「ここ、どこ?ボクどこいくのですか?」
まさきさんの車は会社の方へとは行かなかった。
後から聞いたらお弁当を作るために、キッチンに入ってる間にしょうさんはまさきさんとお話をしたらしかった。でも、ボクはそんなことを知らされていなくてパニックになってしまったんだ。
朝まで眠れなくて寝たふりをしていた。本当はしょうさんの腕から出るのは怖かったけど明日は出社するって言ってたからお弁当を作ろうとしたんだって思い出して起き出したボク。
しょうさんが出社するならボクも出社するのは当たり前の事。ちゃんとお仕事をしなくちゃみなさんに迷惑をかける。
少しずつお仕事を教えてくれている錦織さんや風間さんに悪い。
違う……社会人として受け入れてくれたのに子供のようなことをしちゃいけないって思ったんだ。このままおうちに逃げ込んでいれば安全だけど、そうしたらもうボクは一人では立てなくなる。
一生しょうさんの影に隠れてしか生きていけなくなる。しょうさんの重荷になる。
だからお弁当を作り出した。会社に行くしょうさんの後をついていった。
なのに……そこに待っていたのはまさきさんで、
『しょうちゃん朝イチでクライアントさんと会わなくちゃいけないから僕の車で先に行こうね』
そう言われた。
『はい!』
お弁当を持って後部座席に乗り込むとまさきさんが運転手さんに耳打ちしてボクに聞こえないようにしたときにちょっと不安になった。
けど、まさきさんだからって思ってたのに!
「か、会社に連れてってくれないならボク、ここで降ります!」
がちゃがちゃってドアを引っ張っても押しても鍵が開かない。
「ま、まさきさん!まさきさん!やだ!おろしておろして!」
「潤ちゃん、落ち着いて。翔ちゃんがね潤ちゃんを連れてきてって言ってる場所があるの」
「そんなの知らない!まさきさん!おろしてよぉ!」
声が震える。まさきさんは怖くない!でも、でも!
「こわいよ!こわいよ!」
「あー」
涙で視界がぼやけてる。
「もしもし、翔ちゃん?サプライズはおしまいにしてあげて。そう、そうなの。潤ちゃんパニックになっちゃってる。
……僕の事、怖いって……ん」
まさきさん誰と電話してるの?誰かのところに連れていくの?
「潤ちゃん」
「ひゃ!!」
「潤ちゃん、翔ちゃんだよ。代わってくれるかな?」
え?しょうさんなの?
「も、もしもし?」
『潤』
「しょうさん!」
『ごめん、昨日言っただろう?旅行に行こうって。そのためにふわりには予防注射をさせたかったし、荷物の事もあったから雅紀に言って落ち合う先に連れて来てくれってお願いしたんだよ。落ち着いて連れてきてもらって。いい?』
「う……ん」
『じゃあ、雅紀に代わって』
「は……ぃ……」
まさきさんの顔は見れなかったけど電話を渡して下を向く。膝を抱えたいけどバランス取れなくて転がっちゃうもん。お隣がしょうさんならいいけど……。
説明されたけど、やっぱりどうしても納得がいかなくて……、ボクは抱えたお弁当に顔を埋めていた。