プルタブを開ける音と潤がシャワーのコックを回した音が重なる。
「お前が入りたいんだったらいいけど、俺のためだったら湯なんて張ることねぇぞ」
その声が聞こえているのかいないのか、水の音は止まらない。俺が帰ってくると必ず適温の湯が張ってあった。
それだって、潤が疲れて帰ってくる俺のために心を砕いてくれていたんだ。
そんなことも気がつかず当たり前の事のように受け止めていた。
何もわかってなかった。
「違うな、甘えだ。
潤がやってくれる、それに甘えて俺はありがとうという言葉すら伝えていなかった」
はあ、とタメ息を吐く。
「どうしたの?」
ビールを飲む気にもなれずソファーに埋もれていると潤から心配そうな声がかかる。
「お前、もう入ったの?」
「ううん、やっぱり翔さんに先に入ってもらいたくて……入浴剤、いつもので良い?」
手にタオルとスエットを持ち俺に差し出す。
「馬鹿……」
何だか胸がつまってしまい、その手を引いて腕の中に入れてしまう。
「翔さん、シャ、シャワー」
「うんなんだか堂々巡りだよな。
わかってるんだけど……少しの間もお前と離れていたくない」
「そんな事言って……じゃあ一緒に入る?」
クスクス笑う潤。
穏やかだ、すごく穏やかな時間だ。
いつからこんな時間を過ごしていなかったのか?
潤のこんな優しい顔も柔らかな声も全て俺が奪っていたんだな。
「ねぇ、翔さんってば。
いつまでもこのままじゃいられないでしょ?早く入ってきてって」
「……一緒に入ろうか」
「え!」
「何をそんなに驚く?一緒に入るなんて珍しいことじゃないだろ?」
「でも……恥ずかしいから……」
頬を染めて胸に顔を埋めてしまう潤の膝裏に手を差し込み、
「翔さん、翔さんってば」
じたばたする潤を湯船に沈めた。
「ば!バカ!時計、壊れちゃうよ!」
「完全防水だろ?」
「これアンティークだよ、絶対に壊れちゃう!」
怒る潤を横目に、自分の時計を外せば、
「ず、ずるい!」
びちょびちょになった潤が俺の手から時計を奪い、湯船に沈めた。
「あー!」
「完全防水だろ」
俺の口調を真似して潤がいたずらっ子のように笑う。
「はーい、そうでーす」
「バカぁ!」
「あはははは」
二人で湯船に入っているという照れを隠すように俺達は子供のようにじゃれあった。