 言ってくれてんじゃないの?」

私もつぶやく。



君が黙る。

私も黙る。  


台所で流れる水音だけが聞こえる。



「あのさ・・・・好きだよ」

はっきりした声で、

そしていつのまにか体を起こした君が言う。



私はやっぱり振り返らずに、流れる水だけを見つめて

視界がぼやけて、泪がこぼれた



「こっち向いて。」


「ちゃんと。


俺。


おまえのこと 好きだよ」




一語一語はっきりと、私の顔を覗き込みながら、そう言う君からは


『だから 安心して』っていう心の声が聞こえたきがした




ふたりでよく泣いた


泣いても

泣いても

どうしようもできない自分たちに

悲しくなって


また

泣いた



でもあの日

最後にあったあの日

あなたは泣かなかった

私がどれだけ泣いても


あなたは目を真っ赤にして

悲しい顔をして

それでも涙をこぼすことはなかった


「俺が全部悪いのに 俺が泣いちゃいけないんだよ」

「それはずるいだろう」



ああ・・・


もう会えないんだと思った

これが最後なんだと思った



私たちが泣いて過ごしたあの日々は真っ暗な闇のような夢で

あなたが立ち上がって前を向いたその日はあまりにも現実だった



ずっとふたりで泣いていたかった

それがふたりをつなぐたったひとつの世界のような気がして