ち、智慧様!
僕はこの身を隠したいのに潤様に「そのままでいろ」と目で言われてしまえば動くことも出来ない。
「人の情事の場に踏み込んでくるとは悪趣味だな。
出ていけ」
「ふふふ、出ていくのはそこのみすぼらしい子供ではなくって?」
潤様の言葉を無視して智慧様は淡いブルーのドレスの裾を翻してこちらにやって来る。
「智慧!」
苛立った潤様の声。でも智慧様は意に介さぬ様子で椅子に腰かけた。
「どうぞ、お続けになったら?
いずれ私も潤様に抱かれるんですもの、どんな風にお抱きになるかとっても楽しみ」
はあ、とため息を落として潤様が僕の上から退き、僕はベッドの下に身体を投げ、その視線から身体を隠した。
「二宮は?」
「ああ、和也は岡田と喋ってるわ。
潤様の先日のお取引先で岡田が抱いた女が、何を勘違いしたのかまた岡田に会いたいと父に訴えてきたのよ」
「あの女か・・・お前の所の親父は何と?」
「存じません。
私がとやかく言うことではございません。
男の仕事に女が顔を突っ込んで上手く行った試しが御座いませんもの」
智慧様はクスクスと笑う。
知らないわけがない。
父君を影で操っているのは智慧様だと言うのに。
父君は傀儡。
「それよりも何かお召しになったら?それとも、私と今から関係を持つ?
私はよろしくってよ。
初めてだから優しくしてちょうだいね、潤様」
ベッドに近寄り潤様の襦袢を引き、僕に見せつけるように口唇を合わせた。
少し受け口の潤様より2つ上と言う年齢の割りには幼い顔をした、けれど冷たい目の智慧様。
何度も鞭を振るわれた。
『雄でもないお前のの存在が許せない。
誰もお前は満足させることが出来ず、潤様の道具にもなりきれない。
いっそ、女なら排除してやるのに。
潤様に抱かれて喜ばせるのは私でなければいけないのよ。
優秀だと潤様の口から出る度に苛々する』
僕は昨日着ていたくしゃくしゃのシャツを抱えて、潤様のお部屋を飛び出した。