「あーばさん」
「なに、ニノ?」
楽屋で雑誌を読んでみんなを待ってたら、ゲームをしていたニノが声をかけてくる。
「昨日は充実した一日だったようですね」
「へ?」
「んふふ、さっき見えちゃいましたよ、鎖骨の下のキスマーク」
ばーっと顔に血が昇って行くのが解る。
しょ、翔ちゃんったら、やめてって言ったのに・・・。
「あ、あの、あのね・・・」
「良かった。ここの所、あーばさんスランプ期に入ってたから心配してたんです。もう、大丈夫そうですね」
ハッとする。あの時も、ニノは気が付いてくれてた。
鼻の奥がツーンとする。
「ばっか、また泣くのあーば」
「泣かないよ~」
「そんな緊張するなって」
「だって・・・」
仕事終わり、誘われるままにと言うか普通の流れになって来たって言っていいのか、翔ちゃんの部屋に来ている。
何度も来たことがあるのに、なんでこんなに緊張するんだろう・・・。
ごそごそとさっき買ってきたデリを出す翔ちゃんを手伝いたいのに、
「雅紀は座ってて」
と言われてしまえば手を出すことも憚れる。
でも・・・惣菜なんてそのまま出せばいいのに、わざわざお皿にきれいに並べてるなんて翔ちゃんぽくないよ。
翔ちゃんも緊張してるのかな?
翔ちゃんの支度が終わって、ビールで乾杯すれば、ホッと今日の疲れが取れる。
翔ちゃんもそうだと良いな。
大分ご飯もお酒も進んできたころ翔ちゃんがボソッと言った。
「今日、ニノに怒られたんだ」
翔ちゃんが苦笑いする。僕は眼が点になる。
「なんで?」
「『いい加減な気持ちであーばさんに手を出したんだったらぶっ殺す!私の大切な人ですからね』って襟首掴まれたよ」
に、ニノ・・・。
「でもね、ちゃんと言ったよ、雅紀は俺にとっても大事な恋人だって」
にこって笑った翔ちゃんがだんだん歪んで行って、
「ほら、ニノにも言われてただろ『泣き虫』って。それ、頑張って治せ」
と抱きしめられた。
コンコン、と言う音と共に扉が開き翔ちゃんが入ってくる。
「あ、良かった翔さん」
「おはよ、ニノ。どうした?」
「どうしたもこうしたも・・・」
ニノは立ち上がり、僕の頭をポンとたたいて、
「後は翔さんにお願いしますよ。私は席を外します」
と出て行った。
「雅紀?」
僕は下を向いたまま顔を上げられない。
「雅紀、どうした?」
後ろから抱きしめてくる翔ちゃんの手をキュッと握りしめた僕はポロリと涙を落とす。
「ニノが、ね。ニノが凄く優しくて、ね」
「ん、いつも助けられてるもんな」
翔ちゃんが優しい声で言うから、僕は涙が止まらなくなってしまった。