「ごめんなさいね、失礼だと受け取らないで欲しいのだけれど最終学歴を伺ってもよろしいかしら?」
緊張でかちんこちんに固まっているボクにコーヒーを入れてくれた錦織さん。
『最初に二人でお仕事の話をしましょう。今日からやって貰うことと言っても、社長にコーヒーを運んで貰うこととお食事をお昼にするように言って貰うこと。
社長はお仕事に夢中になるとお部屋から出てこないから、私達はハラハラさせられるのよ』
そう言って会議室に二人になったけど、扉は開けたままだった。
「ボクは大学の三年の前期に大学を中退しました。経済思想を中心に過ごすつもりでしたが、一般教養と経済の基礎課程までしか学んでません。ですから、高卒レベルの知識しかないと思っています 」
でも、その高校も怖い人達から逃げ回るばかりで授業はギリギリの出席日数だったけど。
「ご両親は?ご兄弟はいらっしゃるの?」
おかーさん……おねーちゃん……。
「事情があって、両親姉共に海外で暮らしています。母の教育方針でボクは日本の教育を受けるように言われました」
これは本当だけど、全てじゃない。あんなこと言えない。
「わかりました。最後の質問です、潤さん」
「はい」
「貴方は社長と専務のことは信用しているようですが、ここではあのお二人だけしかいないわけではありません。
それを踏まえた上で答えてください。人を信用することが出来ますか?
私達は云わばチームです。心を許し合って初めてお二人の、そして会社のためにお仕事が出来ます」
じわっと汗が出てくる。もしかして錦織さんはボクのことを知ってる?
「調べさせていただきました。社長と出会うまでの貴方のこと。不幸な過去と一口で言うにはあまりにも……」
あ……。
「泣かないでください。色々とあったけど。あったけど、だからボクは翔さんに出会えたんです。ふわり、あ、猫なんだけど、ふわりにも会えたの。今ボクは幸せなの。辛かった日は終わったの。
ボクにとって翔さんは絶対で、翔さんが信頼する人を信じられないなんてことありえないの。だから、だから、ね」
静かに涙を落とす錦織さんにハンカチを渡してボクは一生懸命【幸せ】って伝えようとした。
そしたら錦織さんはにっこり笑って、
「本当に良い子ね、私の息子になって欲しいくらいだわ」
とボクの手を握りしめた。
驚いたけど、錦織さんの手は翔さんのお母さんぐらい温かくてすごくホッとしたんだ。